第二十四話【私、がおがお】
アキンドーさんたちと商談をした次の日、彼らは荷物が一杯になってしまったので、このままジャングル地方を去ることにしたらしい。
ロバの背中は品質の良い毛皮で一杯だ。
二日分の水と食料を購入してから、彼らは町を出ることになったわ。
今朝は神殿ではなく、町の別宅に泊まったので、朝の集会は無し。
代わりに集まってきた住民は私を見つけると軽く挨拶をしたあと、アキンドーさんに挨拶をして仕事に出て行ったわ。
手の空いている人はそのままアキンドーさんをお見送りのようね。
「いやいや。良い商売をさせていただきました。今度は早めに来ることにしましょう。可能な限り魔石を仕入れておきますよ」
「それは嬉しい知らせですね」
「それでは失礼いたします」
彼らの然り際、護衛の二人に話し掛けてみたの。
「ねぇ一つだけ良いかしら?」
「ん? 俺たちか?」
「ええ、冒険者……って何かしら?」
「なんだ、冒険者を知らないのか? 魔物を退治したり商人の護衛をやったり……まぁ腕っ節専門の何でも屋みたいなもんか」
「なるほど……ありがとう参考になったわ」
「別に隠してる訳じゃねぇしな」
ひらひらと手を振る冒険者の男性。
立ち振る舞いから戦闘が得意なことがうかがえる。……とブルーが教えてくれた。
私がそんなことわかるわけ無いでしょ!
「それではまた」
アキンドーさんはロバを引いてジャングルの奥へと消えていった。まだ整備できていないが橋まで道は出来ているので、来たときと同じく、苦労なく戻れるだろう。
(ダーク、アキンドーさんの後をつけて。橋まででいいわ)
こくりと頷くダーク。
「ブルー、長老会を招集して」
「わかりました」
問題が多いわねー。
私はゆっくり芸術を楽しみたいだけなのに、下準備が大変だわ……。
いえいえ、戦争より全然いいじゃないのミレーヌ! くすん。
しばらくすると長老たちが集まってきた。
「なんですじゃろ? 女神様」
「何でもおっしゃってくださいじゃワン」
「今日は何をするじゃにゃ?」
……キャラが濃いわよね、長老会って。
「今から交流のある全ての村へ使者をだすわ。三組の予定よ」
「わかりましたじゃ。すぐに精鋭を揃えますじゃ」
「ちゃんと交渉上手の人もね」
「わかっとりますじゃ」
「魔核を1つずつ持たせるわ。これと同じ物を見つけたら、こちらの鉄器や食料、毛皮などと交換するので持ってきて欲しいとお願いしてきて」
「了解しましたですじゃ!」
「まかせるじゃにゃ!」
長老会のメンバーは素早くチームを編制すると、すぐに送り出してくれた。ルート設定もお任せよ。
これでヴォルヴォッドの魔核が揃えば良いんだけどね。
「いよいよ戦闘型の決心をしてくれましたか」
「ええ。出番が無いのが一番なんですけどね」
「いえ。ご英断だと存じます」
なーんか、少しだけイヤな予感がするのよねー。
なんて考えていたからかしら、町の護衛の一人がこちらに駆け込んできたのは。
「おーい長老たち……ああ! ミレーヌ様も! 丁度良かった! 町に使者の一団が来ました!」
「使者ですか?」
「はい! 今までずっと連絡の取れなかった虎獣人の一団です!」
「それはそれは……それでは町に案内してください」
「良いのですか? 武装していますが」
「大丈夫よ、ブルー。護衛をお願いね」
「身命に賭して」
「腕自慢を集めておきますじゃ」
「お願いね」
町の中央広場、噴水の近くの公民館に虎獣人たちを招く事にしたわ。
彼らは誰も立派な肉体を持っている、いかにも戦いの得意そうな一族だったわ。
猫獣人や犬獣人と違って、動物の割合が大きいわね。体毛の多くが獣のようだった。
「……水が噴き出す石の彫刻だと?」
「建物も不思議な形ですな」
「だが、快適そうではある」
「ああ、噂通りだな」
私の風魔法が彼らの声を拾ってくる。あまり友好そうな雰囲気では無いわね。ブルーがピリピリしているのがわかる。
代表として、私とプルームさん、それにプラッツ君にも同行してもらった。
もちろんブルーは私の背後に控えている。
「こんにちは。私はミレーヌ・ソルシエと申します。この村の代表のような事をやっていますわ」
「ほう、代表自らお出ましとは。しかし女だと? 馬鹿にしているのか?」
「いえいえ、勇猛な虎獣人の者よ、間違い無くミレーヌ様は町の代表ですじゃ」
「ふむ……まぁいい。俺はティグレ・グオ・タイグー。タイグー村の長の長男になる」
「ようやくお会い出来て光栄ですわ。グオ種族の勇猛さはかねがねうかがっております」
「ふん。どうせ碌でもない噂だろう。獰猛な獣と変わらぬ種族だとな」
「そんな……」
先ほどからティグレさんを始め虎獣人が見ているのはブルーだ。本能的なのか戦士としてなのか、この中で誰が一番強いのかわかるのだろう。
もっとも私にも感じ取れるほど殺気をまき散らしているので、どうしたって注目してしまうと思うけどね。
ブルー、落ち着いてね?
「それで、今日はお互いの自己紹介ということで良いのですか? 歓迎の宴を用意させますよ」
「いや、それには及ばん」
「それではどのような……」
「この村を明け渡せ、俺たちの要求はそれだけだ」
不遜な笑みを浮かべるティグレさんに、殺気が増大するブルー。
……。
もっと気楽に生きましょうよ、お互い……。
私は内心ため息を吐いた。
がおー\(^o^)/