第一話【私、目覚める】
私は楽しいことが好き。
芸術が好き。彫刻とか絵画とか音楽とか、とにかく楽しいことがだーいすき!
だけど、長年続いた戦争で、私の好きな物はどんどん無くなっていったの!
だからもうこんな世界とはバイバイすることに決めたわ!
幸い私は生体ゴーレム造りだけは得意で、直接戦争に関わることは無かったわ。
人里離れた陸の孤島で、生体ゴーレムをひたすら作っていたの。
だけど、私の可愛いメイド人形たちが消費されていくのには、我慢出来ないわよね!
あ。
メイド人形っていうのは私の作った生体ゴーレムの名称よ。
ゴーレムとか響きが悪いじゃ無い。
魔術の腕は中の上だけど、研究は嫌いじゃ無かったから、古代の時間凍結魔術を復活させたわ。
……。
正直成功するかは未知数だけど。
でも良いの!
楽しみがないこんな世界で生きるくらいなら、私は賭けるわ!
戦争の無くなった世界に旅立つことを!
みんなさようなら!
一人逃げる私を許してね!
……。
まぁ、逃げた先で苦労するつもりはないんだけどね。
だって私にはメイド人形があるんですもの!
「ブルー!」
私が呼ぶと、特別製のメイド人形であるブルーが部屋にやって来た。
青い長髪、青い瞳のメイド人形である。
そこっ!
名前が安直とか言わない!
覚えやすいでしょ!
ちなみいブルーはおっぱいが大きくて腰は細い。
いわゆるボンキュボーンだ。
……私のコンプレックスじゃ無いわよ?
私だってそこそこ良いプロポーションしてるんだからね?
「準備は出来てる?」
「はい。ミレーヌ様。完璧です。ですが本当にやるんですか?」
「ええ! 私の決意は変わらないわ! 平和な世界で芸術を愛でながら、楽しく暮らすの!」
「……わかりました。どこまでもお供しお守りします」
「うんうん。ちゃんと守ってね」
「はい!」
本当は万能型であるハウスメイド型だけでは無く、農業型や戦闘型も一緒に時間凍結したいのだけれど、とっくに戦争に徴収されてしまった。
戦争許すまじ!
「せめて魔核があればねぇ」
「そうですね。しかし戦争で枯渇していますから」
「本当に戦争はろくでもないわね」
「はい」
魔核は魔物や魔力の濃い地脈近くで取れる、魔力の結晶の事だ。
これがあれば、私のオリジナル魔術でメイド人形を色々と作り出すことができる。
「まああなたさえいれば、なんとかなるわよね?」
「もちろんです。たとえどんな事になってもミレーヌ様をお守りします!」
彼女の決意は本物だ。まぁそう作ってるんだけどね。
それでも長年一緒にいるから、かなり個性が出ている。ちょっと過保護で心配性過ぎるのが玉に瑕なくらいだ。
「じゃあ行きましょうか! 戦争の無い世界へ!」
「はい!」
そうして私たちは、強固に作り上げた、石造りの地下室へと降りていく。
綺麗に磨かれた石畳に描かれた複雑怪奇な魔方陣が、淡い緑色に発光していた。
「じゃあ服を脱いでね。魔方陣内の情報量は少しでも少ない方が良いの」
「わかりました」
私もずばっと服を脱ぎ捨てて、ブルーと一緒に並んで横になる。
「それじゃあ発動するわよ! ……時間よ! 止まれ!」
……発動ワードなんて何でも良いのよ。
時間があれば美しい詩にしたんだけどね。
そうして。
——私の意識は暗闇に閉ざされた。
◆
——。
私の意識がゆっくりと覚醒していくのがわかる。
えーっと、私は誰でここはどこだっけ?
なんてね。私は……ミレーヌ・ソルシエ。
ぴっちぴちの19歳!
……嘘です22歳です。
可愛くて、ボンキュッボンのお姫様よ!
ごめんなさい。
お姫様じゃなくて、お姫様みたいに楽に生きたいだけでした。
うん。記憶は大丈夫そうだ。
とりあえず、私は時刻魔法を唱えると、現在の年月日を知った。
一応200年を設定したんだけど……。
私は三度、年月日を確認した。
2000年が過ぎていた。
……間違って0を多く設定しちゃったとかじゃないわよね?
◆
「……おはようございますミレーヌ様」
私が少々凹んでいると、ブルーも身体を起こした。
「うん。おはよう。えっとね、あれから2000年経っちゃったみたい」
「理解しました」
「したんだ」
物わかりが良すぎるでしょ。
まぁ説得する手間が無くて良いけど。
折りたたんで置いておいた、ホコリだらけの服を手にしたら……崩れ去った。
うん、それはそうよね……。
「とりあえず、外に出て、服を探しましょう。裸は落ち着かないわ」
「わかりました」
靴すら無いので、ブルーが私をお姫様だっこして運んでくれた。
私たちは石の階段を昇って地上へと出る。
もともと戦争対策で作った待避所なので非常に深い。
地上に出たら、美しい芸術品を愛でたり、ドール・メイドを愛でたり(見て楽しむのよ?)、音楽を聴いたり、美味しい物を食べて暮らしましょう!
魔核さえ手に入ればきっとなんとかなるわ!
今度こそ怠惰の日々を漫喫するわよ~!
長い階段を昇ると、出入り口の辺りは思いっきり崩れていたが、ブルーが頑張ってどかしてくれた。
優秀なのだよ。ふふふ。
眩しい太陽光が差し込んでくる。
目を細めて外に出ると……。
そこはジャングルだった。
「……家は?」
「見当たりません。ですが土台になっていたと思わしき石組みが残っています」
ブルーに言われて、その辺りを見回すと、確かに草に紛れて石の土台らしき物が見え隠れしていた。
「え? なに? 野盗にでも襲われて火でもかけられたのかしら?」
充分あり得る話だ。
「元々人が立ち入れるような立地とはかけ離れた、陸の孤島でしたから可能性は少ないかと。2000年の間に風化したものと推測します」
「そういえば、人の住まない家はすぐに悪くなるって言うわよね」
まあ無い物はしょうがない。それよりも。
「ねえ、服がどこかに無いかしら?」
「探してみます」
ブルーは私を近くの倒木に座らせると、辺りをくまなく探したが、人工物は何一つ見つけられなかった。
「ねえブルー」
「はい」
「これってすごく大変なんじゃ無いかしら?」
「同意します」
うん。
これ、大変な事になっちゃったわ。
こうして私たちのサバイバルは始まった。
全裸で。
夢の自堕落生活はちょっと先になりそうだった。
全裸で\(^o^)/