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アリステレスは普通に暮らしたい  作者: マンダイ
第一章 ドリント良いところ、一度はおいで
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第四話

友人から「主人公は異世界に転生じゃなくて転移というか、憑依したんでしょ?じゃあ、何で題名が転生領主は普通に暮らしたいなの?」という指摘をされたので、確かにと思って急いで変更致しました。

……うっかりって怖いね(´・ω・`)






 ーーー大変です兄貴、事件発生です。


 いや、私に兄弟や姉妹なんて居りはしないのだが、そんな突拍子もないことを考えてしまうぐらいには今の私は追い詰められていた。


 と言うのもーーー


「ご主人様~♪」

「あぁ、今日もご主人様は美しいですわ……」

「キャー!カッコイイー!!」

「ご主人様、どうか愚かな私めをお仕置きして頂けませんか?」


 今、私は数人の女の子達に囲まれている。繰り返す、今私は女の子達に囲まれているのだ。


 たったそれだけなら、世に居るほとんどの男性諸君から「ふざけんな羨ましいぞコノヤロウ」などと言われてしまうかもしれないが、先の会話で分かる通り私の側に居る女の子達は少しばかり(若干一名は確実にだが)普通じゃない。


 具体的に言うなら、全員目が血走っているのだ。まるで狩りをしている肉食動物のような目である。


 そんな女の子達に囲まれて、素直に喜べる男は果たしてこの世に何人ぐらい居るのだろうか?少なくとも私は怖くて仕方ない。


「すまない、そろそろ注文を頼みたいのだが……」

「注文ですね?じゃあ、折角なので私がご主人様に料理をアーンしてあげますね!」

「あぁ、そんな、いけませんわご主人様。私をお食べになるだなんて……」

「何を注文なさいますか?おすすめは……ワ・タ・シ♪」

「お食事全裸プレイ……ハァハァ……」


 勇気を出して注文を頼もうとしたら、返ってきた言葉がこれである。


(……来る店を間違えてしまったな)


 今さらながら頭の中で後悔をしつつ、私は数十分前の事を思い出す。








 ▼▼▼








 額を合わせた少女が気絶してから何か色々と意味不明な空間が出来つつあった時、不意に店のドアが大きな音を立てて開き、青空を眺めていた私は音が聞こえてきた方へと意識を向ける。


「うちの従業員に手を出したクソ野郎は何処のどいつだ!!」


 店の中から出てきたのは私と同じぐらいの身長をした大柄な男で、その手にはかなり大きな斧が握られていた。


「うちの従業員に手を出したヤツはただじゃおかねぇ!!必ずぶち殺してやらァ!!」


 顔を憤怒の形相に歪めた男を前に、その場に居た野次馬達はさっと目を逸らし、かく言う私も目を逸らした。


 これは別にその男が怖くてやった訳ではない。ただ、そうしなければ目に入ってしまうのだ。


 ……男が着ているぴちぴちのメイド服が。


「……フォーカス」

「あァん!?」


 あまり話し掛けたくないのだが、現状をどうにかする為に名を呼ぶと彼ーーーフォーカスは直ぐに私の方を見て、その顔に浮かべていた怒りを一瞬にして消した。


「あら~!アリステレスちゃんじゃない!!」


 先程までとは一転して女言葉で話ながら嬉しそうな笑みを浮かべている彼に、私はなるべく服を見ないように集中力を顔だけに向けて言葉を掛ける。


「久しぶりだな。元気そうで何より」

「もっちろんよ~。元気も元気、超元気なんだから!」


 そう言って笑う彼に、正直なところ私は吐き気を覚えていた。


 禿げたおっさんがぴちぴちのメイド服とレースの付いたカチューシャを着ており、しかも女言葉で話すのだから吐き気を覚えない方がおかしいと、個人的にはそう思う。


「それはそうと、アリステレスちゃん。うちの従業員に手を出したバカ野郎を見なかった?」


 相変わらず嬉しげな笑みを浮かべている彼だが、その瞳には怒りの炎が燃え盛っているのが見えた。


 彼が言うバカ野郎とは、この状況からして恐らく私なのだろう。


 ……女の子を心配してのことから行った行動が、まさかこのような羽目になるとは。


「すまない、フォーカス。貴公が探している人物は恐らく私だ」

「は?アリステレスちゃんが?いや、どう考えてもありえないんだけど……本当にそうなの?」

「あぁ、実は……」


 さっきまで起きていた出来事の発端と事情を説明すると、彼は呆れたように握っていた斧を下ろした。


「アリステレスちゃん……あなたそういう所は相変わらずなのね……」

「んん?」


 どうして私が呆れられているのかは分からないが、誤解が解けたようで何よりである。


「それにしても貴公、ソレを持ってきてどうするつもりだ?」

「あら、そんなの下手人の脳天をかち割る為に決まってるじゃない」

「もしそうなったら、貴公を捕まえなければならなくなるな」


 彼が持っている斧を指差しながらそう言えば、とても真剣な声で殺人宣言をし出したので慌てて止める。


「冗談よ。せめて四肢の一本をもぎ取るだけよ」

「充分ダメだ」


 知り合いを捕まえるのはなるべく御免被りたいが、彼があれだけ怒るということはそれだけ従業員を大切にしているということであり、その従業員が傷つけられようものなら間違いなく傷付けた犯人を必ず見つけ出してから殺すだろう。


「さて、じゃあアタシは店の中に戻るけど、アリステレスちゃんは勿論来るわよね?」

「……あぁ」


 一瞬、今日だけは飯抜きで街の警備をした方がいいんじゃないか、という考えが脳裏に浮かんだが、折角ここまで来たのだから寄っていくことにした。


「ふふっ。じゃあ、いつものように個室を用意しとくわね♪」


 フォーカスはそう言い残し、未だに意味不明な言語を口走っている少女とビンタし続ける少女の頭を軽く叩いて正気に戻してから、気絶している少女を担いで店の中へと戻っていった。


 正気に戻った二人の少女も、私に向けて一礼してから慌てて彼の後を追うかのように店の中へと入っていき、私もその後を追って中へと入った。








 ▼▼▼









 ……そして現在、肉食動物達の中に放り込まれた草食動物のような気分を味わっている訳なのだが。


「私にばかり構ってないで、他の客の相手をしてきたらどうだ?」

「いえいえ、私達フォーカスさんからアリステレス様が退屈しないように相手して欲しいって頼まれてるんです」

「だから、ご主人様は気にしなくても大丈夫ですよ」

「それに、私達はアリステレス様と一緒に居たいからここに居るんです」

「そういうことで、お仕置きしてくれませんか?」


 言葉だけなら、最後の一名を除いた他三人は男として非常に嬉しいことを言ってくれているのだが、その絶対に逃がさないとばかりにギラギラと輝く瞳で台無しである。


 ここから逃げるべきか私が真剣に悩み始めた時、不意に部屋の扉が開いた。


「お待たせ~。腕によりを掛けて作ってきたわよ~!」


 そう言って入ってきたのは案の定フォーカスであり、その手に持った皿には見るからに出来立てほかほかなミートパスタが乗っていた。


「はい、どうぞ。温かい内に召し上がれ♪」

「う、うむ」


 目の前の机に料理を置き、何処から取り出したか分からないが木製のフォークを私に手渡した。


(いただきます)


 心の中で呟いた日本独自の言葉。当然この世界では飯を食べる前にいただきますと言う者は居らず、代わりに何処ぞの神様に祈りを捧げてから食べ始める地域の方が多い。


 気分だけなら外国に来たみたいなのだがな、と思いつつミートパスタを一口食べる。


 ーーー次の瞬間、私の口の中に味覚の革命が起きた。


 噛みやすく丁寧に作られた麺、ほんのりと香るトマトの風味、味付けが確りと施されたミートソース。


 一つ一つの具材が絶妙に絡み合い、料理の味を何倍にも引き立てる。


 これこそ正に完璧な料理。この世界でこれ程美味しい物を食べたのはそう何度も無いだろう。


「ーーー実に美味だ」


 ただ一言そう呟き、私は心ゆくまでこの料理を堪能し続けた。







 ▼▼▼







「ありがとう、フォーカス。貴公の料理を食すことが出来て本当に良かった」

「あら、嬉しいことを言ってくれるじゃない♪」


 あの後、料理を食べ切った私はフォーカスに代金を渡して直ぐ様店から出ようとしたのだが、何故かフォーカス自身が見送りをしに来ていた。


「そんなにアタシの料理は美味しかった?」

「あぁ、とても素晴らしかった」


 あの料理を食べた感想としてはそれしか言い様が無かった。


「なら、毎日来てくれてもいいのよ?アリステレスちゃんなら特別に料金を取ったりしないから」

「いや、それはダメだ。客商売をしている以上、例え知り合いが客として来たとしても他の客と同じように扱わなければならない。それにだ、商売をしているのに客から金を取らなくてどうすると言うのだ」


 懐事情的には有難い話ではあるのだが、いくら知り合いとは言え常識的に考えて依怙贔屓はダメだろうに。


 ……そもそもな話、領主()がそんなことをしていたら普通にアウトな気がする。


「確かにそうね。でも、アタシが今こうしてられるのはアリステレスちゃんのお陰じゃない?だから……」

「いや、ダメだ。断固として拒否する」

「もう、相変わらず真面目さんなんだから」


 私が受け入れないことを理解したのだろう。フォーカスは困ったように笑った後、腰を曲げながら頭を下げた。


「ご来店ありがとうございました。またのお越しをお待ちしています、アリステレス様」

「……うむ。またいつか来る」


 ……真面目な態度もやれば出来るのだから、服装も真面目になってくれればいいのに。


 頭を下げる彼の姿を見て、そんなことを思いつつ私は店を後にした。



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