第三話
一話分で6000文字とか5000文字を書くよりも、3000文字二話構成で書いた方が遥かに楽であることに少し前に気が付きました(´・ω・`)
それと、こんな初心者が書いた小説をブクマしてくれた皆様ありがとうございます!
これを糧にこれからも頑張ります!
ーーードリントの街には4つの区画がある。
中央にある大きな広場から北東、南東、南西、北西の4方向へと大通りが伸びており、北には冒険者ギルドなどの冒険者に関連する建物が多い冒険者区、南には鍛冶屋や大工などの職人達が店を出している鍛冶区、東には住民達が暮らしている住居区。
そして最後に残された西には、客商売を重点的に行う店がずらりと並んだ商業区があり、この4つの区画を囲むようにして高さ数メートルにも及ぶ壁が置かれている。
上から見れば、個人的には駐停車禁止マークのようにも見えるであろうと思っているドリントの街ではあるが、その大きさと広さはかなりのものである。
街の隅から隅までいったいどれくらいの距離かも分からない場所を歩き回った場合、どうなってしまうかなんて容易に想像が着くだろう。
つまるところーーー
(腹が減ってきたな……)
私は今、空腹と少しばかりの疲労を負っていた。
今日の朝から時刻は幾らか過ぎ、今の時刻はちょうど昼前。だいたい腹の虫が空腹を訴え始める頃合いである。
(しまったな。いつもは携帯食料を持ってる筈なのだが……)
懐をいくら探った所で食料らしき物は何も無い。どうやら持ってくるのを忘れてしまっていたようだ。
この街の警備を始めてから数年。最初の頃と比べたら疲れの度合いは格段に減っているが、この空腹感だけは何年経ったとしても変わることが出来ない。
(仕方ない。何処かで休憩がてらに昼飯でも食べるとしよう)
手に持っていた剣を地面に突き刺し、懐から財布を取り出して手持ち金を確認したところ、一食分くらいなら普通に問題は無いようだ。
さて、じゃあ飯でも食べに行こうかーーーと、気楽に行けないのが私の辛い所である。
と言うのも、私がそこら辺の飲食店に入った場合、その店で料理を食べていた者達が私の姿を目視した瞬間一気に騒然となり、辺りに居る無関係な人々に迷惑が掛かってしまうのだ。
これは屋台でも同じであり、必ずと言っていい程に誰かに迷惑を掛けてしまうだろう。
……特殊な性癖でも持ってない限り、誰も数人~数十人単位の命乞いなんて見たくないだろう。
という訳で、財布と盾を持ちながら昼飯をどうするべきか悩むこと数分。ふと、私の脳裏にある店のことが浮かび上がってきた。
その店は勿論飲食店であり、値段は少し高いもののちゃんとした美味い料理が出され、しかも個室があるおかげで私が行っても誰にも迷惑が掛からないという、まさに夢のような場所である。
だが、私としてはその店に行くのはあまり気が進まないのが実情だ。
かと言って、このままでは昼飯抜きとなってしまい、午後からの街の警備に支障を来す可能性もある。
(家に戻って飯を頼む……はダメだな。突然過ぎて料理人達に手間を取らせてしまう)
仕方ない、腹を括るか。そう覚悟した私は、財布を懐に戻してから地面に突き刺していた剣を抜き、件の店に向かって歩き出した。
▼▼▼
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!今日は日常に役立つ新しい商品を紹介するよー!!」
「なんとこの野菜、今朝取れたばかりだからすごく新鮮!しかも今が旬だから凄く美味いというのに、値段は非常に安い!新鮮、美味い、安いの三拍子が揃った新春野菜!!早くしないと無くなっちゃうよー!!」
「いらっしゃいませーーーーーー!!!」
大通りを往来する人々の足を止めさせる客引き達の元気な声が至る所から響き渡る。
ここはドリントの商業区。主婦が買っていく野菜や肉類などの素材を取り揃えてる店から始まり、冒険者達が英気を養う為に訪れる酒場など、多くの店がこの区画には存在している。
ドリントの住民達からは『欲しい物は商業区に行けば大抵見つかる』とさえ言われている場所ではあるが、そんな中でもかなり異色を放つ店があった。
その店の外見は何処にでもある酒場のように木造で作られた建物であり、可笑しいような所は何一つさえ無い。
だが、その店の前。強いては店の前に立っている数人の少女達が着ている服が何よりも可笑しかった。
白いフリルの付いた黒いスカート、飾り付けられた白いエプロン、頭の上で風に吹かれゆらゆらと靡く白いレースを付けたカチューシャ。
この姿を見たとき、誰しもこう言うだろう。
ーーーメイドさんだ、と。
「いらっしゃいませ、ご主人様♪メイド酒場『アリス』へようこそ!」
可愛らしい笑みを浮かべながら、スカートの裾を持って丁寧にお辞儀をするその姿は正しくメイドであり、その様子に心を奪われた一人のお客様が店の中へと入っていった。
その後ろ姿を見届けた後、可愛らしい笑みを浮かべていたメイドは深いため息を吐いた。
「はぁ……何であんな見るからに下品な男をご主人様呼びしなきゃいけないのかしら」
「ちょ、それは言っちゃいけないお約束でしょうが」
面倒くさそうに呟くメイドに、直ぐ側に居た他のメイドが突っ込みを入れる。
「だいたい、何でほとんどの男共は会って直ぐに女の胸や足を見たりするのか分からないわ。バレてないとでも思ってるのかしら?」
「仕方ないじゃない。男ってのはバカな生き物なのよ」
口をなるべく動かさず、物凄く小さな声で会話をしている為、周りからは見るからに美しいと言える美少女達がニコニコとしているようにしか見えず、まさか平然と毒舌で話し合ってるなんて誰も思いやしないだろう。
……もしもさっき店の中へと入っていった男がこの事実を知ったとき、間違いなく号泣するに違いない。
「あ~あ。良い男と出会いたいわ~。具体的にはアリステレス様とか」
「いやいや、流石にそれは無理でしょ。私もアリステレス様みたいな人と出会いたいけどさ~」
彼女達が無駄に高等な技術を使って話していると、不意に横から声を掛けられた。
「ーーーすまない。個室は空いているだろうか?」
また新たなお客様が来たと思い、二人のメイドは顔に可愛らしい笑みを張り付け、対応しようと横に振り向きーーー直後、張り付けていた笑みが崩れ去った。
何故なら、そこに居たのは彼女達が会いたいと呟いていた本人ーーーアリステレス・マクガイアの姿があったのだから。
「む?どうしたのかね?」
笑っていた表情から一変、まるで幽霊にでも出会ってしまった時のように呆然となっている少女達に対し、アリステレスは声を掛ける。
しかし、全くと言っていい程に反応しない少女達の様子に頭の中で疑問を浮かべ、小首を傾げながら一番近くに居る少女へと一歩近付く。
そしてーーー
「ぁーーー」
「ふむ、熱は無さそうだが……」
アリステレスは少女の額と自分の額を合わせた。
……一応弁明しておくが、アリステレスは少女達のことを本気で心配したが故に起こした行動であり、手で体温を測る為には籠手が邪魔しているので、必然的に肌が露出している頭の何処かでやらなければならず、なし崩し的に額を合わせるしか無かったのである。
だが、ここで一つ思い出して欲しい。中身はどうであれ、アリステレスは美の究極と呼ばれる程に美しい容姿を持った男である。
そんな男が目の前に現れただけでも驚きだと言うのに、額を合わせたが為に物理的に顔との距離が間近まで狭まれてしまった。
さて、そんな状況。まだ年端もいかない少女達がどのような行動を取るのか、順に見ていこう。
「ーーーきゅう」
まず一人目、気絶。
「あわわわわわわ……」
二人目、顔を真っ赤に染めながら意味不明な言語を繰り返す。
「て、店長ぅー!直ぐに来てくださーい!!」
三人目、店長を呼びに店の中へと退避。
「だ、大丈夫か!?しっかりしろ!致命傷だが死ぬんじゃないぞ!!」
四人目、気絶した少女を介護しようとして逆に介錯になりかける。
以上、アリステレスと額を合わせていた少女が気絶してからの流れである。
「あわわわわわわ……」
「死ぬな!死ぬな!!結婚も出来ずに死んだらダメだ!!」
「」
意味不明な言語を繰り返す少女。気絶している少女に向けて力強い往復ビンタをし続ける少女。気絶している間に頬に真っ赤な紅葉を現在進行形で幾つも作られている少女。それを遠巻きから見つめる周囲の人々。
「……………………」
そんな中心に居るアリステレスは、内からこみ上げてくる何かを抑えつつ、死んだ魚のような目で何処までも晴れ渡る青空を眺めた。