第八話
皆様お久しぶりです。ようやくインフルエンザから復帰しました( ´∀`)
休んでいる内に貯まった仕事を片付けなければならず、忙しく働く毎日を過ごしている中で、私は思いました。
……次からはちゃんと予防接種を受けよう、と(´・ω・`)
『狩りの森』。正式名称は『アトピカの森』。
それはドリントから出て徒歩数分も掛からない場所にある広大な森の名前。そこにはゴブリンやスライムなどの弱小モンスター達が大量に生息しており、冒険者達が金を稼ぐ為に必死になって毎日モンスターを狩る様からその森は通称でそう呼ばれている。
『ダンジョン』と呼ばれる様々なモンスターが蔓延っている場所と比べたら危険度はそこまで高くなく、油断や慢心をしてモンスターに襲われたり、道に迷ったりしなければ普通に歩いてドリントに帰ってこれる。
仮にもしも何かしらの事態が起きたとしても、森の所々に『エリアセーフティー』という魔法によってモンスターを近付けさせない広場があるので、そこに入ればまずは安心出来る。
『エリアセーフティー』のおかげで冒険者だけでなく普通の一般市民でも薬草などを安心して取りに行くことが出来るのだが、何も安全という訳ではない。
例えどんなに弱いモンスターであっても、モンスターが出るということは危険に繋がる。
たった一瞬の油断。それで命を落とす者を私は何人も見てきた。
何人も、何十人も、数え切れない程の人々が死んでいく様を、死んだ報せを聞いて泣き崩れる家族や知人の姿を、私はこれまでたくさん見てきた。
ーーーその中の一人に、少女の顔が浮かび上がる。
「っ……」
少女が誘拐された報せを聞いた時、私の心は凍土に放り込まれたかのように凍り付き、頭の中が一瞬だけ真っ白になったが、スイッチを変えるかのように意識を切り換え、深呼吸をして冷静になる。
「……今日の昼頃から少女が誘拐された時までの状況を教えろ」
「は、はひぃ!!」
自分でもゾッとするぐらいの冷たい声に、メイドは軽い悲鳴を上げながら今日の昼頃から少女が誘拐された時までの状況を語り出した。
メイドの話によると、少女とクラスターは昼頃に帰ってきたが、クラスターは何かしらの用事が出来た為に少女の世話をメイドに任せて屋敷を出たらしい。
それで、少女の世話を任されたメイドは少女と一緒に昼食を食べた後に中庭で鬼ごっこなどの身体を使った遊びを夕方頃までし続け、疲れきってしまった少女はその場に寝てしまった。
さすがに外に居る中で寝ては風邪を引くと思い、メイドは少女を連れて部屋へと移動。窓締めを確認すると共に少女をベッドに寝かせてから、部屋を出る。
その際、少女が何時頃に起きるのか分からないので、少女の分の夕食を作り置きしておいてほしいことを厨房に居る料理人達に伝える為に食堂へと向かう。
食堂に着いてそのことを料理人達に伝えた後、メイドはしばらく休憩していた同僚達に混ざって紅茶を楽しんでいたが、夕食の時間になったことにより少女が起きているかどうか一旦確認しに部屋へと戻る。
入る前にノックをしたり声を掛けたりしてみたが部屋の中から反応は無く、まだ寝てるのかと思ってメイドが部屋に入れば、閉じていた筈の窓は開いており、ベッドに寝ていた筈の少女の代わりにこの紙がベッドに置かれていた。
これがメイドの証言であり、話を聞き終えた私はまず最初に内部の人間による犯行である可能性が高いことに気が付いた。
この屋敷には何十人もの使用人や料理人達が働いている。そんな中で誰にも気付かれることなく、犯人が外から屋敷の中に入ってくるというのは不可能に近い。
それに、例え入れたとしても少女がどの部屋に居るかなんて分かる筈も無いので、外部からの人間が屋敷に侵入したという線はかなり薄くなる。
外部からの人間による犯行が難しいのを考えれば、必然的に怪しくなるのは内部の人間だ。
この屋敷で働いている者ならば誰もが少女のことを知っているし、使用人ならば少女の部屋が何処にあるかも、何時頃に多くの者達が休憩に入って人の目が薄くなるのかも把握しているだろう。
それなら外から入ってきた人間が屋敷の中に入らずとも、内部の人間が部屋の窓を開けて寝ている少女を外に居る人間へと渡すことも可能だ。
少女を誘拐、もしくはその手伝いをしたのはまず間違いなく内部の人間。ある意味確信にも近い考えを頭の中に思い浮かべつつ、私はひとまず今の状況をどうにかするべきにした。
「マリアとクラスターは居るか?」
「メ、メイド長は今食堂に集めた屋敷に居る者達の個人確認を行うと共に、当時屋敷に居た者達が何をしていたのかの調査を行っており、クラスターさんは少し前に帰ってきましたが直ぐに警備隊の方へ報せに行きました!」
マリアとクラスターに内部の人間から誰か居なくなっていないかの確認と事件当時の調査、警備隊への報せをしてもらおうと思っていたが、既に動いていたようだ。
「クラスターが少し前に報せに行ったのならば、もうしばらくで警備隊の人間がこの屋敷に来る筈だ。その時までに屋敷に居る者達の個人確認と調査を終わらせ、警備隊の者達に報告するようマリアに伝えろ」
「はい!」
メイドに指示を出した後、私は玄関の扉を直ぐに開ける。
外はまだ真っ暗であり、明朝まであと何時間もあるだろうが、『狩りの森』の何処に少女と犯人が居るか分からない以上残された時間はそんなに無いだろう。
「私はこれから『狩りの森』へと一人で向かう。下手に大人数で行くと犯人を刺激しかねないので、私が合図を出すまで絶対に森の中に入ってくるな、と警備隊の者達に伝えておけ」
「えっ、ちょ、アリステレス様ぁ!?」
後ろから聞こえてくるメイドの驚く声を無視して、私は『狩りの森』目掛けて全速力で走り出した。
▼▼▼
「ど、どうしよう!?こんなの予想外なんだけど!?」
アリステレスが走り去った後、一人玄関に取り残されたメイドは心底慌てていた。
「まさか夜の森に一人で行くなんて……しかも『魔除けの護符』や灯りになるような物さえ持ってないのに!」
メイドが慌てていた理由はただ一つ。アリステレスの心配だった。
本来の予定なら、アリステレスが帰ってきた後に『狩りの森』での情報や『魔除けの護符』と呼ばれる持っているだけでモンスターを近付けさせない便利なアイテムなどを渡す筈だったのだが、それが一気に崩れてしまった。
「ど、どうしよう……これでもしアリステレス様が怪我でもしたら、完全に私のせいになるんじゃ……」
もしもそうなってしまった場合、自分にどんな未来が訪れるのか容易に想像できたメイドは顔を真っ青にし、どうするべきか悩んでいると。
「ーーーどうしました?」
「ひゃああああああああああああああ!!??」
いつの間に居たのか、気配を一切感じさせずに一瞬の内に現れたマリアに後ろから声を掛けられ、メイドは喉が張り裂けんばかりに絶叫した。
「ごめんなさいごめんなさい!!まさかこうなるとは思ってもいなかったんです!何でもしますからお仕置きだけは許してください!!」
マリアの姿を視認したメイドは必死になって頭を何度も下げるその姿を傍から見た場合、それはアリステレスに命乞いをする者達と全く以て同じであった。
「何をそんなに恐がっているのかは知りませんが、作戦は次の段階に移行しました。貴女も直ぐに次の持ち場に就きなさい」
「えっ……?」
マリアの言葉を聞いたメイドは下げていた頭を上げ、まるで信じられない物でも見てしまったかのような表情を晒し、それを見たマリアはため息を吐く。
「アリステレス様は最強の御方。『狩りの森』に居るモンスターごときに傷を一つでも負わされることは天地がひっくり返ったとしてもありえません。だから、問題無いわ」
「それはそうですけど……」
いくらアリステレスでも、夜の森を灯り無しで探索するというのは危険ではないだろうか。
喉元まで登ってきたその言葉を発しそうになったが、アリステレスを神のように信奉しているマリアにそんなことを言ってしまえば面倒な事になるのは分かりきっているので、メイドは寸前でその言葉を無理矢理飲み込んだ。
その代わり、お仕置きをされずに済みそうだと思ったメイドは安堵の息を吐き、真っ青になっていた顔は元に戻った。
「じゃあ、私は次の持ち場に行きますね!」
「待ちなさい」
すっかり元気になったメイドは意気揚々とその場を離れようとしたが、マリアに肩をがっしりと掴まれ動きを止めた。
「アリステレス様に道具は不用であるとは言え、己の役割を果たせなかったのは事実。よって、作戦終了後にお仕置きを実行するので、覚悟しておきなさい」
「……………………」
聖母のようにニッコリと優しく微笑んでいるが目は一切笑っていないマリアを見て、メイドは今日が自分の命日であることを察し、静かに涙を流した。




