第五話
いつの間にか評価ポイントが200越えしてるのを最初に見た時、思わず狂喜乱舞して炬燵の角に足をぶつけて悶絶しました(´・ω・`)
今も足の指が痛いですが、私の心は嬉しさで一杯です。
皆様本当にありがとうございます!
剣の鍛練を終えてから時刻は幾らか過ぎ、今日の分の書類仕事を終わらせた私は食堂へと向かっていた。
(今日は商業区を重点的に警備をするか……いや、あの摘発があったばかりで悪事を働くような愚か者も居ないだろう。今日は他の区を警備するべきか)
顎に手を添えつつ今日の街の警備はどうするか考えながら歩いていると、私の直ぐ真横にあった部屋の扉が突然開き、考え事をしていたせいで危うくぶつかりそうになったがギリギリ右に跳んで避けることが出来た。
「おっと、すまねぇ坊っちゃん。まさかそんな所に居るとは思ってなかったわ」
「気にしなくていい。お互いのタイミングが悪かっただけだ」
部屋の扉を開けたのはクラスターだったらしく、少しだけ申し訳なさそうに頭を下げる彼に私はそう言った。
「それはそうと坊っちゃん、嬢ちゃんを見なかったか?さっき嬢ちゃんを起こしに部屋に行ってやったんだが、ものけの空でよ。何処ほっつき歩いてんのか今捜してるんだわ」
「ふむ?」
てっきり私が自室に戻った後にあの少女も自分の部屋に戻ったのかと思っていたのだが、どうやらその考えは外れていたようだ。
「私が剣の鍛練をしていた時はずっと木の陰から私のことを見ていたが、鍛練を終えて自室に戻った後のことは私にも分からん」
「は?何で嬢ちゃんが坊っちゃんのことを見ていたんだ?しかも、剣の鍛練ってことは日が昇って直ぐのことじゃねぇか。どうしてそんな朝っぱらからそんなことを?」
「さぁな。それは分からないが、私は貴公が昨日の内に何か吹き込んだのではないかと思っているのだが?」
この屋敷の中であの少女と一番仲が良いのはクラスターだ。そうなると、今朝の少女の行動はクラスターが何かを言ったことが原因だと私は睨んでいる。
「あん?何か吹き込んだって言われても……あっ」
頭を掻きながら首を傾げるクラスターだったが、何かを思い出したような声を上げたということはやはり心当たりがあったようだ。
「……すまん。俺のせいだったわ」
「やはりか。いったい何を言った?」
「んと……それは~……」
クラスターがあの少女に何を吹き込んだのか気になって問い詰めてみると、クラスターはとても言い辛そうにしながら答えるべき言葉を探している。
「言えないことなのか?」
「いや、そういう訳じゃないんだが……」
じゃあ、何で言い辛そうにしているのだろうか。あの少女の行動と言いクラスターの反応と言い、朝からずっと非常に気になっているのだが。
「…………」
「あぁ~……分かった。言うよ、言うから無言でじっと見つめてくんな」
私がずっとクラスターから視線を外さないようにしていると、根負けしたクラスターは昨日何があったのか言う決心をしたようだ。
「いやまぁ、これは余計なお世話なのかもしれねぇけどな?坊っちゃんと嬢ちゃんを仲良くさせようと思って、昨日嬢ちゃんに『坊っちゃんのことをしっかり見てやってくれ』って話をしてよぉ」
そう語り始めたクラスターの話を全て聞き終えた後、私はずっと思っていた疑問が解消されたスッキリ感と、あの少女との仲を改善しようとしてくれたクラスターに感謝の気持ちを抱いた。
「悪いな。本来なら私がどうにかするべきことなのに」
「礼なんてしなくていい。兄妹の仲が悪いよりも良い方が、もしも坊っちゃんに何かあった時に色々と都合が良いと思っただけさ」
口ではそう言っているクラスターだが、私が幼い頃から何年も一緒に過ごしているからこそ、その言葉は偽りだということが分かった。
私とあの少女の仲を深めたい。それがクラスターの偽らざる本心だろう。
「確かにその通りだな」
「だろう?」
そのことを敢えて指摘せずにクラスターが言ったことに同意すると、クラスターは意地が悪そうなわざとらしい笑みを浮かべ、それにつられて私の口角もつり上がったのを感じた。
「だが、あの少女との仲を深めるのは当分無理だろうな」
「まっ、そうだな」
出会った初日であれだけ嫌われているのだ。仮に私の方から少女に歩み寄ったとしても、少女は私から必ず遠ざかろうとするだろう。
あの少女が私のことを許し、こちらに歩み寄って来なければ仲を深めるのは不可能だった。
「坊っちゃんが根気よく嬢ちゃんに歩み寄るって選択肢もあるが?」
「それは愚策だ。幾ら執念深く歩み寄った所で向こうからしてみればしつこいだけに過ぎん。余計嫌われて終わるのがオチだ」
「そりゃそうか」
クラスターと私は苦笑しつつ、いつまでも廊下で話してるのもどうかと思い少女を探しながら食堂へと移動することにした。
「にしても、嬢ちゃんは何処に行っちまったのかねぇ」
「分からんが、とりあえず屋敷の何処かには居るだろう」
屋敷の門を開けるには大人の力が必要なので、この屋敷の何処かに居るのは分かっている。
ただ、この屋敷は無駄に広いせいで子供一人が隠れられるような場所は幾らでもあり、その中から少女を捜すとしたらかなり面倒でしかない。
「誰かが捕まえてくれてりゃいいんだが」
クラスターがその言葉を発したーーーその直後だった。
「キャーーーーーー!!」
食堂の方から突如として少女の悲鳴が私達の所まで聞こえてきたのだ。
「っ!坊っちゃん!」
「あぁ、急ごう」
少女の悲鳴からただ事では無いことを感じ取った私とクラスターは廊下を走り、全速力で食堂へと向かう。
時間にして僅か十数秒。慌てて駆け付けた私達の目に飛び込んできたのはーーー
「ほら!ちゃんと好き嫌いしないで全部食べなきゃダメでしょ!」
「いーやー!!」
フォークに刺さった人参を何とかして食べさせようとしている一人のメイドと、それを断固として嫌がる少女に、それを遠巻きから眺めている料理人達という、思わず肩の力が抜けそうな光景だった。
「……私は料理人達から話を聞いてくる。クラスターは少女の方を頼む」
「……おう」
お互いに何とも言えない雰囲気を感じ取り、私とクラスターは無言のまま別れた。
「……おはよう、諸君」
「あっ!おはようございます、アリステレス様!」
「「「「おはようございます!」」」」
私が声を掛けると料理人達は元気な挨拶と共に一礼する。
「大体予想はつくが……先程聞こえてきた悲鳴は何があったのだ?」
「あ、はい。実は……」
料理人達の中でも一番長いコック帽を頭に乗せた料理長から話を聞いてみれば、何ともくだらない事実が判明した。
私が剣の鍛練を終えて自室へと戻った後、少女は私の後を付けようとしたが途中で屋敷の中で迷子になり、どうするべきか困っていた時に偶然にもそこを通り掛かった一人のメイドが少女を見つけた。
少女はメイドに頼んで私の部屋に行こうとしたが、朝早くから起きたこともあって少女の腹の虫が空腹を訴えたようで、空腹だと知ったメイドは少女を連れて食堂へと移動。
食堂にて朝食を作っていた料理人達に頼んで一人前だけ先に出してもらい、それを少女に食べさせていたのだが、今日の朝食には少女の嫌いな人参が入っており、少女は人参を避けて食べていた。
ところが、そのことに気付いたメイドが好き嫌いは良くないということで少女に人参を食べさせようとしたが少女はこれを完全拒否。
まだ子を産んだことすら無いというのに若いメイドの母親魂に火が着き、何とかして少女に人参を食べさせようとし、絶対に食べたくない少女はついに悲鳴を上げて嫌がった。
……というのが、一連の経緯である。
「……これからは少女の料理だけ人参を抜いておけ」
「はっ!かしこまりました!」
再び頭を下げた料理長から目を離し、未だに戦争を続けている方に目を向ける。
「さぁ!しっかり食べなさい!」
「やだやだー!!」
「おいおい、そんなに嫌がってるんだから別に……」
「クラスターさんは黙っててください!」
料理人達と同じように、格闘する少女とメイドに加えどうしようも無い言わんばかりに首を横に振るクラスターを眺めつつ、もうどうにでもなれと私は心の中でそう思った。




