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アリステレスは普通に暮らしたい  作者: マンダイ
第一章 ドリント良いところ、一度はおいで
10/19

番外編その1

前話の前書きで書いた通り、今回は番外編です。

話の後半からグロ注意な場面が出てきますので、苦手な方はこの話を飛ばすか、気を付けながらお読みになるようお願いします( ´∀`)


それと、今回から章ごとに話を分けようと思っています。具体的には一章を九話+番外編という感じで作っていこうと思いますので、何かご意見があれば言ってください。





 1.店長と領主


「そういえば、フォーカスさんとアリステレス様っていつから知り合いになったんですか?」

「あら、いきなり何かしら?」


 それはある日のこと。アリステレスがいつものように街の警備をしていた頃、メイド酒場ではそんな会話が繰り広げられていた。


「いえ、前からフォーカスさんとアリステレス様が知り合いだって言うのは実際に見たり聞いたりしてたんで別に気にしませんけど」

「フォーカスさんがどうやってアリステレス様と知り合ったのか」

「そこんところがどうしても気になるんですよ」


 ねー、と仲良く三人で言葉を合わせた少女達に、フォーカスは何か微笑ましい物を感じる反面、どう答えるべきか困った。


「う~ん……教えてもいいけれど、他の子達には内緒よ?」

「「「は~い!」」」


 ちょうど休憩の時間に入ったこともあったので、近くにあった椅子に四人で座りつつ、フォーカスは過去の事を思い出しながら目の前で目を爛々と輝かせる少女達に語りだした。








 ▼▼▼







 ーーーあの子と最初に出会ったのは、アタシが冒険者を引退してから暫くたった頃だった。


 今はこれでもあの頃のアタシは銀級冒険者で、危険なモンスターを討伐して色々と名を馳せたこともあったのだけれど、ある時の冒険でアタシは怪我を負ってしまった。


 幸いにも腕がもげたりとか足が千切れたりはしなかったけれど、アタシの右腕はあまり動かなくなってしまったのよ。


 私の怪我を診てくれた医者の話によれば、私の右腕は一部の神経がぐちゃぐちゃになっていて、本来なら動かすことさえ出来ないのが当たり前だって言われちゃったわ。


 しかも、魔法で治すにはぐちゃぐちゃになった神経を一寸違わず元通りにくっ付き直さなければならず、もしも少しでも間違えてしまったら後から修正を利かせることが出来ない。


 魔法で治すには完璧な魔力コントロールや並外れた集中力を必要とする為、結局アタシの右腕は治すことが出来なかった。


 利き腕じゃない腕でモンスターと戦うことは出来るけど、ドラゴンみたいなのが相手だと間違いなく負けてしまうのは目に見えて分かっていた。


 だからこの際冒険者を辞めて、これまで貯めてきた貯金を使って何か自営業でも始めようと思ったの。


 でも、中々に良いアイディアが思い浮かばなくてね。元々アタシは冒険者、腕っぷし以外には料理を作れるぐらいしか出来ることは無かった。


 商人みたいに何か物を売ったりする才能は無い。大工みたいに何かを作るような才能も無い。

 何かをやりたくても何もやれることが思い浮かばなくて、どうするべきか毎日悩んでいたーーーそんな時にあの子がアタシの所へ訪ねてきた。


 まだ子供のような感覚を残していたあの子は、引退したアタシの話をギルドから聞いたらしく、是非ともアタシを警備隊の一員として迎い入れたいと言ってきた。


 最初は訳が分からなかったわ。ギルドからアタシの話を聞いたのなら、少なくともアタシがどうして冒険者を辞めることにしたのか理由を知っている筈なのに。


 そんな考えが顔に出てたのかしらね。あの子は右腕があまり使えないのは問題じゃないと言った。


「私なら貴公の怪我を魔法で治せる」。自分を自慢する訳でもなく、ただ淡々と事実だけを述べるようにしてあの子はそう言ってきた。


 今だからこそあの子は本当にアタシの怪我を治せれると分かっているのだけれど、当時のアタシにとってそんなことはどうでもよかった。


 この右腕を治すつもりは無いし、警備隊にも入るつもりは無い。アタシがそう告げると、あの子はとても悲しそうにしながら「……そうか」と一言呟くだけだった。


 けれど、あの子はそこで引き下がらないで、今度はアタシに警備隊を訓練する訓練官になってくれないか?と頼んできたの。


 流石に鬱陶しくなってきて、アタシは「なら代わりに何か新しい自営業を考えてちょうだい」って、あの子に無茶ぶりしたわ。


 そしたら、あの子は暫く顎に手を当てて考えた後に、とんでもないことを言ったの。


 ーーーメイドの服を従業員に着させた飲食店というのはどうだ?


 その言葉を聞いた時、正直私は驚くしかなかった。


 普通メイドっていうのは貴族ぐらいしか雇っておらず、平民やアタシらのような冒険者は滅多に触れ合えない。


 だから、世に居るほとんどの男性はメイドさんと触れ合うことに一種の憧れを持っているのだが、もしもそれを実現できる場所が身近にあったとしたらどうだろうか?


 きっと毎日その店に通うに違いない。そうすれば店側の方も大繁盛となるだろう。


 考えもしなかったとびきりのアイディアに食らい付いたアタシは、あの子に頼まれたことを承りつつ準備を始めることにした。


 服や従業員はあの子に頭を下げて頼み込み、店として目立つような看板なんかは自腹を叩いて大工に頼んで作ってもらい。


 そうして出来上がったのが、このメイド酒場『アリス』なのだ。








 ▼▼▼







「ちなみに、アリスって名前はあの子の名前から持ってきたものなのよ」

「「「へ~~~!」」」


 メイド酒場が出来た経緯を話した後、今度はメイド酒場が出来てからの出来事を話し出したフォーカスの言葉を、三人の少女達は休憩時間が終わるまで興味津々に聞き続けた。




















 2.愚者の末路


 ーーージョンドが次に目を覚ました時、目の前にあったのは暗闇だった。


 人の気配が存在せず、日の光が一切感じ取れない暗闇の中にジョンドは居た。


(……ここは)


 何処とも分からない場所で目を覚ましたばかりのジョンドは、とりあえず立ち上がろうとしてーーーふと違和感を感じた。


(え……?)


 両手首と両足首に着いた銀色の冷たい何か。それに気が付いたジョンドは目を凝らしてよく見てみる。


 最初は暗闇のせいでそれが何なのかは分からなかったが、数瞬後には半ば反射的に理解する。自分の手足に着いたそれがいったい何なのか。その正体を。


(鎖……だと?)


 そう、それは鎖。もっと正確に言うならば、今ジョンドの手足に着けられているのは手錠と足枷だったのだ。


 しかもよくよく見てみれば、今のジョンドの服装は布一枚で作られた服を着ているだけであり、口には猿轡みたいな物を咥えさせられていることに気が付いた。


(何でこんな物が僕に!?)


 意識をはっきりと覚醒させたジョンドが慌てて周りを見渡せば、ようやく自分が何処に居るのか理解する。


(牢屋、だって!?)


 ジョンドの目の前にあったのは固く閉ざされた鉄格子で、その中に居る自分の周りには簡易的なベッドぐらいしか無かった。


(何だよ、これ。何がどうなってーーー)


 余りにも突然すぎる事態にジョンドがパニックに陥りかけていると、不意に鉄格子の外からカツン、カツン、という音が聞こえてくる。


 何だと思って音が聞こえてくる方に目を向けた時、闇の中から小さな橙色の光が見えた。


 カツン、カツン、という音が徐々に近付いてくるに連れて、その橙色の光も大きくなっていく。


 そして、その光と音はジョンドが居る鉄格子の前まで来てーーー止まった。


「……貴方がジョンドですね?」

「ッ!?」


 突如目の前から女の声が聞こえ、ジョンドは反射的に後ろへと下がった。


「失礼。驚かせてしまったようですね」


 その声と同時に光が上へと動くと、そこには眼鏡を掛けたメイド服の女が立っていた。


「私の名前はマリア。アリステレス様に仕える従者でございます」


 マリアと名乗った女は優雅に一礼をすると、何処からか取り出した鍵を使って鉄格子を開け、手にランプを持ったまま中へと入ってくる。


「私がここに来たのは外でもありません。あの方の邪魔をしようとする害虫(・ ・)駆除(・ ・)する為です」


 一瞬、ジョンドは何を言われたのか理解出来なかった。


 だが、本能的に理解する。この女の言う害虫とは己のことであり、それを駆除するということはつまりーーー


「消えなさいゴミ虫。あの方に楯突いたことをあの世で後悔するといいわ」

「んーッ!?」


 何とかして言葉を出そうとしたジョンドだが、マリアがランプを持っていない手を振ると空中に銀色の線が一瞬だけ引かれ、それが消えると同時にジョンドの首から生暖かい赤色の何か飛び出る。


 まるで噴水のように沸き出るそれはーーー紛れもなくジョンドの血であった。


「あぁ……アリステレス様。マリアはまた、貴方様のお役に立つことが出来ましたよ。ふふ、ふふふふ」


 急速に薄れ行く意識の中、女の狂った笑い声がいつまでも耳へと残り、ジョンドはもう二度と目を覚ますことの無い闇の中へと落ちていった。

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