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 あの日を境に劇的に変化があったわけではない。顔を合わせれば普通に話すし、今まで通り仕事の事でアドバイスをもらったりもする。変わった所があるとすれば俺の意識の部分だ。見た事のない先輩の一面はより俺の中で彼女の存在を大きくした。そして、今まで以上に力になりたいと思った。


「脈ありですね、みなとさん」


 ベタ子のお墨付きももらった。幽霊から太鼓判を押されてもどうなんだという感じはしたが、元生存女子だ。見た目から判断しても恋愛感覚は俺なんかより研ぎ澄まされているだろう。


 俺はその後も何度かタイミングが合った時にユウキ先輩と仕事終わりにご飯を食べに行った。毎度愚痴を吐くような先輩ではなかったが、仕事以外のプライベートな話題も出てくるようになり、互いの趣味なんかを今更ながらに知ったりするようになった。

大いなる進歩。先輩と過ごせる時間は幸せだった。


「あ、その映画私も気になってたの。でもあれってちょっと、女の子と見に行くようなものじゃないし、DVDで我慢しようかなんて思ってたんだよね」


 話にあがったのは少しコアな映画で、大きな劇場では扱われないようなものだった。内容も閉じ込めれた一人の男が不条理な罰を受け続けるという大衆向けではないものだ。


「まさかそんな趣味があったなんて」

「引いてる?」

「いえ、最高です」

「最高か。お互い趣味悪いね」


 ふふっと笑う先輩に自然と俺も笑い返す。もう最初の頃のような緊張はなかった。


「じゃあ、一緒に観に行きます?」


 自分の言葉が完全にデートの誘い文句である事に言った瞬間に気付いて、一気に顔が熱くなった。


「あら、デートのお誘い? いいよ、行きましょ」


 しかし顔の温度が上がりきる前に、あっけなさすぎるほどあっけなく了承の返事が返ってきた。


「ま、マジですか」

「え、冗談だったの?」

「いえ、大マジです!」

「そこまでマジだなんて光栄ね。じゃあ、この日の土曜日空いてる?」

「空いてます! まるまる空いてます!」

「そんなに空いてるんだ」


 先輩はくすくすと笑った。


 ――つ、ついにデートか。


 ベタ子に押されて始まった俺の恋路は、思いの外順調に進んでいた。





 ベタ子に報告すると、彼女は満足そうに笑った。


「来ましたね、ゴールは近いですよ」

「ゴールじゃねえ。スタートだ」

「幸せになるならどっちでもいいですけど」

「これでうまくいきゃ、お前も晴れて成仏ってわけか」

「成功を祈ってますよ」

「あ、でもお前ついてくんなよ」

「えー。ちゃんと幸せの瞬間見たいですよ。っていうか見ないと私の目的達成出来ないですし」

「マジかよ。きっついな」

「お願いします。後生です」

「死んでんだよお前は。後生なんてねえ。まあでも、仕方ねえか」

「仕方ないです」

「まあ、頑張るよ」

「はい、そうして下さい。大丈夫ですよ、みなとさんなら」


 ベタ子からのエールを胸に、俺はデート当日を迎えた。


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