表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

(6)

 かくして俺の恋愛大作戦という運びになったのだが、よくこういうシチュエーションならベタ子が裏で画策して、いろいろ協力して大成功、みたいな感じになって然るべきだと思うのだが、実際そうはならない。


「いってらっしゃーい」


 ベタ子はこの件に関して驚く程協力しなかった。何も言わず、裏で動いたりもしない。

 今日はどうだった、とか聴いてくる事もあれば、今日は少し喋ったねとか進捗状況を確認するだけだ。毎度確認されるのも癪だが、知らぬ間に付いてこられてどこかで勝手に見られているのはもっと癪だった。ついてくるならせめて何か助力ぐらいして欲しい所だ。


「こんな感じかな」

「ありがとうございます! ほんと、いつもすみません。ユウキ先輩だって忙しいのに」

「いいのよ。困ってる時はお互い様じゃない」

「いや、困ってる先輩を助けてあげられた事なんて多分一回もないですよ」

「そんな事ないよ。みなと君が憶えてないだけ」


 相変わらずユウキ先輩は優しくて綺麗だ。仕事にかこつけて喋る事ぐらいしか出来ない自分が情けないが、きっかけなんて恋愛に疎い自分には思い付けなかった。

 女性への声のかけ方とか誘い文句とか、恋愛における洒落た装備は何一つ持ってなかった。こんな俺が先輩と付き合うだなんて、想像するほどに現実感がなくなっていく。こんな調子じゃ、幸せには程遠い。


「んー今週も疲れたわね」

「ようやく休みですね。やっとゆっくり出来ますよ」

「週末のご予定は?」

「いや、特にないですけど」

「あれ? みなと君、彼女とかいないの?」


 俺は思いっきり吹き出した。


「いやいや、いるわけないでしょ!」

「そうなの? もったいないなー」

「え?」

「若いんだからちゃんと女の子と遊ばなきゃ」

「ユウキ先輩だって全然若いでしょ!」

「いやいや、若いだなんて年齢じゃないよもう」


 その時気のせいか、ユウキ先輩の顔が一瞬悲しげに見えた気がした。

 ぐっと心に何かが込み上げた。ユウキ先輩は頼れる存在だ。いろんな人の力になって、いろんな人の弱音を聞いて、皆の支えになっている存在だ。

 ふいに思った。そんな先輩は、ちゃんと誰かに頼っているのだろうか。ちゃんと弱音を吐けているのだろうか。


「先輩。今日まだ時間ありますか」

「ん? そうだね」


 ありったけの勇気を振り絞る。でも力みすぎないように気を付ける。自然に。あくまで自然に。


「金曜ですし、ちょっと飲みにでもいきませんか」


 ひょっとして、ベタ子は今も見てるのだろうか。だとすれば猛烈に恥ずかしい。だが言ってられるか。この際お前の未練はどうでもいい。俺は俺の幸せの為に行動するだけだ。

 軽い誘いだ。後輩が先輩をご飯に誘う。そんなに不思議なものではない。でも俺は今軽く震えている。緊張している。断られたら、帰って泣くかもしれない。それぐらいには繊細で脆い、情けない男なのだ。


「あら、珍しい。みなと君からお誘いだなんて」

 

 ユウキ先輩は言葉通り、珍しいものを見るように目を大きくした。

 その後に続く言葉を俺は想像する。どうしても頭の中ではユウキ先輩のお断りの言葉しか出て来ない。

 ユウキ先輩の目元がすっと細まり、頬が上がった。


「いいね。息抜きも大事だよね」

 

 笑顔の先輩に俺は内心ガッツポーズを決めた。

 ベタ子が傍で「いい調子です」と言ってくれている気がした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ