矢島御所
正成(細川藤孝)の手引きにより、兄・義輝を亡きモノにした
三好・松永の追手を振り切ることに成功した金吾・秀秋(足利義昭)は京を脱出。
六角義賢の許可を得、近江の国。矢島に御所を構えるのでありました。
そんなある日のこと。
金吾:「小十郎ぉぉぉぉぉ!!!」
(離れから急ぎ駆け付け)
正成:「殿!!いかが為されましたか!?」
(部屋の様子を一瞥し、呆れ顔で)
正成:「……て、殿。また挿絵が全面。
墨で塗り潰されるようなことをされているのでありますか?」
「確かに殿はこれまで。禁欲生活を強いられる
『僧籍』に身を置かれていたかたでありましたので
その中でも本能を満たすべく苦労に苦労を重ねられ、
結果。捻じ曲がった趣味嗜好になられてしまったことは同情致します。」
「同情致しますが、殿は既に還俗され、次の将軍の地位に就くべき人物。」
「将軍となられるのでありましたら、世継ぎを設けねばなりませぬ。」
「そのようなおかたが、仏門時代の価値観そのままに過ごされてしまいますと
義教様の頃のように。周りに心配を掛けさせることになってしまいます故、
今の趣味嗜好の全てを禁じることは出来ないまでも
対象の多様化を図られますよう。お願い申し上げます。」
金吾:「……でも義教の子。義政は、世継ぎを設けたことが原因で
周りに迷惑を掛けることになったんだよな……。」
正成:「(……ん!?僧侶になって、屁理屈を捏ねることを学んだのかな?)
それはそうと、殿。先程の『小十郎』とはこれ如何に?」
金吾:「『小十郎!?』片倉のことに決まっておろう。」
正成:「殿。それは殿が『小早川秀秋』の時の趣味嗜好でありまして、
今、殿が演じているのは『足利義昭』。
室町幕府15代将軍となる『足利義昭』であります。
わかります。私のあとについて復唱してください。」
「私は15代将軍。足利義昭。」
金吾:「わたしは……じゅうごだいしょうぐん。……あしかがよしあき。」
正成:「よろしい。で。今は永禄9年。西暦に直しますと1566年であります。」
「殿のモトの姿。小早川秀秋が所望する片倉小十郎重長が生まれたのは1585年。」
「しかも彼。重長が生まれた場所は、京から遠く離れた出羽の国。」
「今の段階で殿が彼の存在を知っていることは、そもそもおかしい。」
「……と言うことを頭の隅に置いて頂きますよう重ねてお願い申し上げます。」
正成:「で。先程、(六角)義賢殿と話して来たのでありますが
義賢殿はどうやら殿(金吾)を担いで京に上るつもりは無い様子。
送り届けるぐらいのことは可能ではあるけれども
三好・松永と対立してまで殿を守るだけの余裕と理由は無いとのこと。」
「ほかの引受先を探そうか?と考えております。」
金吾:「……別にここで良いんじゃないの?」
「松永・三好もわざわざ比叡山と喧嘩してまで近江に入って来ることも無いであろうし、
なにより六角自体が強力である上、もし何かあったとしても
天然の要害に加え。変わりやすい天気が相手の行く手を阻む
甲賀の地に潜り込んでしまいさえすれば、身の安全を確保することが出来る。」
「……ここで良いんじゃないの?」
と呑気に構える金吾・秀秋(足利義昭)をしり目に、正成(細川藤孝)は
金吾を上洛させ、彼を将軍職に導く協力者を求め、各地の有力勢力に対し、
『金吾』の名を用い、手紙を送りつけるのでありました。