平泉
俘囚同士の争いに介入する形で、頼朝の祖先。八幡太郎義家が待望した奥州支配。
足掛け12年にも及ぶ戦いの全てを朝廷は義家の私戦と裁定。何も得ることが出来ず。
義家は京へ戻らなければならなくなり、空白地帯となった奥州の地を治めたのが奥州藤原氏。
奥州で産出される豊富な金に良質な馬を朝廷に献上することにより、事実上の自治を認めさせ、
17万騎と謳われる軍事力に金を背景とした経済力。
更には中央から遠く離れた東北と言う地の利を活かし、
源平の戦いにおいても中立を貫くことにより12世紀。
平泉の地を中心に栄華を極めた奥州藤原氏の中で秀衡はその3代目。
平家が滅亡し、源氏の独り勝ちとなったこと。
その源氏悲願の地である奥州を我がものとしたい頼朝による
露骨とも言える圧力への対応に苦慮しているところに顔を出して来たのが
今や『朝敵』のレッテルを貼られることとなった金吾・秀秋(義経)。
その人でありました。
(……厄介な奴が帰ってきた……。)
と頭を抱えた秀衡であったが、育ての親である手前。
むげにあしらうわけにも参らず。彼らを迎え入れる秀衡でありました。
金吾:「ただいま帰ってまいりました。」
秀衡:「西国での活躍伝え聞いておるぞ。」
「ところで金吾。そなたは京の治安維持において
法皇である後白河。兄である鎌倉殿双方から
厚い信頼を得ていたハズ。
そんな御前が何故。職務を投げ出し、この奥州の地へ戻って来たのであるのか?」
金吾:「火薬が尽きてしまいまして……。
火薬が無ければ『いくさ』に勝つことも覚束なくなります故。
その原料の確保のため、西国各地を捜しまわったのでありましたが、
どうしても煙硝を見つけることが出来ず。
かつて鎌倉に出立する際、積み込みました奥州の地であれば、
煙硝を確保することが出来るのでは?
と判断し、京を離れ。平泉に戻って参ったのであります。」
秀衡:「(……これまでの戦いぶりを持ってすれば、
相手が勝手に怖がってくれるのであるが……)
あいわかった。」
「ところで金吾よ。」
金吾:「なんでございましょうか?」
秀衡:「そなたが所望している煙硝であるが、
残念ながら奥州の地にも存在はしておらぬ。」
金吾:「では何故、火薬が存在するのでありますか?」
秀衡:「それはな……
(地図を拡げ)
北方を経由し、大陸より取り寄せているからである。
もちろん煙硝は貴重なモノである故。
タダで。
とは参らず。
この奥州の地で産出される金と交換する形で手に入れておる。」
「そなたも折角、西国に目を向けているのであったのであれば、
もう1つ西側にある大陸にまで視野を拡げれば
奥州に戻らずとも煙硝を手に入れることが出来たのであるが……
今となっては仕方が無い。」
「ところで金吾よ。」
金吾:「なんでござりましょうか?」
秀衡:「そなたは今。『朝敵』として朝廷及び、鎌倉より追われる身になっているとか。」
金吾:「そうなのでありますか?……その割にはスンナリここまで来れたのでありますが……」
秀衡:「(頼朝の狙いは金吾を奥州に入らせ、
攻め込む口実を増やすことにあるな……)
それゆえ。こちらとしてもそなたを匿い続けるわけには参らぬし、
そなたも兄・頼朝と戦いたいとは思っておらぬ様子。」
「そこでじゃ。」
「そなたに1つ提案がある。」
金吾:「なんでございましょうか?」
秀衡:「そなたの兵は、火薬さえ手に入れば無敵であろう。
ただその火薬はここ。日の本の地で賄うことは出来ない。
賄うとするのであれば海を渡らねばならぬ。
ただその海を越え、大陸に辿り着きさえすれば火薬を手に入れることが出来。
火薬を手に入れることが出来さえすれば
そなたは無敵となる。
加えてさすがの鎌倉殿であっても大陸までそなたを追って来ることは無いであろう。」
「大陸には日本とは比べ物にならぬ程の豊かな大地が拡がっておる。」
「そなたが煩わしいと感じている後白河のような人物も居ない。」
「勝ち取ったモノ全てを手に入れることが出来る。」
「本来であれば、ワシ自らが行きたいと感じているのであるが
なにぶん。ワシは齢を重ね過ぎてしまい、思うように身体を動かすわけには参らぬ。」
「そなたはまだ若い。挑戦する価値はあると思うぞ……。」
……と美辞麗句を並べたて、なんとか厄介者である金吾を平泉から追い払おうと試みる秀衡の話に
清廉潔白イメージが独り歩きし、日本での暮らしを窮屈に覚えていた金吾・秀秋は
何をやっても自由であることに感銘を受け、出立することを決意。
平泉から針路を更に北へ取り、大陸を目指すのでありました。