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酸素じかけの境界層  作者: 堀河竜
第一章 砂漠、ブルーレイクの夢
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託された使命とヴィンスの意図


数マイル先を行った後、ヴィンスは北へ向かうのを辞めてバイクから降りていた。

生物のいない砂漠の中で、ヴィンスはベル達から譲ってもらった物資を確認する。


サブマシンガン一挺、拳銃一挺……サーメートという焼夷手榴弾一個とサバイバルナイフ一本。

武器の他には食料やシュラフ、紫外線フィルターを譲ってもらっていた。

更には酸素玉も一つ物資の中に入っている。酸素残量が少なくなっていたヴィンスにとってはとても有り難い支援物資だ。


物資を確認し終えたヴィンスが砂漠の真ん中で一息つくと、唐突に上着を脱いで裸になった。

酸素玉を片手に取ると、もう片方の手を背中のオキシゲンナーへ伸ばす。

指先で機械のスイッチを押すと、オキシゲンナーの蓋部分が上方へ大きく開いた。

そして底を突きそうなオキシゲンスフィアをヴィンスの手の上へ排出する。

新しい酸素玉をその機械まで伸ばしてセットするとオキシゲンナーは自動で向きを修正して接続した。


開いた蓋を閉じて交換が済むと、ヴィンスはまた不意に手を伸ばした。

手元にあった小さな石を片手で拾うと、伸ばしている手の向こうへそれを放る。

強い気持ちを念じると手から何かの力が発生し、放った石が勢い良く弾け散った。

先日のコールドスリープ施設で放った力と同じもので、彼のオキシゲンナーだけが強く光を発していた。


「オキシゲンナー、酸素残量を答えろ」

『酸素残量九十八パーセントです』


新しい酸素玉なのに二パーセント……つまり約一日分の酸素が消費されている。

やはりオキシゲンナーが酸素を使って力を発している事は確かだった。

酸素を使った何かの力場か、酸素そのものが先程の石を吹き飛ばしたのである。


ワープゲート事故で負傷しコールドスリープに入る前にこの技術を施されたのだろうかとヴィンスは考える。

何の為にこのような力を与えられたのか定かではなかったが、それでも漠然と自らに使命を託されたという感覚だけは確信していた。



しかし、使命を果たすため北へ向かう前にやるべき事があるとヴィンスは考える。

目の前にある問題を不器用ながらも自分なりに独特のやり方で解決しなければならないと考えている。


ヴィンスの頭にあるのはブルーレイクについての情報……三人と離れる以前にセリカから確かめていた事だった。

あまり話したがらないセリカからようやく聞き出したブルーレイクの残存確率は十パーセントにも満たない。

ヴィンスの目的地の確率が五十六パーセントに対して、少なすぎる確率だった。


その情報から自らの役目を理解しているヴィンスは事の準備に入る。

まずは自らのナイフを取り出し、自らの暑苦しい髪を切り落とす。

この髪を見てすぐにヴィンスだと気付かれないために切ったが、こうして髪を軽くすると涼しくなって楽になった。


それから両方のホルスターに銃を仕舞う。

ベルから頂いた物資から使えそうなものを選んで装備する。

食べ物や生活用品などではなく戦うための武器を身に着け、ついでにミュージックプレイヤーのイヤホンを耳に着けて曲を流し始める。

画面に「Rockin Gypies」と表示された。


そうして再びバイクに跨ってローブを頭深くまで被ると、アクセルを絞って走らせ始める。

砂漠の荒野を砂を巻き上げて、ヘッドライトで道を照らしながら彼は荒野の向こうへ遠く離れていった。





レベッカ達はやはり南のブルーレイクへとトレーラーを走らせていた。

ヴィンスがいなくなった事で若干の寂しさが運転席に包まれていて、タイヤが砂を駆る音と電動エンジンだけが静かに響いている。

ヴィンスと喧嘩してしまい居心地が悪くなっていたレベッカさえも、相変わらず胸に不快感が残っていて妙な気持ちに包まれていた。


「セリカ、お前はブルーレイクがあると思うか?」


唐突にベルが尋ねた。しかしその質問にはレベッカが答える。


「どうして今そんな事を聞くの? まさか、ベルまでヴィンスみたいな事を言おうしてるの?」

「違う。ただわからなくなってきたんだよ。だからアンドロイドであるセリカに聞いてみようと思っただけだ。なんたって誰よりも"冷静"だからな」


二人の問答にセリカは黙って眺めていた。

車の振動によって短く切り揃えられた髪が小さく揺れている。

オキシゲンナーもなく呼吸さえもしないセリカはいつも通りに前方を見据えている。


「私もブルーレイクがあると判断しています。そのように皆さん方が言い伝えられてきたので私もそのように判断しています」

「そうだな。しかし……存在する確率はどうなんだ? どう分析しているんだ?」


そこまで尋ねるとセリカは返答に渋った。

揺り動く事のなかったセリカの表情が初めて曇った。


答えてはならない。

まるで誰かにそうプログラムされているかのように口をつぐんでいて、どう誤魔化すかに思考回路を巡らせている。

眉間に皺を寄せて唇を震わせて、まるで人間のように言葉を押し留めていた。



ところがその瞬間、突然爆発が起こってセリカの返答は免れた。

トレーラーの左側で起きた爆発は砂を吹き上げて煙となる。

窓からも砂が入って運転席は砂にまみれた。


「なんだ、誰だ?!」

「左を見て! バイクに乗ってる男よ!」


ミラーで姿を捉えたレベッカに言われて、ベルは銃を片手に窓から顔を出す。

するとローブのフードを深く被っている男がバイクに乗っているのが見えた。

顔がよく見えないので誰だかわからないが、サブマシンガンを片手にして銃口をこちらに向けている。


「族じゃないみたいだ……まさか一人で襲ってきたのか?」

「どうやらそうみたいね。腕に自信があるみたい」

「上等じゃねえか」


ベルが自動小銃を窓から出してローブの男へ向ける。

バイクのタイヤに向かって狙いを定めた。


ところが妙な違和感を覚えて引き金に手を掛けるのに少しばかり遅れる。

奇妙にも男の乗っているバイクには見覚えがあり、ヴィンスが乗っていったバイクだったからだ。


その遅れた隙にローブの男はサブマシンガンを片手で発砲する。

バイクを操縦しながら暴れ狂う銃を制御しているところを見ると、確かに手練れである事がわかる。


咄嗟に身を隠したから当たらなかったものの、ベルはどうして男がヴィンスのバイクに乗っているのかわからず動揺せずにはいられなかった。

もしかするとローブの男がヴィンスかもしれないと推測したが髪が短いので違うとベルは考える。


だとすればあの男はヴィンスを襲ってバイクを奪ったのかもしれない。

それほどの相手だという事をベルは認識し、強敵との戦いが始まった事を理解した。



銃撃が収まった時を狙って今度はベルが反撃する。

窓から覗かせた銃で狙いを付けて発砲するが、ローブの男はバイクをトレーラーの後方へ移動させて銃撃を避けた。


「くそ、死角に逃げやがった。グレネードで燻り出してやる」


手榴弾を取り出したベルはそのレバーを引いて窓から放り捨てる。

砂地を転がるグレネードはトレーラーの後方付近まで行くと爆発して火を噴いた。


グレネードを狙われまいと死角から出てくるかとベルは考えていたが、それでも変化はなくしばしの沈黙が広がる。


「俺を狙いに出てこない。直撃したか……?」

「いや、右にいるわよ!」


ミラーで確認したレベッカが告げる。

ベルは反対側の窓へ移動し、姿を見るため顔を出そうとしたがすぐにサブマシンガンの銃撃を受けた。

まるで顔を出すのを待っていたようなタイミングだが、すぐに引っ込めたので命中は免れた。


「ええい面倒くせえ、これでも喰らえ!」


手に持っていたもう1つの手榴弾を窓から投げる。

その手榴弾は偶然にもローブの男へ直撃する軌道を描いた。


目の前にグレネードを見た男は慌てたのか諦めたのか、片手を地面へと向ける。

何を考えているのかとベルは疑問だったがグレネードが火を噴く瞬間、なんと男はバイクごと宙へ浮いて爆発を回避した。

まるで何かの風に吹き飛ばされたように砂煙を上げながら上昇したのである。


そしてバイクはトレーラーの上に着地して再びベルの死角へ入った。

族に襲われた時にはなかった戦法にベルは振り回される。


「あいつ、今どうやってコンテナの上に飛んだんだ……妙な技を使ってきやがる」


動揺するベルだったが時間を無駄に使っている余裕はない。

急いで男を振り落とすためにベルは窓から車の外に出て、ルーフの上に立ち上がる。


しかしその瞬間、サブマシンガンの銃撃に襲われた。

ベルは前屈みに走って前方に飛び込みながら拳銃を向ける。

体がコンテナに着いた後、サブマシンガンに狙いを付けて発砲した。

ローブ男の武器は砂の上へと落ちていった。


「お前の負けだ。大人しく両手を上げて投降しろ」


銃を真っ直ぐ男へ向けながら立ち上がったベルは投降を勧告する。

優位を取ったのだからそのまま撃ち殺しても何の差し支えなかったのだが、今1つ腑に落ちない点がベルの手を止めていた。

見覚えのあるバイク、フードを被って顔を見せようとしない男……それらがベルに妙な不信感を抱かせていた。


どうにかフードを下ろして顔だけでも確認したいと考えていたが、男の次の行動によってそれは必要なくなった。


「少しあんた達を見くびっていたかもしれないな、見直したよベル」


その男の声は最近までよく耳にしていたものだった。

身近な人間の声だったので聞き間違える事はなく、ベルに一人の人物を確かに思い起こさせる声だった。


「どうしてお前が……」


フードを下ろしてローブを脱ぐと、やはり男はベルが察した通りの人物……数時間前まで一緒に旅をしていたヴィンセントだった。


更新した後に活動報告を書いていましたがこれからは日曜に書いていこうと思います。


作中に登場させた「Rockin Gypsies」は、自分が砂漠や荒野にはスペインの曲が合うように思えたので曲名だけ使用させてもらいました。

(著作権で悩んだんですが名前だけならセーフらしいです)

どんな曲か気になった方はYOUTUBEで検索すればすぐ出てくるのでポチってみてください。

この曲の雰囲気をトレースして次回も書き続けたいと思います。

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