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酸素じかけの境界層  作者: 堀河竜
第二章 海底都市、夢の空
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フンベルクの攻撃、包囲網の突破②


ここまで運んできた飛行機は直線の道路の中央に置かれ、真っ直ぐに先を向かせる。

四人がその新しい機体に乗り、バルドメロが操縦席に座っている。

飛行機の前方には、族からの弾幕を防ぐためにトラックを配置してヴィンスが乗り込んだ。

飛行機の離陸速度である120キロ以上を出せるトラックだが、その速度のままヴィンスが飛び移ると考えるとやはり普通の作戦ではないように思えてくる。

誰からしても不安な作戦ではあるが成功させると決めた作戦であり、全員決行の覚悟はできていた。


「120キロになるまで追走して、離陸したら加速してトラックを飛び越してくれ。そのタイミングで俺が飛び移る」


トラックから顔を出すヴィンスはそう叫ぶが成功するのは誰にもわからなかった。

不安なまま離陸に備えて飛行機を準備する。

電動エンジンをスタートさせると、前方のプロペラがゆっくりと動き出す。

段々とそれは速さを増していって風を切る音が高くなっていく。

電動のエンジンも小さくではあるが高回転になるほど唸るように響き始める。

やがてプロペラは目にも止まらぬ速さに達して羽根だったものは丸い形の残像にしか見えなくなった。


「まったく……乗ったことのないどころかテストもしてない機体なのに高度な技を要求しやがって」


バルドメロはそんな文句を垂れながらエルロンやラダー、エレベーターを動かしてテストする。

これからトンネル内を飛ぶと思うと、怯えているのか武者震いなのか、操縦桿を握る手が震えた。


「それじゃあ行くぞ」

「わかった。壁役もしっかりな」


バルドメロの言葉にヴィンスはサムズアップで答えると、トラックのアクセルを踏んで発進させる。

飛行機もトラックに続いて加速していき、二台続いて道路を走り始めた。


道路を進んでいって族の包囲網まで500メートルを切ると、フンベルク達もヴィンスに気付いて銃を発砲し始める。

フンベルクも側近の女も拳銃や自動小銃を構えて、何発もヴィンスに向けて銃弾を撃ってくる。


厚い弾幕を展開されて、ヴィンスの乗っているトラックはすぐにフロントガラスを割られた。

銃の底で残ったガラスを車の外に落とし、ヴィンスに向かって飛んでくる弾丸をオキシゲンナーの力で弾き、それか銃口をフンベルク達の方へ向ける。

M79という片手でも撃てるグレネードランチャーで撃ち、榴弾をフンベルクの包囲網へと放った。


爆発がフンベルクの仲間を吹き飛ばし、濃かった弾幕も一時的ではあるが薄くなる。

包囲網までの距離も200メートルと短くなり、弾丸の雨も止んだタイミングでヴィンスはトラックを右車線に移動させて脱出する。

踏んでいたアクセルの上に大きな石を置いて、ヴィンス自身はドアを開けてトラックの屋根へ登った。


空気抵抗の猛烈な風がヴィンスにぶつかってくるが、構わずバルドメロの方へ向いて合図を送る。

上を指差して「離陸しろ」と伝えた。


遂に飛行機が地を離れる時がきた。

まだ海の底に居るにも関わらず離陸速度に達している飛行機は、ゆっくりとピッチを上げていってタイヤはアスファルトを離れる。

トンネルの天井に機体がぶつからないぎりぎりの高さを飛び、壁になっていたトラックの上へ姿を現した。


「くそ、想像してた以上に難しい……尾翼擦るかもしれないぞ……」


一切の操縦ミスも許されず、操縦桿を握るバルドメロの手が震える。

しかし彼の操縦技術は確かなもので、機体はぶれることなくトンネルを飛んでいた。


一方で、初めて飛行機に乗る二人は今までにない感覚を味わっていた。


「凄い、本当に飛んでるわ……」

「車とはまた違った感覚だな」

「驚くのもいいが、弾幕を張るのも忘れずにな」


フンベルクの包囲網まで残り100メートル。

ヴィンスが一時的に止めていた弾幕もまた濃くなり始める。

トラックが壁になっていたが今は攻撃を防ぐものがなく、こちらも客席の窓から弾幕を張らなくてはならない。


操縦桿を握るバルドメロは前方のトラックを飛び越そうと飛行機を加速させていく。

ピッチもヨーもロールもぶれることなく、だんだんと近付いていってトラックのすぐ頭上に迫る。

右側の主翼にヴィンスは飛び移るようでじっとタイミングを見定める。

バルドメロの操縦技術あって、予想していたよりもずっと簡単に飛び移ることができそうだった。


ところが、ヴィンスが飛び移ろうとした瞬間、フンベルクの包囲網からRPG-7ロケット弾を構えた者が姿を現した。

フンベルクの側近だった女がヴィンスの計らいに気付いて阻止しようとしてきたのである。


包囲網の車の上からロケット弾が放たれる。

間一髪バルドメロが冷静に左へロールしたので飛行機は避けることができ、ヴィンスを狙った弾も頭を掠めたが、ヴィンスが飛び移るタイミングを失ってしまった。


ヴィンスがトラックに乗ったまま、離れていく飛行機。

一度のタイミングを逃してこのままフンベルクの包囲網に激突するかと思われたが、諦めなかったヴィンスは1、2歩の助走を付け、思い切りトラックを蹴って翼へとジャンプした。


その瞬間、トラックは何かの見えない力に吹き飛ばされたように後方へ倒れる。

それだけ強力な跳躍力でヴィンスはトラックから飛び上がった。

そのまま飛行機の翼へと足を付き、どうにか飛び移ることができたのである。


「オキシゲンナーの力か」

「そうだ。空気の力がなければ危ないところだった」


翼に移ったヴィンスは苦笑いで答える。

手の空いているセリカに手を貸してもらって、飛行機の機内へ乗り込もうとする。

包囲網までの距離残り十メートルに迫り、無事に脱出できるだろうと誰もが思った次の瞬間――。


「まだだ、まだ終わってない!」


何としてでもヴィンスに借りを返したいのか、フンベルクがグレネードランチャーを持って現れた。

飛行機にぶつかる覚悟でいるのか、車の上に立ってこちらに一発撃ってきたのだ。


飛行機の速度は150キロ以上出ていて、その攻防は一秒にも満たない一瞬の出来事だった。

フンベルクの榴弾はヴィンスを狙っていたものの、先程のように飛行機はロールして避けることはできない。

避ければ翼が包囲網の車に引っかかって墜落は免れなかった。


相対速度も加わってその榴弾はかなりの速さでヴィンスへ飛んできたが、ヴィンスはオキシゲンナーで空気の膜を張って受け止める。

飛行機も避けられず、空気抵抗の風も凄まじく、あとは自らの力に頼るしかなかった。

弾を止める衝撃も、酸化剤入りの火薬で起きる爆発も、全て防ぎ切るしかなかったのである。


かなり差し迫っていた状況であったが、どうにかヴィンスはフンベルクの攻撃を防ぎ切ることができた。

飛行機にも大きな被害を出すことなく、軽いダメージで済ますことができた。

ヴィンス自身も飛行機から落ちることなく衝撃を食い止められていたのだ。


しかし、ヴィンスに手を貸そうとして身を乗り出していたセリカが爆発を間近で受けてしまった。

機械の腕は千切れ飛び、衝撃で体は飛行機の外へと放り出されてしまう。

ヴィンスから反対側へ吹き飛ばされていって、主翼にも翼にも掴まれずにそのまま飛行機から落ちていってしまった。


「セリカッ!!」


ヴィンスの叫ぶ声も空しく、セリカの姿は消えていく。飛行機が包囲網を突破し、セリカの姿は尾翼の影に隠れたのを最後、永遠に目には映らなくなってしまった。


「そんな……セリカが飛行機から落ちてしまうなんて!」

「セリカ……俺達の仲間だったのに……ただのアンドロイドじゃなかったのに……」


レベッカやベルがその悲劇に悲しみの声を漏らしている中、ヴィンスは一人機内に戻って窓を閉じた。

トラックから背負ってきた武器を下ろし、後部座席にゆっくりと座る。


「バルドメロ……飛行機は無事に飛べそうか?」

「修復は必要だが、飛行機はまだ大丈夫だ。それよりあんたは――」


悲しくないのか、と尋ねようとしてバルドメロは「何でもない」と言い直す。

後ろを振り向いて表情を確かめなくてもヴィンスの声は微かに震えていて、動揺していることは間違いなかった。

ヴィンスでさえも悲しみに撃ち抜かれるほどにセリカは重要な人物だったのだ。


レベッカは涙を頬に流し、ベルは目に溜める。

冷静さを取り繕っていたヴィンスも歯を食いしばりながら暗い空を眺めている。


心に目覚めたアンドロイドにもっと感情を教えてあげたかったとヴィンスは願っていたのだがもう永遠に叶うことはない。

儚い願いは胸に悔恨の念を残し、この暗闇の空へと消えていったのだった。


「ロボット工学三原則」の要素を盛り込んで演出も考えて、本当はセリカにレベッカの身代わりになって死なせようとプロットで考えてたんですが脚本力が追い付きませんでした。

主人公のヴィンスはオキシゲンナーを使って活躍させたいし、そうするとレベッカが危機に陥るような展開ができにくくなってしまうし、良い状況が思い付かなかったんです。

なので今後良い展開が思い付いたら改訂したいと思ってます。

どっちにしろセリカはここで死んじゃうことになるのですが、ね……。

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