転倒するトレーラーと薄れ行く意識
「まさか……セリカ達が言っていた街っていうのは湖の中にあるのか?」
「正確には海の中です。元々この場所は太平洋だったのですがワープゲート事故で干上がってしまい、今は湖のような広さしかなくなってしまいました。私が知っている海は今のところこの街だけです」
「……これじゃあベル達がブルーレイクを信じてしまうのも無理はないな」
地球の約70パーセントの広さだった海が今やこれだけの広さになってしまった事にヴィンスは動揺せずにはいられなかったが、敵が迫ってきている今はその事を考えている訳にはいかなかった。
レベッカに輸血しているので動く訳にはいかなかったが、こうしている今もベルはコンテナから迎撃しているのだ。
そして運転席にいるヴィンス達も襲撃から逃れた訳ではなかった。
コンテナからベルの叫び声が聞こえてくる。
「ヴィンス! そっちに一台行ったぞ!」
その声を聞いた瞬間、ヴィンスはすぐ横から敵のエンジン音を耳にして叫んだ。
「セリカ伏せろ!」
片側から銃撃を受けて運転席内に跳弾する音が木霊する。
窓ガラスが叩き割られて飛び散り、ヴィンスの背中に落ちる。
ヴィンスが守った事によってレベッカは無傷でセリカも屈んでいたので無事だったが、銃撃は止まずに反撃する余地がなく、グレネードも持っているものは全て使ってしまっていた。
かと言ってこのまま撃たせている訳にもいかないのでどうにかして無力化しなければならない。
ヴィンスは輸血していない方の手で拳銃を取り出したが反撃はできなかった。
二人掛かりで攻撃しているので弾幕が止む気配がなく、顔を出して相手の様子を窺う事もできない。
動く事もできないヴィンスはどうやって迎撃しようかと考えるばかりで、遂に前輪タイヤがパンクした。
セリカが鋭い反応でハンドルを捌いてくれたのでトンネルの壁にぶつかる事はなかったが、速度は大きく落ちていく。
アクセルを踏んでもパンクしたタイヤが車体を引きずって速度を出す事ができない。
以前族の銃撃が止む事はなく、ドアのヒンジが一つ壊れて外れかかった。
唯一ヴィンス達の壁となっていたトレーラーの大きいドアが不安定になって傾く。
それに目を付けたヴィンスは針が腕から外れないようにしながらドアを思い切り蹴り飛ばした。
ドアが族の車にぶつかり、弾丸の雨が止んだ隙にヴィンスは銃を持つ腕を伸ばす。
一秒ほどで狙いを族のタイヤに定めると、発砲してコントロールを奪い、トレーラーのコンテナ下に突っ込ませた。
コンテナのタイヤが車を乗り上げて踏み潰す。
車に乗っていた族を全員まとめて排除した。
しかしトレーラーの速度が出なくなってしまった事で追い付いてくる族も増えてきた。
セリカはハンドルでコントロールしながらアクセルを踏み込むが40キロほどしか加速しない。
段々と大きくなってくる族の叫び声がヴィンス達の焦燥を煽る。
それでも四人が目指していた場所は近くまで迫っていた。
目的地となる街の門は残り1キロもない。
「もう少し……もう少しで街に着きます」
セリカの声でヴィンスは前方を見る。
街はトンネルのようにビームシールドで作られた海底の空間にできていた。
住宅だけではなくビルやスーパーマーケットがあって、中心地から海面に向かって柱のようなものが建てられている。
何を作っているのかまではわからないが工場などの大きい施設もあって、ヴィンスが予想していたよりもずっと大規模だ。
ようやく希望が見えてきたところだったが、不意にトレーラーのコンテナ側から大きな爆発音が聞こえてきた。
強い衝撃が車体に走り、運転席にいるヴィンス達にまで揺れが伝わってくる。
ヴィンスはコンテナにいるベルに向かって「何の音だ?!」と叫んで尋ねた。
「RPGだ!」
ベルは慌てながらまずそう答える。
「奴らロケットランチャーまで引っ張りだしてきやがった! それが外れて道路に当たったんだ!」
ようやく見えてきた希望が絶望に変わっていくのをヴィンスは実感する。
ロケットランチャーがこのトレーラーに命中すれば、街の門前とは言え族に囲まれて殺されてしまうだろう。
その武器を積んだ車がベルの攻撃を乗り切って横付けされる。
武器だけでなく車もセダンやバイクなどではなく倍以上に大きいモンスタートラックだった。
「ヴィンセント、ようやく追い付いたぞ」
その大きい車に乗っていたのはやはりフンベルク・ヴァンケンシュタインだった。
運転席に座っていて、後部座席の窓にはロケットランチャーを構える族が体を乗り出している。
「お前かフンベルク」
ドアが外れてがら空きになった運転席から挨拶代わりに拳銃で弾丸を二発フンベルクに撃ち込むが、何故だか命中せずに逸れていった。
レベッカが発砲した時と同じく、弾は見えない壁にぶつかったように弾かれたのだ。
「無駄だヴィンス、聞いて驚け。俺はあの施設で手に入れたオキシゲンナーを身に付けている。お前と同じ能力が使えるようになったんだよ」
ヴィンスはフンベルクが同じ能力を使えるようになったとは俄には信じなかったが、そうでなければ弾丸を跳ね返す道理は成り立たない。
それにフンベルク達はヴィンスがコールドスリープから目覚めた後に施設を調査できる時間があった。
覚醒できなかった被験者が残っていたので、オキシゲンナーを移植すれば能力を得られない訳でもなかった。
対するヴィンスは今、酸素残量が少なくて能力が使えない。
窒息を覚悟して能力を使っても1回が限度であって、状況はかなり不利であった。
「それならフンベルク以外だ……」
ロケットランチャーだけでも無力化しようと弾を二発撃つが、フンベルクは予想していたのか全て空気の盾で防ぐ。
「それもさせない。俺が乗っている限り銃は効かんぞ」
不敵で得意気に笑うフンベルク。
ようやく特殊能力を持つヴィンセントと張り合えるようになったと喜びを露わにする。
そしてこれからやっとの事で施設での借りを返せる事に体が疼いていた。
「あと少しのところだったなヴィンス。あと少しで街の門を越えて逃げきれるところだったのにここでロケットランチャーを撃ち込まれて殺されてしまう訳だ」
追い詰められたヴィンスだったがどうにか状況を打破しようと歯を食いしばって考える。
諦めてしまいそうな状況だったがヴィンスは挫折せずに考える。
「しかしこれはお前が俺を殴った事の礼だ。ここで死ぬがいいヴィンセント」
その言葉と共に攻撃される瞬間、ヴィンスはもう一度拳銃を発砲する。
ロケットランチャーを構える族を撃つが、同時にオキシゲンナーの力を使って空気の弾丸を作り出し、それを族のフロントガラスに向かって撃ち出す。
この攻撃はフンベルクにとって予想できなかったものであり、一発は防御できてもガラスを狙った弾は防御できなかった。
粉々になったフロントガラスがフンベルクの顔に当たり、大きく車体が揺れる。
それによってロケットランチャーの狙いが大きくぶれ、ロケット弾は運転席ではなくトレーラーのコンテナへ向かって飛んでいった。
大きな爆発が起こり、走っていたトレーラーはその大きな衝撃によって倒れる。
トレーラーはフレームから火花を上げながら止まり、フンベルクの車もスピンしながら停まって二台共に沈静する。
街に到着するまであと百メートルもないところで足は止まってしまった。
転倒するトレーラーの中で、ヴィンスはレベッカを抱き締めて一緒にドアへ叩き付けられていた。
彼女を庇うようにして背中から落ちていたのである。
それどころか酸素玉の酸素を使い果たしてしまって、ヴィンスは窒息する寸前にまで陥ってしまう。
次第に眠たさがヴィンスの意識を覆っていき瞼が重くなっていく。
このまま意識を失ってしまうのかと焦燥したがすぐにそれも心から離れていき、やがてヴィンスは疲れ切って眠り込むかのように安らかな顔でゆっくりと意識を失った。
輸血していたゴム菅と針がヴィンスから外れて赤い血液が漏れ出ていた。
ご愛読ありがとうございました。次回作にご期待ください。
……嘘です。




