消える姿、族の追跡
その部屋の中に誰とも知れぬ者が何人も踏み込んでくる。
四人が察したようにこの施設には敵が迫っていて、明かりを消して奇襲を図っていた。
その敵は以前ヴィンス達と刺し違えた事のある族であり、部屋の外にはリーダーであるフンベルク・ヴァンケンシュタインもいて、筋肉隆々の大きい体が族達の懐中電灯に照らされる。
相変わらず白い肌の頬に入ったバラのタトゥーが印象に残る外見だが、今回は女を一人連れている。
肌を大きく露出していて、フンベルクと同じ赤いバラを腹部へ大胆に入れている。
小さめのトップスから胸元を強調していて、スリットスカートから大きく太腿を覗かせ、見るだけでインパクトがある女だった。
「今回はきっちりと借りを返す。容赦せずに銃で攻め込んで、ヴィンセントとやらを燻り出すんだ」
フンベルクに言われた下っ端達は暗闇に包まれた部屋に向かって、短機関銃や自動小銃をやたらめったら撃ち始めた。
乱射される弾丸はコールドスリープ装置の表面を抉り、コンピュータのディスプレイを粉々に割り、電灯から破片の雨を降らせる。
銃の発砲音が耳を劈く中で破片が割れたり落下して飛び散る音が響く。
死角となる場所がないように下っ端たちは統制に進み、銃撃は部屋を掃討する。
それでもライトで方向を確認するだけで、目標を視界に入れず狙いも定めていない攻撃だったが、奇襲の効果は十分出ていた。
ここまで銃を乱射していれば普通の人間なら反撃の隙も与えずに撃ち殺されてしまっているだろう。
「フンベルク様、銃撃掃討が終わりました」
「奴の姿は見たか?」
「いえまだ確認中です。しかしきっと蜂の巣でしょう」
「早く確認しろ。お前も探してこいカルロ」
普通なら撃ち殺されている場合でもフンベルクは用心して手を抜かない。
カルロという下っ端も命令されるなり部屋をに入り、ライトで先を照らしながら部屋を進んで、蜂の巣となっているはずである四人の姿を探した。
するとカルロの足が何かにぶつかってピンの抜ける音がした。
暗闇で何があるかわからなかったが、先を照らしていたライトで足元を照らす。
埃が浮かぶ光のスポットの先に、黒色で筒のような形をしたものが映った。
それでもカルロはその球体が何なのかしばらく気付かなかったが、ようやくそれが手榴弾だとわかった時、それは部屋にいる者を巻き込んで爆発した。
部屋にいる者の体を散り散りに吹き飛ばした爆発は、外にいるフンベルクにも衝撃が伝わってきた。
入口から黒煙を噴き出し、軽い地響きが足元に伝わる。
ヴィンスを普通の人間でないと身構えていたフンベルクはすぐに仲間の仕業じゃないと悟った。
「銃を構えろ。奴の姿を見たらすぐに撃ち殺すんだ……!」
「しかし奴は今頃蜂の巣のはず……」
「いいから構えろ! ヴィンセントを甘く見るんじゃない!」
唾を飛ばして下っ端を怒鳴るフンベルクだったが、その下っ端の背後の光景が一瞬だけ歪んだのだがその違和感には気付く事はなかった。
まるで水面に映る光景のように揺れたのだが暗闇であったし、ライトで照らされた部分しか見えなかったので彼には違和感にまで至らなかったのだ。
そしてその違和感の正体は、フンベルクが警戒していたヴィンセントだった。
三人を連れて姿を透明化し、誰にも気付かれずにフンベルク達を突破していたのである。
そのヴィンスのオキシゲンナーはやはり静かに輝いていた。
部屋での銃撃掃討を防いだのも、こうして透明化して敵の横をすり抜けられるのもこのオキシゲンナーの為せる事。
特に透明化は酸素玉の気体を使って体の外に膜を張る事によって光を屈折させ、四人分の姿を消す事に成功しているのだった。
ヴィンス自身もこの施設に着くまで透明化する活用法は思い付いていなかった。
先程コンピュータ内を調べた時に記されていた方法であって恐る恐る試した方法だった。
無謀な試みだったが、視界の悪さも相俟って何とか成功し、フンベルクを突破できた今ようやくヴィンスは安堵していた。
「何とか成功してよかったぜ。このまま出口まで急いでトレーラーで一気に逃げるぞ」
「しかしこんな事ができるなんて驚きだな。ヴィンス、お前がいた時代にもこの技術はあったのか?」
「あったかもしれないが透明人間になったのはこれが初めてだよベル」
冷や汗を拭って答え、ヴィンス達は出口へと向かう。
欲しい情報を得て当初の目的も達成した四人はそのまま施設の外へと脱出した。
出口から身を潜めてトレーラーを覗くと族の仲間が待機していた。
トレーラーの外に二人と運転席に一人乗っていたが、透明化したまま乗り込んで運転席の一人を殴り飛ばして取り返す。
施設内のフンベルクに連絡しているのか、無線機を片手に叫んでいる族を見ながらすぐにトレーラーを発進させた。
「あまり余裕ないぞ、これ以上速度出ないのかレベッカ?」
「アクセルべた踏みよ。これ以上出ないわ」
レベッカの背中越しに告げられた事実からヴィンスは予想される状況を推し量る。
外にいた見張りが施設内の仲間に連絡していた事を考慮すれば、思っていたよりも追跡の手が早いと推測できる。
あまり速度の出ないトレーラーではやはり軽量の車に追いつかれてしまうだろうし、砂漠では隠れられるような場所もないので、ヴィンスはどうやっても族を迎え撃つ覚悟を決めなければならなかった。
「コンテナから銃を集めよう。族はまだ追ってくる」
そう言ってコンテナへ向かうヴィンスに続いて三人は覚悟を決め、積んである銃を取り出し始めた。
保管されていたものをざっと運転席に集めると、今ある銃火器はUZI短機関銃やグロック19などの9ミリパラベラム弾が発砲できる銃が多い。
さらにMK3手榴弾やM97グレネードランチャー、AK-47自動小銃もこのトレーラーに乗っていた。
こちらはどれも弾薬が少ないが十分強みになる。
酸素のない世界でもどうにか機能するよう改良されたものだった。
どうにかこの銃火器で族を迎え撃とうと考えていると、できるだけ時間を稼ぐため全開で走っていたトレーラーが減速し始めた。
エンジンから何やら不穏な稼動音が聞こえ、ボンネットからは白い煙が上がっていた。
「レベッカ、減速してるぞ、どうしたんだ?」
「全開で走らせすぎてエンジンの調子が悪くなったみたいだわ。これじゃあスピードが出ない!」
速度が出なければすぐ族に追い付かれてしまうし、それだけでなく何人もこのトレーラーに乗り込まれてしまう。
そうなればあっと言う間に四人は捕まってしまい、フンベルクの目の前で殺されてしまうだろう。
ヴィンス達の脳裏にもそんな結末が過ぎって焦りが背筋を走った。
脇役カルロくんはここでも殺される。




