ハーレム要員は浮気する
『ハーレム男のハーレム要員』『一人のハーレム要員に本気になったハーレム主』も読んでください。
この物語は少し時間がたってます。
鶴美という少女はごく普通の女の子であった。
顔は可愛らしい方ではあるが、堀が浅く童顔であり、クラスで4番目辺りの有り触れたものである。
性格は所謂ぶりっ子に近いものの、素でおっとりしている為にそんな印象もない。
頭も特筆していいという程でもない。寧ろ悪いほうである。
ただ、もしも異常な点をあげるならば……彼女は異常な部分を普通に見せることにおいては、自分を無害に見せる点において……
天性の才をもっていた。
「……ふぁ…」
鶴美はあくびをしてベッドから起きた。
ポワポワと目を擦りながら鶴美は痛む腰を押さえて下着に手をつける。
「おはー」
寝ぼけた様子で起きた彼は、薬王寺リアンである。
彼は王子、キング、帝王の異名を持っている世界的に有名な俳優である。
同時に女好きでも有名であり、基本的に女性は平等に扱い愛を注いでいるものの、鶴美だけには特別な感情を持ち、その為だけに活動を日本中心にし、鶴美と一緒に住むだけの為にマンションまで購入したのであった。
現在でもその女関係は続いてが鶴美もその辺の部分はどうでもよく、寧ろ興味がない為に何も問題はない。
「おはよ~」
鶴見はおきてきたリアンに挨拶をしつつ手軽なワンピースへと着替えた。
ベッドから下りようとしたとき、後ろからリアンに抱きしめられる。
「お腹減った」
「も~苦しいよ~」
ギュウッと体を抱きしめるリアンの腕をポンポンと叩いてから質問する。
「リアンは~パンケーキと味噌カレーどっちがいい~?」
「カレー…味噌カレー」
「うん、オッケ~」
ニコニコホワホワと暖かい笑みを浮かべて了承し、鶴美はゼクシーやヒヨコクラブやらの雑誌を踏んでリビングへと向かった。
テーブルの上ではカレーの香りが漂い、リアンは美味しそうに食べる。
「お前の味噌カレーはやっぱり最高だな」
「そんな事ないよ~」
ただカレーに味噌を突っ込んだだけであるが、リアンはそれを何よりも気に入っており、最早朝の定番メニューになっている。
「お前はいいお母さんになるな…」
「あ~子供はすぐ泣くし~可愛くないし~だだこねるから嫌い~」
ポワポワニコニコと、まるで天気の話をするかのごとく鶴美はバッサリと言った。
「そうか…あ!今日、俺の撮影見学でもしないか?」
「えぇ~?いいの?」
「あぁ、俺の彼女だって言えば普通に許可がおりる」
「わーい!有名人いっぱいいるかな~」
世界的な俳優を前にして、鶴見は能天気にそういったのであった。
撮影所
「僕を愛してもいいんですよ」
「不倫なんて…そんな!」
「そういっても、体わ…」
リアンは出るとこは出て、締まる所はちゃんと締まっている美女と濃厚なラブシーンを展開していた。
どうやら不倫ものの映画の撮影のようである。
「わ~すごーい~」
鶴美は手を合わせて小学生並みの感想を言った。
超絶有名な俳優に呼ばれた少女としてスキャンダル性がありそうだが周りは『ちょっと趣向の違う数あるうちのハーレム要員』という印象な為に周りは鶴美に対して悪意も好意もなく、空気のようにしている。
鶴美は少し前に本命彼女の仲を引き裂いた悪女とネットニュースでばら撒かれたが、実際会えば『なんだ、普通じゃないか』とよくも悪くも無害に思われてしまうのであった。
鶴美としてはそれでいいのでポヤポヤと見ていたのだが…
「は?お前がリアンの恋人かよ」
突如、そう言われた。
声のしたほうへと顔を向けると、青メッシュを入れた金髪の美青年がいた。
少し目つきの悪い彼はヘブンクロスというグループのリーダー格であった。
「んだよ、あいつも趣味が変わったな…こんな毒にも薬にもならなさそうな奴を…」
と、セナは苛立ったように感情をぶつけたが鶴美はニコニコと笑ってるままであった。
「わ~…ヘブンクロスのセナさんだ~やっぱり実物で見ると凄く格好いいね~」
「ふぇ!?…え、お前…」
鶴美としては極普通の反応をしめしただけであったが、セナはおまりにも驚いた。
リアンの恋人は全員がリアンしか見ていないし、大体自分は酷いことを言った。
にも関わらず彼女はごく普通にそう言ってのけたのである。
「おい、俺の撮影を見ないでないやってんだ?」
キスマークが大量についたリアンが休憩の為か、こっちへと来た。
その瞬間にセナはすぐに逃げてしまった。
「セナさんと挨拶したんだ~有名人にあえてラッキー」
「あぁ、なんだ」
ただのミーハー心かと安堵したリアンは鶴美の頭をポンポンと叩く。
「ちゃんと俺を見ろよ」
「あ~ハハハ~…はぁ……私、ちょっと自販機行って来るね~撮影がんばって~」
「おう!」
応援されたことに喜んでリアンは大きく頷いたのであった。
鶴美は少し歩いて人通りの少ない場所で自販機を見つけ、ブラックコーヒーを購入した。
そのままゴキュゴキュと一気に飲んだ後、鶴美はスマホを取り出して連絡をかけた。
プルル…ッピ
『あ、鶴美?どうしたんだ?』
「ん~?ちょっと声が聞きたかっただけ~佐吉くんは今なにしてるの~?」
『ん?彼女とデート中だ。彼女がトイレに行ったから今は一人だな』
「へ~そっか~じゃあまたね~」
ッピ
「……」
鶴美は通話を切って無言で歩いた。
適当に辺りをブラついていると、よく分からない衣装室のような所へと迷い込んでしまった。
キョロキョロと大量にある衣装を見回していると…変な声が微かに聞こえた。
「あいつだって……っ……痛い目に……!!」
聞こえた方へと顔を向けると、そこにはカッターを持って白っぽい衣装に刃を立てているセナがいた。
明らかに不穏な空気であり、普通なら関わらないか誰か人を呼んだ方がいい場面だが…。
「何やってるの~?」
「うわ!ぁああ!?」
深く考えるということを知らない能天気な鶴美は、友達に聞くかのような気軽さでセナに話しかけた。
「あ~それってリアンくんに衣装だね~」
特に深い意味もなく、興味もなく、ポヤポヤと言っただけであったが、セナにとっては死刑宣告に限りなく近いものである。
「っう…い、言えよ!言っちまえ!どうせ俺は卑怯だよ!」
セナは半ばヤケを起こしてそう言った。
リアンと関係を持っている女性は盲目的にリアン至上主義となり、リアンに危害を加えるもの、敵となりうるものには徹底的に排除しようとする。
鶴美という少女はリアンに盲目的ではないが、ハーレムの一人の為愛しているだろうし、そもそも一般的な良識として言うだろう…そう思ったのだが…。
「言わないよ~面倒くさいもん~」
「へ?」
鶴美という少女は、リアンの為に行動するのも良識の元に行動するのも面倒臭がる少女なのであった。
「う~んとね、君もきっと理由とか色んな感情があったんでしょ~だったら仕方がないよ~」
字面だけをみれば、やさしく理解を示す言葉であった。
しかしながら、その実、彼女は深く考えるのが嫌いであり、一般的なことをそれっぽく言うだけで思考停止しているだけであった。
「んっとね~話は聞くよ~」
しかし、今までリアン至上主義の女性ばかり見てきたセナからすれば…
「お前…いい奴なんだな…」
前者の方で受け取ってしまった。
ホテル。セナの部屋。
「ずっと!!ずっと俺はリアンが羨ましかったんだぁあ!!俺が好きになった奴は全員リアンに惚れちまったし!!今の彼女だって!!うわぁあんん!!映画もリアンに主演…ヒッグ…」
ビールを飲みながら感極まったように涙を流すセナは今までのことを話した。
自身がリアンに劣等感を持っていること。才能の差、越えられない人気、実力、好きな子は全員リアンに取られ、本来は主役は自分であった筈の映画でその座を取られ、最近では自分の恋人もリアンに興味を…
とまぁ、それなりに重いことを言っていた。
「そっかそっか~」
しかし、鶴見はセナにビールをつぎながら軽く返事をする。
話を聞いていない訳ではないが、その深刻さがよく分かっていないのである。
「どうせ俺は何も出来ない駄目駄目な男ですよーだ」
「そんなことないよ~セナさんにはセナさんのいい所が沢山ありますよ~」
ポヤポヤとふやけた顔をさらしながら鶴美はよしよしと頭を撫でた。
それはさながらいじけた子供をあやす母のようである。
「っは!どうせお前だってリアンに惚れてる癖に!!上部だけなんてどうでもいいんだよ!!」
「おやまぁ手厳しい…ならどうすれいいかな~?」
「キスでもしてみろよ」
ほんの冗談であった。
フワフワポヤポヤと、そんな彼女に対して若干惹かれ始めてきた自分に対する戒めや、ちょっと困らせる為の……
軽くて意味もないものである筈だったのだが…。
「いいよ~」
鶴美は何の躊躇いもなく、セナの唇に自分の唇を押し付けたのであった。
「…っ…!?」
驚くセナを無視して唇から離し、ニッコリと笑みを向ける。
「ちゃんと出来たでしょ~?」
ポワポワとニコニコと間延びをした喋りをして、どうだ!と可愛らしげな表情を見せた彼女。
「お前…バカだろ」
純粋にセナは思った。頭が軽くでバカだと、バカをそのまま具現化したような奴だと。
「そうですか~?」
「あぁ…けど……なんか好きだ」
そう言ってセナは鶴美の腕をひっぱり、ベッドへと引き込んだ。
鶴美は抵抗しなかった。
「……腰痛いな」
鶴美は痛む腰を支えながらベッドから下りた。
肌寒い体を無視してスマホを取り出せば、リアンからの大量の着信とメールが着ていた。
《今、何処にいるんだ?》
《どこにいるんだ?もうマンションに住まわせないぞ》
《さっきの嘘だから、マンションにずっといていい》
《何か俺悪い事したか?なあ?》
《頼む、ごめんなさい、お願い、連絡を…》
ッピ
途中で読むのが面倒になった鶴美は画面を消した。
「うざいな~」
そのままスマホを握り、床へと叩きつけようとしたが…
プルル…プルル…
着信音が鳴った。
またリアンかと思ってディスプレイを見ると《佐吉》と出ている。
ッピ
「もしもし?どうしたの佐吉」
『もしもし?鶴美いま何処にいんだ?』
「なんで…そんな事聞くの?」
少しだけの期待を膨らませて聞いた。
『リアンさんに電話かけられたんだよ。』
「え…佐吉自身はどう思って…」
そこでガチャチャと音がした。
『佐吉~!誰と喋ってるの~?』
声が出たのは可愛らしいキャピキャピとした声である。
それは佐吉が最近出来た彼女の声であることは明白であった。
『ちょっと待て…あぁ、じゃあそういうことだから、ちゃんとリアンさんに連絡しろよ』
「……うん、じゃあね」
ッピ
鶴美は少し放心するかの如くポーッと上を向いた。
プルル…プルルル…
また着信音がなった。ディスプレイを見ると《リアン》と出ている。
「……」
鶴美は飲むはずだった水の入ったコップを見つめ…
ポチャン
プルル…プル…ル…ル………プツン……
「……」
またポーッと天井を見上げた。
「お…はよう」
どうやら起きたらしいセナが目を擦りながら、罪悪感に満ちたような顔をしている。
「あ…その…こ、こんな事になっちまったけど…これからはさ、なんつーか俺は結構ほんき…」
「大丈夫~この事は秘密だよ~」
セナが言い終わる前に鶴美は何時も通りの間延びしたポヤポヤした声を被せた。
「セナさんには綺麗なモデルの恋人さんがいるし~私みたいなのと寝たってバレたら大変だもんね~大丈夫だよ~セナさんの困ることはしないから~」
そういって鶴美はワンピースに着替えて身支度を済ませた。
「お…おう」
セナもプライドや立場から鶴美の言葉を肯定する。
もっとも、半分は鶴美が本当に自分を思っての言葉だと思っているからでもある。
「じゃあ!せめて連絡先だけでも…」
「ん~」
鶴美は水浸しのスマホを取り出して笑った。
「水に落としちゃったから使えないんだ~ごめんね~」
そういって笑って……彼女は帰って行った。
リアンのマンション
鶴美が帰ってくるとリアンは玄関で怒った様に仁王立ちをしていた。
眠っていないのか隈が酷く、ずっと泣いていたのか目が腫れていた。
「お前!何処に…」
凄い剣幕で怒ろうとしたが、それよりも先にギュウッと鶴美が抱きついてきた。
「ごめんね…スマホ、水に落としちゃって連絡取れなくなった」
「…そうか…あ…まぁいいけど」
上目遣いでそういわれ、申し訳なさそうにシュンとした鶴美を見て、怒りが冷えてしまったリアンは取り合えず鶴美を抱きしめる。
「じゃあ…昨日は何処に行っ…!?」
何処に行っていた…そう聞く前に鶴美はリアンにキスをした。
「えへへ~私から初めてキスしちゃった~」
「…な!?あ…う…」
口元を押さえ、顔を赤くするリアンに鶴美は言った。
「今からベッド行こうか」
その後、昨日鶴美が何処で何をしていたかの話題が出ることは無かった。
鶴美の性格は作られているのか素なのか…。
少しだけヤケを起こしてはいましたけど。