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第4話

 洋食屋さんまでの道中は、お互いに何も話さない時間が続いた。これではいけない!と、私は本題(事故の話)以外のことから尋ねてみることにした。本題は、たぶんややこしいことになりそうなので、落ち着いたところで聞くのがいいだろうと思ったから。

「あの、やっぱり、老人ホームにいた大豪寺さんと、貴方は同一人物なんですか?」

「そうだよ。面影あるでしょ?」

「確かに言われてみれば…。で、大豪寺さんって本当は何歳なんですか?」

「その話は、あ・と・で!さあ、ここだよ。入った入った。」


 禁煙席に案内され、そこで、大豪寺さんは、アボガドハンバーグのCセットとビール、私カニとトマトのパスタとドリンクバーを注文した。まじめな話をするのにお酒?なんか、釈然としない。


「さあ大豪寺さん、きっちり話してください。あの事故の時、何をやったんですか。」

「ご注文の生中です!」

「おおぅ、こっちだこっちだ!まずは先に飲んでもいいかい?ここ10年くらい飲んでいなくて、もう我慢できないんだ。」

「はぁ、まあいいですけど…」

 大豪寺さんは一気にジョッキの中を飲み干してから、もう一杯を追加注文して、ようやく話し始めた。

「で、何の話だっけ、あ、そうそうバスの事故の話だったか。」

「はい。」

「あれは、なんていったらいいのかな、まあ、ひらたく言えば魔法だよ、魔法。」

「魔法?」

「そう、魔法。現代ではほぼすたれているけどね。」

 魔法ですって?そんな非現実的なもの、小説や映画でしか見たことないわ。ファンタジー小説は結構好きだから慣れているつもりだけど、現実にこんな事が起きるなんて・・・でも、あの事故の時の大豪寺さんの使った不思議な力・・・、魔法・・・なのかしら。私は、魔法が存在するかどうかはさておいて、話を先に進めることにした。

「あの不思議な力が魔法として、なんで大豪寺さんがその力を使えるんですか?で、なんで若返っちゃったりしているんですか?」

「おおっ、案外あっさり受け入れてくれたね。いいよいいいよ。使える理由は、そういう一族に産まれたからとしかいえないかな。若返っちゃった理由は、自分に掛けられている、なんというか呪いみたいなものだね。魔法を使うと、若返ってしまうんだ。」

 呪い、また、こんな非科学的なワードが・・・だんだん頭が痛くなってきた。

「呪いですか・・・」

「そう、呪い。あ、料理が来たよ。冷めないうちに食べよう!腹が減っては戦はできないって昔からいうからね。」

「そうですね。」

 とりあえず、私は考えるのをやめて、目の前の料理に向かった。大豪寺さんは食べるのが早い。あっという間に料理を平らげている。私もペースを上げないと・・・。



「はあ、この料理が味わえるのも、今日限りか・・・。」

「え、どうしてですか?」

「こんな騒ぎになってしまって、もうここにはいられなくなったからね。そうそう、これをあげるよ。ホームでは君に一番お世話になったからね。」

 大豪寺さんは、何か立派な蒔絵の小さな箱を取り出し、私に差し出した。私は、それを受け取りながら尋ねた。

「これはなんですか?なんだか高そうなんですけど・・・」

「んー、なんといえばいいかな。お守りだよ、そう、お守り。そんなに高いものじゃないから、遠慮無く受け取って。」

「はあ、ではありがたくいただきます。って、ええ!」

 大豪寺さんが、青い光に包まれている。まるでバスの事故の時みたいに。

「それじゃ、これでさよならだね。もう、会うこともないと思うけど、優奈ちゃんには本当にお世話になりました。」

「ちょっ、ちょっと待って下さい!また聞きたいことが!」

「じゃーねー!」

「大豪寺さん!もう会えないって、どういうことですか!」

 青い光を残し、大豪寺さんは行ってしまった。青い光も次第に小さくなって、消えていった。私は、ぼう然と大豪寺さんが座っていた席をみつめていた。急に、周りの喧噪が聞こえてきた。そう、今は夕食時、レストランもお客さんで一杯だ。でも、大豪寺さんが消えても、誰も騒いでいない。あのときと同じだ。

「ご注文の品はおそろいでしょうか、レシートここに置いておきますね!」

 元気のよい店員さんの声に現実に引き戻された。あれ、よく考えると、大豪寺さんの分って代金はどうしたっけ?

「しまったー、食事代もらってない!」

 思わず大きな声を出してしまい、周りから注目されてしまった。恥ずかしい。さっさと帰ろう。給料日前で金欠なんだけどな・・・。


 レジを済ませ、店をでると、もうあたりは真っ暗だった。店を出た私の姿を、じっと見つめる人影があることに、そのときの私は全く気がつかなかった。

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