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第1話

初投稿です。

~ぷろろーぐ~


 「ちょっと、今日の運転手さん、運転荒っぽい・・・」

私、城田優奈は、とある老人ホームの新人職員。老人ホームと行っても特別養護・・・ってほどじゃなくて、まだまだ元気な人が入所している普通の老人ホームである。今日は、毎年、春恒例のツツジ鑑賞バス旅行。皆さんお年寄りではあるが、とても元気で、相手をする私の方が体力不足を痛感させられていたりする。

 私の隣に座っているのは、「大豪寺仁だいごうじ じん」さん。年齢は70歳をちょっと超えたぐらいのはずだが、脳梗塞を患って左半身がちょっと不自由・・・といって、生活には不都合はあまりない。ただ、長距離の移動には車いすが必要な程度だ。


「なんだって?」

 そう、大豪寺さんは、耳が結構遠い。大きな声で話しかけないとなかなか伝わらないのだ。実は、仁さんは、私の仲良しのおじいさんである。

 入社したばかりの頃、仕事が体力的にしんどく、精神的にもぎりぎりの状態だった頃だったと思う。


「お嬢ちゃん、しんどそうじゃなぁ。手伝いはできんが話し相手にはなるぞ。」

 そう、大豪寺さんから話しかけてきてくれたのだった。そのときには、入社してからのいろいろな悩みを全部黙って聞いてくれたっけ・・・。耳が遠いから、全部分かったのかは怪しいけれど、それ以来、何かと愚痴を聞いてもらえることで精神的にはだいぶ楽になった。

 また、体力も次第についてきたのか、何とかこなせるようになってきている。先輩や上司の方もみな優しい方ばかりで、それも助かっているかな。



 「ば・す・が・ゆ・れ・るっていってるの!」

 「おーおーおー、ちょっと揺れるのぉ」

 ちょうどそのとき、山道の急カーブにさしかかった。


 急ブレーキの音と何かにぶつかった衝突音(今思えばガードレールを突き破った音だったのかもしれない。)とともに、運転手さんの「あぶない!」という声が聞こえたと思うと、体がふわっと浮くように感じた。

 「きゃー、落ちる-!」

 山本先輩の声だ。他にも悲鳴が聞こえた。


 『へー、崖から落ちてるんだ・・・死んじゃうのかな?』

 非常事態にもかかわらず、私は妙に落ち着いていた。パニックにならなかった私を褒めてあげたい。

 そんなとき、周りが青いぼーっとした光に包まれた。ついでに、体の浮遊感も無くなり、自分の重さを感じた。


 『あれ、落ちなかったのかな?ん・・・・浮いてる!!』

 そうバスが空中に浮いているのだ。

 「浮いている!バスが浮いている!」、「空に浮かんどる!」、「どうなっとんじゃ!」


 職員は、もう大騒ぎで、高齢者の皆さんもさすがに動揺している。

 しかし、私はそのとき別の事に驚愕していた。


 私の隣に座っていた仁さんの右手が上に掲げられ、強い青い光を発していたのだ。青い光は何本かの筋となってバスの車体につながっていた。


 「じ、仁さん!何をして・・・」

 私は仁さんの顔をみた、いや仁さんだったはずの人の顔を。そこには、40代ぐらいのナイスミドルといっていい男の顔があった。

 私が硬直していると、男は私の方を向き、笑顔で「お嬢ちゃん大丈夫かのぉ」と言って、前を向き

 「運転手さん、バスは道路に戻したから、今度はしっかり運転してや。」と声を掛けた。


 気がつくと、青い光は消えていた。

 バスの車内は、職員、高齢者運転手を含めて、想像を超えた出来事に無言となっている。

 そして、男は「大豪寺仁、所用により、旅行は中途で帰ります!」とのたまって、消えた。

 消えたのだ。しゃべっているときは確かに隣にいたはずなのに、いなくなっていた。


 それから、どれくらい時間が経っただろうか、30秒かもしれないし、10分ぐらいかもしれない。

 けたたましい、クラクションの音で、皆我に返った。後ろから来た車のクラクションのようだ。


 「で、では、出発します。」

 運転手は、目が覚めたように動き出し、旅行は何事もなく再開された。私は狐につままれたような気分だった。きっと皆もそうだったろう。

 旅行中は、誰も仁、もとい大豪寺さんのことに触れることはなかった。


 旅行を終えてホームに戻ってきた私は、みんなの部屋への送迎を済ませると、仁さんの部屋に向かった。

 そこには何もなかった。ただ、「大豪寺 仁」と書かれたネームプレートと、一つの手紙が残っているだけだった。



 手紙には、走り書きでこうあった。

 「大豪寺 仁、事情によりホームを出ます。いままで、どうもありがとう!」

 私は、ホームの管理室に走った。

 「だ、だ、大豪寺さんが、いません!」

 よほど、私は慌てた表情をしていたのだろう。管理室の長野主任が、苦笑しながら答えてくれた。長野主任は、50代の白髪交じりのいつも笑顔のおじさんだ。


「優奈ちゃん、どうしたの?そんなに慌てて。大豪寺さんなら、さっき中途解約の手続されて出て行ったよ。引っ越し屋もすぐ来たから、ずいぶん手際も良かったねぇ。」

「手続は誰が?」

「大豪寺さん本人に決まっているじゃないか。ほれ。」

 長野主任は、そういって、解約届の書類を見せてくれた。

 「確かに、大豪寺さんの署名がある・・・、あの、本当に大豪寺さん本人でした?中年のおじさんが来たって事は?」

 「受付したのは、私だから間違いないよ。ああ、大豪寺さんと、優奈ちゃん仲良かったもんね。挨拶もなかったのかい?」

 「はあ、そうなんです・・・・。」

 私は、適当に返事をしながら、解約届の書類をじっと見つめた。


 『おかしい、普通解約の手続にはもっと時間が掛かる。解約金の計算だけでも大変なのに・・・こんなにあっさり終わるものじゃない!そういえば、旅行中もあの青い光のことについて誰も話題にしていなかったのはなぜ?何かがおかしい。』


 書類に書かれた退去後の住所を頭に入れると、仕事が終わったら訪ねてみようと決意した。

 その結果、私は想像もつかない事件に巻き込まれていくことになる…

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