◇ボアコート。
キーワード:ボアコート
「あ、このコートかわいい!」
店頭でマネキンを指差すアッシュブラウンの髪色をした女の子。
その指の先には裏地がフカフカとしたコートがディスプレイされていた。
「ん?あぁ、ボアコートね」
ブラウンの子の隣りで携帯をいじくっていたショートヘアの女の子は、それを一瞥するとそう答えた。
「ボアコート?まあいいや、かわいいし」
そう言ってマネキンが着ている物と同じ商品をレジに持って行こうとするブラウンの子。
「とりあえずお会計してくるねー」
手をパタパタと降り、店の奥にあるレジカウンターに足を向けたブラウンの子に、
「ちょっと待って!」
と、声がかかった。
「なによー。あ、もしかしてこれ欲しいんでしょ?お揃いが嫌だからって邪魔しないでよね」
プンプンという言葉が似合うぐらいに頬を膨らませて、ブスッとした顔をする。
「違うって」
まるで彼女に浮気の事がばれてしまった彼氏のように慌てふためきながら、ショートの子は弁解の言葉を口にした。
「ボアコートのボアは蛇のことで、こういう蛇みたいに長い毛皮とかの事もそう呼んでるんだよ?」
そんな私生活でなんの役にも立たなそうな豆知識に
「ふーん」
と、興味な下げに返事をすると
「まあ、首に巻ける程度ならどうせ可愛いヘビなんでしょ?」
って、適当な言葉を返す。
ブラウンの子は早く会計を済ませてしまいたいのだ。
「それはどうでしょうねぇ…」
歯切れの悪い言葉と、意味深な態度にどうでもいいと思っていたことでも気になってしまう。
「歯切れ悪いなぁ……そんな風にされたら気になるよ」
「別にぃ~」
興味を持ったことをしってかショートの子は意地悪な笑みを浮かべ始めた。
「意地悪だなぁ。もう、早く教えてよ!」
待ち切れませんとばかりにショートの子の腕をブンブンと揺するブラウンの子。
「仕方ないなぁ。ボアというか、ボア科のヘビにはあのオオアナコンダがいるんだよ」
得意げに言われたその言葉にピンと来なかったブラウンの子は
「オオアナコンダ?」
という、日本語のままならない外国人のような片言を披露してくれた。
「そう、オオアナコンダ」
先生のような話し口調に
「早口言葉みたいだね、オオアナコンダ」
子供みたいな回答。
ブラウンの子は未知の存在であるオオアナコンダを知るためにショートの子に訪ねてみた。
「で、それが?」
何なの?という言葉は口に出さなくても、イントネーションで伝わった。
「なんと最大で全長が9m!」
「きゅうめーとる⁉」
自分よりもはるかに長いその全長にびっくりしつつ、手に持ったボアコートを凝視した。
このコートは大きなヘビと同じ名前がついてる……という事はこのコートは大きなヘビという事に……!
よくわからない理論が頭の中で完成し、ヘビコートいらないとブラウンの子は品物を元の場所に戻した。
その様子をみていたショートの子はゆっくりと口角をあげた。
(明日買いにこよう)