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最悪の真実


「き、貴様は……何を知っているのだ……」


渋面を滲ませ、射殺すような視線を私に向けながら問う皇帝に、私は答える。


「言ったはず。私は全てを知っていると。あなたが約百年前、魔王を討伐した勇者に、異界の扉の監視を命じられた一族の末裔である事も。そしてその使命を忘れ、野心のために魔族を利用しようとして失敗した事も」


封じられていたはずの魔族の突然の進攻、その真相に辺りはざわめき、戸惑いを孕んだ空気に支配される。


大方、人類最高の軍事力を誇る帝国側の考えでは、意図的に魔族を解放し、ある程度被害が拡大した頃を見計らって華々しく魔族を討伐。

そうして世界に対する主導権でも握ろうと、自作自演を画策していたのだろう。


ただ帝国の誤算は、予想より魔族の力が強大だった事。


よくある歴史にありがちな、魔族の力を誇張された大袈裟な昔話の類いと思い込み、過小評価した事に他ならない。


徐々に強まる周りの人々の怒りや憎しみ、様々な負の感情を含む視線に晒されながら、皇帝は再び問う。


「……なら、わかるはずだ。勇者が……貴様らが閉じた異界の扉を再び開き、魔族を解き放ったらどうなるか……。今度こそ、世界が滅ぶことになるのだぞっ」



確かに、私達が魔王――魔族を作り出した魔王ではなく、魔族を統べていた魔王――を倒したと言っても、魔族が消えてなくなった訳ではない。


どのような仕組みかわからないが、世界中から魔物はいなくなったが、異界に封じられた魔族は残ったままだ。


もし異界の扉が再び開かれたら、魔王と言う統一者……制御を外れた魔族がどのように動くかなど、もはや誰にも予測は不可能。


いずれは新たな魔王、新たな勇者も現れるだろう。


でも、それがいつ現れるかは誰にもわかるはずもなく、早くても数年、下手をしたら数百年かかる可能性もある。


そうしている間、制御を離れた魔族は、人間どころか世界全てを滅ぼし兼ねない危険性も孕んでいる。


でも、


「それが何?」


「……な、に?」


あまりにも簡潔な私の答えに、皇帝は戸惑いの表情を浮かべる。


「言ったはず。私達の目的は『勇者を蘇らせる事』だと。


死者蘇生の伝説が真実なら、私達は勇者を甦らせ、甦った勇者が世界を救う事を望むなら、私達は喜んで勇者の力となる。


……でも、伝説が偽りで、勇者を甦らせる事が出来ないなら……、私達は別の手段を模索するだけ。世界に魔族が解き放たれたとしても、私達にはどうでもいい。勇者がいない世界に興味はない」


「な――っ!?」


迷いなく答える私に、皇帝は言葉を失う。



静寂――


周りの人は誰も、声をあげる事さえ出来ずにいる。


私の語った真実は、それだけ衝撃だったのだろう。


世界の危機は、一国の野心によって引き起こされた。

世界を救った英雄たちは、世界などどうでも良かった。


あらゆる物事の根底を覆す、最低最悪の真実。


「もし、勇者を甦らせる為には世界を滅ぼすしかないのなら――


私達は迷わず、世界を滅ぼす」


二の句が次げない皇帝の代わりに、代表が金切り声で叫ぶ。


「な、何を考えているのですか貴女達は! そんな事許されるはずが――」


「許す許さないは関係ない。私達が望むのは勇者だけ。その結果、世界がどうなろうと私達は興味はない」


そう、私達は世界を救いたかったんじゃない。


ただ……


「……私達は、勇者の力になりたかっただけ」


ただ、それだけなのだから。



「貴様……正気か?」


「少なくとも私は自分を正気だと認識している」


否、私は自分を正気だと思ってはいない。

常識的に考えて、私の考えは狂っている。


多分私の心は、勇者を失った時から壊れてしまったのだろう。


勇者が全てであり、勇者さえいればいい。

だから、勇者がいない世界は必要ない。


勇者に依存した人々を糾弾していながら、誰より勇者に依存していたのは、他ならぬ私たち自身だった。


だからこそ私は……


「それで、どうするの?」


私は皇帝、代表、そして国王の順に視線を向ける。


そのどれもが、理解出来ない、異形の物を見る目だ。


そう、かつての魔族たちに向ける目と同じような……


「大神殿の場所は判明した。あとは天樹の果実と異界の鍵。素直にそれらを渡すか。それとも……、


私たちと、戦うのか」



私は決断を迫る。




>>>to next.

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