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伝説の再演

本来、攻撃に使用する魔法は数メートルから数十メートルの距離をとって使用されるのが普通。

理由は単純、そうしなければ自分の放った魔法に巻き込まれてしまうからだ。


だから、私の身長とほぼ同じくらいの長さの杖、しかもその中程を握っていたにも関わらず、その先端部に作り出した魔法の炎を放った私は、その炎に巻き込まれてしまうはず。


「……?」


しかし、私の体は炎に焼かれる事はなく、無傷のままステージに立っている。


目の前には、恐怖で顔を引きつらせ、腰を抜かしたまま放心している国王も同じく、傷一つない。


「何やってやがる……魔法使いっ!」


「何をしてるのですか、魔法使いさんっ!」


「…………戦士、僧侶?」


気がつくと、すぐ右隣には戦士、左隣には僧侶の姿。

二人の顔には、僅かばかりの怒りが込められている。


よく見ると、国王に向けられていたはずの杖は、戦士と僧侶の手によって方向を変えられており、遠くに見える街路樹の一本が、激しく燃えている。


どうやら、強引に軌道を変えられた魔法の炎は国王には当たらず、ステージの周りに植えられている街路樹の一本に当たったらしい。


「……たく、こいつらの態度に苛ついたのもわかるけど、オレ達の目的はそうじゃねえだろ。……違うか?」


「そうですよ。わたくし達は目的の為、願いを果たす為に、今ここにいるのです。忘れたのですか?」


「…………ん……ごめん、ありがとう」


戦士と僧侶の言葉に、ようやく冷静さを取り戻した私は、素直に謝罪と同時に感謝を述べる。それを聞いた僧侶と戦士は、優しい笑みを浮かべる。


一歩間違えたら、自分達が炎に焼かれていたかもしれないにも関わらず、別段それを気にした風も見せない二人に、私は心の中でもう一度「ありがとう」と呟く。


そう、ここで国王や皇帝、代表を、感情のまま痛め付けたところで、何の意味もない。


私達には、為し遂げなければならない目的があるのだから。



「目的……だと? 貴様ら、何が目的だと言うんだ!」


私達の会話を聞いていたのか、皇帝が相も変わらず威圧的に問いかける。


「な、何が欲しいのですか!? お金ですか? 地位ですか? 何でも言いなさい! この不祥事は不問にして差し上げますから!」


対して、代表は今までとは打って変わって、怯えた表情で問いかける。


「……どうやら代表には、さっきの魔法使いの行動が効いたみたいだな」


「……」


こっそりと耳打ちする戦士の言葉に、私は顔をしかめる。


私達、いや、私を怒らせたら殺されるとでも思ったのだろうか?


仕方ないとは言え、どこか釈然としないながらも、それならばと私は代表の前に進み出る。


ビクリと身を震わせる代表の様子に、内心微妙に傷つきながらも、構わず先ほどの問いに答える。


「今さら私達が、金銭や権力で動くとは思わないでほしい。私達が欲しいのは、ある情報」


「情……報?」


私の答えに、脂汗を滲ませる代表の顔には喜色が浮かぶ。


「な、何でも言いなさい! どんな事にも答えて差し上げますから!」


「……その言葉、忘れないで」


言質を得た私は、静かに言葉を紡ぐ。


「私達が知りたい情報は三つ。


『大神殿』

『天樹の果実』

『異界の鍵』


これらの所在」


「なっ――!?」


「そっ……!?」


それを聞いた途端、代表と皇帝、そして放心していた国王はさっと顔を青ざめるが、私は構わず言葉を続ける。


「……私達の目的は、

――勇者を蘇らせる事」



私は語る。

ある物語を……


「……『昔、一人の青年が死んでしまった恋人を蘇らせる為に、大神殿から禁じられた秘術を盗み出し、大地に豊かな実りを与えると言われる天樹の果実を奪い、そして蘇生の秘術に必要な膨大な魔力を求め、異界へと旅立った』


私達は、それを再現する」


「な、何故貴様がそんな事を……いや、バカも休み休みいえ! 異界の鍵だの天樹の果実だの、そんなものはただのおとぎ話にすぎん!」


「そ、そうですとも! そんなのある訳が……そもそも死んだ者を蘇らせるなど……」


露骨な態度で狼狽える皇帝と代表に、


「そう……、知らないのなら仕方ない。もうあなた達に用はない」


私は嘆息しつつ、杖を二人に向ける。

そんな私の行動に、代表は慌てて詰め寄る。


「ま、待ちなさい! だ、大神殿の場所なら知っています!」


「おいっ、貴様!」


必死に止めようとする皇帝だが、代表は構わず言葉を続ける。


「わたしの家で代々伝えられた伝承ですが、大神殿は南部連合がある大陸の更に南、聖なる山の奥深くにあるそうです。さあ、答えたのですから、早く解放をっ!」


自分可愛さにべらべらと捲し立てる代表に、内心呆れつつ視線を反らすと、怒りに震え、代表を睨み付ける皇帝の姿。



「クソッ、このバカ女が! 貴様は何をしたかわかっているのか! これで世界は終わりだっ!」


喚き散らす皇帝の態度に、今度は代表が怒り、噛みつく。


「貴方こそ何を言ってるのですか! 貴方が言ったように、こんなのはただのおとぎ話、誇張された伝説に過ぎません! 大神殿も果実も鍵も、実在なんかしません!」


怒りのあまり、私がそばにいる事さえ忘れたのか、代表はたった今言った事を否定する言葉を、皇帝に吐き捨てる。


「ぐ、ぬぬぅ……」


言葉を詰まらす皇帝に、私は言葉を投げ掛ける。


「そう、あなたは知っている。伝説が単なる伝説ではない事を。何故ならこれは、あなたが発端だから」


「っ!? 貴様……何を知って……」


ビクリと身を震わせる皇帝に、私は答える。


「そう……、全てはあなたの野心が始まり。世界の全てを手にする為に、開けてはならない扉を開けた。でも、あなたは甘く見ていた。異界の者達の力を……」




伝説――


それは

青年の物語。


愛する者を喪いし青年は

死者蘇生の噂を信じ旅立つ。


聖なる神殿にて

禁断の秘術を。


命育む大樹にて

永遠の果実を。


異界の果てにて

無限の魔なる力を。


蔓延るは異形。

失われしは恵み。


生誕せしは魔なる王。


それは

世界を滅ぼす

魔族の王の物語。




>>>to next.

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