私たちの旅路
世界は、危機に瀕していた。
魔族と呼ばれる異種族に、侵略行為を受けていた。
そんな世界で、私達は冒険者として旅をしていた。
けれど、ただの冒険者ではなく、魔族の王――魔王を倒す為に旅をする冒険者だった。
戦士、僧侶、魔法使い、そして勇者の四人組。
謂わば、勇者のパーティ。
それが私達だった。
勇者は、一言で言えばお人好しな青年だった。
容姿はそこそこ、剣の腕もそこそこ、魔法もそこそこの、どこにでもいる純朴な青年と何ら変わらない、ただ底抜けにお人好しな青年だった。
困っている人を見捨てられず、助けを求められれば、たとえ火の中水の中。
そんな勇者に付き合わされていた私達の苦労は、とても一言では語れない。
それでも私達は、そんなお人好しな勇者の人柄に惹かれ、共に旅をしていた。
長い長い旅の果て、私達は魔王の城へと辿り着いた。
幾多の苦難を乗り越えて、幾多の苦戦を切り抜けて、私達と魔王の最終戦は始まった。
魔王の攻撃は激しく、今までの戦いが、まるで児戯にも等しく感じられた。
全ての攻撃が高レベルであり、一撃一撃が必殺。
正に魔王の名に相応しい攻撃だった。
だけど、私達もこれまでの冒険で、力も魔法も、そして何より心も、最初の頃より遥かにレベルアップしている。
負けるはずは、ない。
そして、遂に……勇者の剣が、魔王の胸を貫いた。
これで、世界は救われる。
誰もがそう思った時、
――悲劇は起きた。
「――っ!?」
瀕死だった魔王の最後の攻撃魔法が、私達を襲う。
それにいち速く気づいた勇者は、自らの体を盾に――
「くっ!?」
それは、勇者の胸に直撃、爆音が轟く。
勇者は口から血を吐き、ゆっくりと膝から崩れ落ちる。
「ゆ、う……しゃ?」
その光景は、あまりにも信じがたく、私も僧侶もすぐには動けずにいた。
「てめえぇぇえっ!!!!」
いち早く動いた戦士が、疾風の如く走り、魔王の首を大剣で斬り飛ばす。
「クソっ……、勇者! おい勇者っ!! しっかりしろっ!!」
魔王の返り血を浴びた戦士は、けれどそんなものは気にも止めず、勇者に駆け寄り、抱き起こす。
「勇者さんっ!?」
「勇者!」
体の硬直が解けた私と僧侶も、急いで勇者に駆け寄る。
「僧侶! 早く回復魔法をっ!」
「は、はいっ!」
戦士に促されながら、僧侶は勇者に治癒魔法をかける。
その様子を見ながら、私は半ば確信していた。
勇者は、助からない。
魔王の最期の攻撃は、正に渾身の一撃だったのか、勇者の左胸から脇腹にかけて、無惨にも抉られている。
傷の大きさ、出血の多さもさることながら、それは明らかに致命傷。
もはや虫の息とは言え、勇者が生きている事さえ、奇跡に近い。
僧侶は必死に治癒魔法をかけてはいるが、それは気休めにもならず、勇者の顔色は目に見えて蒼白になっていく。
「勇者……っ」
こんな時にさえ、冷静に思考してしまう自分に苛立ち、唇を噛む。
「がはっ……ゴホッ!」
「勇者っ!」
「喋っちゃ駄目です!」
それでも、私達に何かを伝えようと勇者は口を開くが、吐血を繰り返すばかり。
声が出せない事を察した勇者は……、
「勇者っ!」
「勇者さんっ!」
「勇者!」
『僕は大丈夫だから』とばかりに私達に微笑みながら、静かに息を引き取った……。
その後の私達の行動は、正に三者三様だった。
僧侶は泣き崩れ、勇者を救えなかった自分を責め続け、戦士は怒りをあらわにし、怒りの赴くまま魔王の屍を殴りつけ、蹴りつけ、斬り刻み、その四肢をバラバラにしても飽き足らず、魔王の間の壁や床を破壊し、私は……、
「…………」
ただただ、放心していた。
それから、どれくらいの時が過ぎたのか、
「……国へ、帰りましょう。勇者さんを連れて」
泣き腫らした僧侶が、小さく呟く。
「……そう、だな。もうこんなとこには、一秒たりともいたくねえしなっ……!」
多少なりとも怒りを発散出来たのか、戦士は吐き捨てるように応え、
「……うん。きっと、勇者も帰りたがってるはず」
私も、こくりと頷き同意を示す。
こうして、私達の旅は終わった。
世界を救ったら喜びもなく、勇者を失った絶望の果てに――
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