プロローグ
「……本当に、これで良いのでしょうか?」
薄暗い一室。僧侶は椅子に腰掛けうつ向いたまま、誰ともなしにぽつりと呟く。
いつも笑顔が絶えなかったその顔は今、隠しきれない涙の跡が垣間見える。
「今さら何言ってやがる。もう決めた事だろう。それともアンタにとっちゃ、その程度で諦められるもんだったのか?」
戦士は無骨な鎧の止め金をはめながら、無愛想に僧
侶の呟きに答える。
「私達は、私達の願いを叶える。……その為なら、手段は問わない」
壁に立て掛けていた愛用の杖を手に、私も答える。
「そう……でしたね。ごめんなさい。戦士さんと魔法使いさんの言う通りでした」
僧侶はそっと目元を拭い、顔を上げる。そこにはもう、迷いはない。
「……わたくし達は、これから罪を犯します。それは、紛れもない悪行であり、決して許される事ではありません。世界全てに非難され、蔑まされ、罵倒され、たとえ死したとしても、わたくし達の魂は地獄へと堕ちるでしょう」
僧侶は首から下げた銀の十字架を握り絞め、私達に……自分に言い聞かせるように語る。
「それでも、わたくし達は叶えたい願いがある。だから――っ!」
握り絞めた十字架を、力一杯引きちぎる。
勢い余って、僧侶の手から滑り落ちた十字架は、カランカランと音を立て、足元へと転がり落ちる。
「……今この時を以て、わたくしは信仰を捨てます」
ずっと、信仰と共に生きてきた僧侶が、信仰を捨て
た。
それは、決意の証。
「ハッ! 生きるも地獄、死ぬも地獄ってか。おもしれえ!」
戦士は大剣を肩に担ぎ上げ、笑みを浮かべる。
「それじゃあ、始めよう。私達の願いを叶える為
に……」
私は、仲間の気持ちは一つである事を確信し、扉へと向かう。
「私達は……、
――世界の敵になる」
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