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魔王と公爵令嬢

作者: 松谷 真良

5年前。魔王が、代替わりした。

その時12歳だった私は、広がっていく魔物・魔族の被害に何もできず、ただ周りの人に公爵嬢として守られる日々を過ごした。

 当時、そして今も通っている王立学園に魔族が侵入してきたことはなかったけれど、私は知っている。魔族の被害がどんなに恐ろしいモノだったのかを。


 半年前に、国が勇者を召喚しました。それは、私と同い年の少女でした。とても美しい少女。

黒髪に黒目の少女は金髪が多いこの世界で目立っていて、でもそれ以上に勇者としての能力を持ち合わせていました。

魔王討伐には、当然勇者、それから私の婚約者だった王子、王子の目つき役で魔術師、そして騎士が向かった。


 そんな勇者が魔王を退治したと、魔王と共に帰ってきた。魔王と、ともに。

大事なことだから2回言いました。

 勇者と同じく黒髪黒目の少年が、魔王だというのです。勇者に惚れたのだそうです。害はなさそう…というか、5年間苦しめられてきたのは水に流すことになったのだとか。魔王の力にはかなわなくて。

さらに、勇者に王子が惚れたらしく、私は婚約を解除されることとなってしまいました。

別にそれはどうでもいいです。

 けれど、勇者を私からかばうように王子と魔王が動くのが不服です。

勇者に何かしようとか思っていません。なにも、しません。王子との婚約とかぶっちゃけどうでもいいんです。色々なことが知れれば、それで満足。

 魔王と勇者が新たに王立学園へ編入してきました。王子は元から通っているのですが。

ザワザワと周囲がうるさくなってきたのです、最近。

でも、何よりもうるさいのは、勇者が繰り広げる魔王と王子との茶番ですね。

私のために争わないで、とか…どこのヒロイン?

私はどっちも好きよ、とか…何のつもり?

ねぇ、王子の婚約者つまり皇太子妃になるってことは、この国の業務を果たして、国民の命を背負わなくてはならないのよ?

確かにあなたは勇者で、魔王討伐のためとこの国に勝手に召喚された。だから、何もしないで学園でぬくぬくと過ごしていた私が言えることではないかもしてない。

 でもね。

私はこの国が好きなの。腐敗させないでちょうだい。憧れの王子様との~とか、繰り広げるのは勝手よ。それは王立学園の中だけにとどめておいて。

ああでも、魔王の力があればどうにでもなるのかしら。

どうなのだろう。調べてみたいけれど、協力はしてもらえないのでしょうね。やらせるつもりもないわ。



こんなこと、直接勇者には言えなくて。私の気が弱いわけではないの。

一度、言ってみたのよ。でもね、そしたら泣かれてしまったわ。

私は、王子と魔王に睨まれることとなってしまったの。あれは失敗でしたね。






「ナァオ」

 最近、私の寮部屋へ入り浸るようになった黒猫に話しかけます。

というか 半分以上ここに住んでいます、この猫。怪我をして窓の外に倒れていたの。慌ててすくい上げて治癒魔法で怪我を直せば、グルグルと気持ちよさそうに喉を鳴らして、部屋に居座ってしまいました。どうしようもないけれど、別に粗相をやらかすとか、家具を傷つけるとかしないから放っておいてます。 それに良い話し相手にもなるので。

だって、ほかの人には間違っても聞かせられないじゃないですか。勇者たちの耳に入ったら大変だもの。

月光を反射して黒光りする艶々の毛並みに、ピンと立った尻尾、青色の瞳を持った賢そうな瞳。

私が勝手にノアと名付けたのだけれど、呼びかけると返事をしてくれるからいやじゃないと思うことにしたの。

ザラリと生暖かい感触がして、ノアに頬をなめられます。


「私、頑張ったのに。…王妃として恥ずかしくないように、勉強して。他の子たちみたいに遊びたかったけど我慢して。なのに」

無駄になっちゃったみたい。今度は誰と政略結婚することになるのだろう。お父様はどの公爵家をお選びになるのかしら。

「にゃあ」

 なぐさめるようにノアは体を私に擦り付けてくる。

「ごめんね。ノアに話しても無駄なのにね」

 ピクリ、と耳が揺れた。何を感じたのかな。

窓をカリカリと爪は出さずに引っ掻くので、開けてあげる。

「にゃあ」

 一声鳴くと、ノアは夜の闇の中へ消えて行った。

「…自分勝手な猫」

 猫だから自分勝手なのだろうけど。



 翌日。ちょっと寝不足だな、なんて思いながら教室に行く。

相変わらず、王子と魔王が勇者を取り合っていて、入ってきた私に気付いて睨み付けてきた。でも気にしない。

 授業を受けながら少し転寝していると、衝撃が襲い掛かった。

窓ガラスが割れた。

悲鳴が上がる。

校庭に何かがいるようだ。そして、その何かが、威嚇で窓ガラスを割ったのだと気付いたのは少したってから。

「魔族!?」

「なんで、私が退治した、のに」

「俺の命令が聞けないのかよっ」

 勇者、王子、魔王が窓から直接校庭へ飛び降りた。



「レフィリュール、だな」

 ボーと3人が魔族と喧嘩しているところを見ていたら、グッと後ろから羽交い絞めにされた。

もう一人、魔族がいたの!?

「はな、して!!」

 無駄だとは思うけれど。非力な力で精一杯蹴りあげるが、全く効果が無かったみたい。

魔族は、私を捕まえたまま校庭へ移動した。

なにがしたいのだろう。






「くっ、なんで俺の命令が聞けないんだ!」

「勇者の力に屈したものを魔王とは認めない!!」

「屈したわけじゃない!」

 そんな言い合いどうでもいいから。私の現状に気付いて欲しいです。

まさか!

気づいてるけど、嫌われすぎて放置されているのか!?

「にゃあ」

 場にそぐわない鳴き声が聞こえた。なんとか視線を動かすと、魔王の奥に、見慣れた黒猫がいるのが見えた。

「ノ、ア」

 ダメ、来たら。あなたは猫なのよ?

「猫ごときがっ」

 話がなかなか進まない憂さ晴らしなのでしょうか。私を捉えていない方の魔族がノアめがけて炎を放った。

不思議そうに首をかしげたノアに、炎が当たって大きく爆ぜた。

「猫の分際で、そんなところにいるからだ」

 フフン、と鼻で笑う魔族。

猫の、分際?

「ノア、ノア!ノアッ!!」

 なんで?なんでノアが。何もしていないじゃない。猫なのよ?

放して!私を放して!

抵抗すると、しかめっ面をした魔族に蹴りを入れられる。痛い。苦しい。

「黙れ」

「ゲホッ、っう」

 ノア…

炎の中から真っ黒な球体が浮かび上がり、炎を吸い込んで脈打つ。

なんでしょうか?魔族の術の延長なのかとも一瞬思いましたがそうではないようです。

トクリと小さく胎動した球体が、内側から爆散した。

中から現れたのは、黒髪を首の後ろで縛り、海を思わせる青色の瞳の同い年くらいの少年。身に纏っているのは真っ黒なマントに、黒い騎士のような服。

なんだか、ノアみたい。みたいじゃないのかもしれない。

もしかして、

「ノア…?」

 期待しながら名前を呟けば、肯定するかのように少年は楽しそうに笑う。

「猫でいるのも不便だと思ったが…そうでもなかったな。特にここ最近は」

 パチリ、と少年…ノアが指を鳴らすと、魔族の拘束が解けた。いきなり解けたから、反動でしりもちをついてしまう。何事かと振り返ると、そこに魔族の姿はなかった。…どういうことでしょう?

ノアの方を見ると、悪戯っぽく笑いかけてきて、私の前にやってきた。そして、私の腕をとって立たせてくれる。

「ありがとう」と礼を言えば、クスクスと笑われる。面白いところなんてあっただろうか。

そのままノアは、驚いて目を丸くしている魔王の方を向く。

 

「全く…素直な弟が珍しく反抗したから何かと思って大人しくしていてやればこのざま。みっともない。本当にそれでも魔王か。俺が寝ている隙をついて呪をかけたのは称賛してやろう。そして、それでもなお油断せずに特別性の塔に閉じ込めたのも」





え?



「魔、王?」

「どういうことだ、カイン!?」

 勇者と王子が責めるように魔王を睨みつける。いえ、睨みつけているのは王子だけ。勇者は騙していたの?と言いそうな表情で魔王を涙目で見上げている。

「な、んで出れたんだよ!?おかしいだろ!俺はっ、俺はあんたに銀を打ち付けて!魔力抑制の鎖をかけて、封印したのに!それにっ」

「真名を呼んで拘束もしたのに、か?」

 クスクスと笑ってノアは魔王の言葉を先取りする。

どういうことなんだろう?ノアが先代魔王で、それに魔王に閉じ込められていた?

確かに魔王の代替わりは急だったけれど…そういう事情だったのですか?

「そうだよ!おかしいだろ!?」

「フム、それは昔からよく言われるな。死にかけたのは確かだが…生憎と死ねなかったようだ」

 ちょっと肩をすくめ、ノアは私を抱き寄せる。

「わっ!?ノ、ノア?」

 恥ずかしいんだけれども。と思いを乗せて見あげると、頭をなでられた。

というか死にかけたってどういうことなのだろう?

「気づいたら猫の姿になって倒れていたのもまた、事実だ」

 だからどうやって抜け出したのかはあやふやで覚えていない、と茶目っ気たっぷりにノアは魔王へ告げる。

魔王も勇者も王子も絶句した。そこまで言葉を失うようなことだっただろうか?

「それで血塗れだったの」

「レフィリュール!お前か元魔王を助けたのは!!」

「ええ。ですが王子。罪のない動物が外に落ちていたら助けるでしょう?」

 何故責められなくてはいけないの?それに、ノアがいなかったら私たち殺されていたのではない?

それはいいとして、いい加減放してもらいたいのです。恥ずかしい。

気持ちが通じたのか、ノアは私を放してくれた。良かった。

「弟よ」

「んだよ!?」

 ノアの呼びかけに背中の毛を逆立てて目一杯威嚇している猫のような魔王が、少しかわいいと思えてしまった。ちょっとおかしいのかも知れない。

「そう、警戒することはないのだが…。人間と触れ合うのは、楽しいだろう?魔族よりもはるかに短命の人間は、その日その日を一生懸命に生活している。見ていて愉快だ」

「そういう思考回路だったのかよ!?」

「そもそも人間なんて脆弱な生き物、俺が名前を呼べばそれだけで塵となる。わざわざ人間界を征服するまでもない。いつでもできるのだから今やらなくてもいいではないか」

 名前を呼べば塵になるって…どれだけの魔力を保有しているのかしら。

「それで、あんた俺の名前を呼ばないのか!?」

「珍しく正解だな。どこにそんな考える頭があるんだ?一つ増えたか?」

 ノアは、ちょ、やめろよ!という魔王の抗議を無視してワシャワシャと頭を乱雑にかき混ぜる。

頭が一つ増えるって…ああ、魔族だものね。

「それでレフィリュールとの関係は?」

「お前が気にするようなことではないだろう人間の王子?彼女の努力を先に裏切ったのはお前の方なのだから、彼女がどうこうしようとお前には関係あるまい。勇者と楽しくキャッキャウフフしていればいい」

 ポンポンと頭を叩かれる。やめてほしい。背が縮む。

「私、どうなるの…?」

 食べられちゃうのかな?俺の弱みを知った罰だ、とか言って。

「そうだな…嫌でなかったら魔王城で暮らしてもらいたい」

 遠まわしの求婚かしら?そうよね、きっと。嫌ではないわ。どうせ政略結婚させられるのだろうし。

「魔王は必要ないのよ!だって勇者が倒したのだから!」

 勇者がノア…というか私?を睨み付けてきた。

「俺も倒してみるか、小娘。弟とは違って、容赦しないぞ」

「容赦ってなんだよ!」

 魔王がノアへ突っかかる。容赦、ね。なんだろう。

「そうだな…とりあえずここら一帯を焼き尽くす」

 魔王だ…魔王がここにいる!いや、魔王だったか。

「ちょ、卑怯じゃない!正々堂々とっ」

「なぜ?なぜ俺が触れば吹き飛ぶような存在と、いちいち戦わなくてはならない。1人だろうが何人だろうが変わらないだろうに」

「そっか…次元が違うのね」

 合点がいったわ。人間よりもはるかな存在だから、わざわざ手間をかけるのは面倒なのね。

でも、何故猫?

「次元、か。そうだ勇者。女神とは会ったのか?なかなか愉快な性格をしていただろう」

 女神、というと世界の創世神ディメタレアのことかしら。

「会ったわ!変人よ!」

「ノアはなんで知っているの?」

 ノアも会ったことがあるのかしら?あるから言っているのよね。

「同じ親から生まれた者同士、気が合ったんじゃないか?」

「兄妹ってこと!?」

 魔王と、創世神が同腹…どうなんだろうかこの世界。

「親、というよりも親のような存在か?」

「というよりも、あなたが弟よね?」

 いつの間にか、女神がいた。気づかなかった。

腰までの青い髪をキラキラしたもので結っていて、緑色の吸い込まれそうな瞳。ひらひらとした白色のドレスを着ている。胸もとで輝く青石のペンダントが綺麗。美人だ…羨ましい。

「一応そういうことにはなるな。若作りのババア」

「へぇ、そういうこと私へ言える立場にあるのかしらジジイ」

「図に乗りやがって…そんなんだからこんな使えない小娘しか呼びだせないんだよ」

「あらあら?反抗された貴方よりはましだと思うけれど?」

「成長の過程だろう?勇者みたいに従順なバカは嫌いなんでね」

 バチバチと火花が散る。

というかいきなり口調が悪くなりすぎだと思うのですが、ノア。

何でしょう、段々とカオスになっていっている気がします。

「にゃあにゃあ鳴いてたくせに!!」

「で、なんのようだ」

 流した!?流しました!

「レフィリュールは聖女よ!魔王城に連れて帰れるとか思ってるの!」

 ああ、そういえばそうでした。聖女、というか…気づいたら呼ばれていてあまり実感がないのですよね。特に何もしませんし。そもそも女神とか信じてな…ごほん。今初めて会いましたしね。

「思っているがなにか」

「私が許さないわよー!!眼をつけてたのに!」

 だから聖女とか呼ばれてしまっていたのでしょうか?そんな気がします。

「それを知っているから先手を打った」

 兄妹…いえ、姉弟喧嘩発生。

どうしましょう、と困って見ていると勇者が話しかけてきた。

「ごめんね、レフィリュール。私あなたのことを誤解していたみたい」

「いえ。私もあなたのことを誤った認識で見ていましたのでお互い様です」

話してみると新たな一面が見られるのですね。早くからそうしていればよかった。

「同じ女神に被害にあった者同士仲よくしてね!」

「はい」

 被害に会ったわけではないのですが、否定するのも面倒なので。

「王子のことは心配しなくていいから、魔王と一緒に魔王城へ言っちゃえば?ほら、ラブロマンス!」

「はい?」

 追い出されましたね。

「というわけだから、聖女は俺がもらう!」

 こちらはこちらでテンションが上がってしまったようです。女神のせいで。

クスクス笑いながら…笑い転げながら、ノアは私をつかんで有無を言わせず転移させます。

 見知らぬ場所、見知っていたら問題なのだが、に連れてこられてしまいました。

キョロキョロと周りを見て、なんだかとても素敵なところだなと好印象を抱きます。

「あの…」

「ああ、問題ない。その内、魔界・人間界と言ったくくりはなくそうと思っていたからな。聖女の力はありがたい」

 何が問題ないなのでしょう?それよりも、ですよ?

「…私の意志は?」

「嫌なら嫌と言ってくれれば帰そう。だが、ここには秘蔵書が大量にあるぞ。それに俺は長生きだからな。隠された歴史の真実、とやらも教えてやれる」

 ものすごく、つられました。

学園に戻る、とこのままここに住むという天秤が、ググッと傾くのを自覚します。

ノアの目的云々は置いておいたとしても探究心が疼くし、ノアはかっこいいし、私のことを助けてくれたし…。

うう、迷う。

「秘蔵書…」

「禁書もある」

「見せちゃダメでしょう!?」

「そうか?で、どうする」

「っう…ここ、にいたいです」

 なんだか屈辱的な気がしなくもないですけれど…。

「…(俺よりも禁書に釣られやが)った」

 え?小声過ぎて何を言っているのかわからないのですが。

「何か言いましたか?」

「いやなんでもない」

 さっと顔をそむけると、そのままノアは私の手をつかんで歩き出します。

とても冷たい手です。冷え切ってしまったわけではないのだろうから種族の特徴なのでしょうか?

「ノア、は本当に魔王なんですね」

 すれ違う魔族が驚いた顔をして膝まずくのを見て、実感した。

拾った黒猫が、本当に魔王だったのだと。

「驚いたか?」

「驚いたきました」

「フフ、まぁこれから知っていってもらえばいいしな。俺はお前に惚れているんだぞ?」

「そうなのですか?」

 薄々察してはいたけれど。でなかったらこんな風に強引に魔王城へ連れてこられることはなかったでしょう。口に出されるとなんだか気恥ずかしくて、気づかなかったふりをしてしまいました。

「たった少し触れただけで壊れてしまうような人間でも、こういった不思議なことが起こるから面白い」

「面白い…ですか?」

「ああ、面白いとも」

 驚いた顔をした魔族がチラチラとこちらを見てきます。ノアを見て驚いているのでしょうか?

「違うだろうな」

 絶妙なタイミングで否定されました。

「…心でも読めるのですか」

「読めるが?」

 では気を付けないと…。何を拾われるかわかりません。

「普段は読まないよう気をつけているんだが、どうやら制御が甘くなっているらしい。…気を付けないとな」

「むむ」

 なんということでしょう、失礼な能力ですね。

後遺症が出るか不安になるほどひどい傷だったのに、今はぴんぴん。神様相手に喧嘩を売れるほど。…再生能力凄いですね。ジジイのくせに。

ノアがいきなり止まったので、つんのめりました。ノアの背中にぶつかります。

「ノア?いきなり止まられると」

「しまった囲まれた」

「はい?」

 一体何に囲まれ…魔族の大群に囲まれていますね。後ろも前も、天井も。

…天井に張り付いている魔族は根性ありすぎだと思います。

「魔王様!!」

「…弟に譲ったはずだが」

「魔王様は魔王様です!憧れのっ!僕ら魔族の始祖様!!」

 えらくキラキラとした瞳で見られていますね。

「いや、男に好かれる趣味は」

「性別ないくせに」

 ええっ!?ボソリと後ろから恐ろしいセリフが聞こえてきました。

「ああ、宰相。ご苦労様。じゃあ」

 グイッと強引に私を抱き上げたノアは、窓をけ破って外に…って、ここ何階だと思ってるんですか!?

「ちょ、まっ!?や、やああああ!?」

 内臓が浮く感覚がっ、いきなりはひどいっ!



落ちるっ!


「落ちやしない」

「ですね。…え?」

 あ、本当だ。浮いてる。空を飛んでますね。真っ黒な大きい翼が力強く羽ばたいて上昇…上昇はやめてほしいのですが、何処へ連れて行かれるのでしょう。

「翼、生えるんですか」

「そりゃあな。魔王だし」

 魔王なら翼が生えるんですか…

「どういう理由ですか」

「待ちなさいっ!!!なんなんですかあなたは!!カイン様に負けてっ!オイこらクソ魔王!!」

 怒声が後ろから聞こえてくるのですが。無視していいのですか?

「うるさい」

 ピンとノアは何かを下へ投げつけました。爆音が響き、悲鳴が聞こえてきます。

「あの…?」

「気にするな。いつものことだ、すぐになれる」

「いつものこと、ですか」

「ああ」

 いつものこと、なんですか。慣れられそうにないのだけれど…禁書のためなら!がんばって見せます。



そういえば。

「性別、ないんですか?」

「まぁ、ないな」

「…」

「…」

 ないんですか、そうですか。

会話が続かないのはなぜでしょう。



「・・・見せたいものが、あるんだった」

 グッと上昇するスピードがあがっ、やめてほしい!

一体どこまで上がる気なんでしょう?

地面が平らではなく球体に見えてきていますよ?

「このくらい、か…。世界が一望できるだろう?」

「そうですね」

 空気が薄くなって辛いかと思ったけれど、ノアが何やら施してくれたみたいですね。普通に呼吸できます。

「人や魔族がどんなに小さいことか…魔族や人、と種族で差別することがどんなにバカらしいか、よくわかる。そんなことを抜きにしても世界は美しいだろう?壊してしまうのがもったいないくらいに」

「世界が美しい、ですか。そんなことへまで思考を回したことはなかったですね。その日その日を楽しむことで頭がいっぱいで」

 こうやって、上から見下ろすとどんなに人が小さかったのかがよくわかりますね。世界がとても大きいだけ、とも言えますけれど。

「どうしようもなく壊したくなった時はこうやって…自分の小ささをかみしめている」

「自分の小ささ?」

 壊したくなった時、って結構危険だったんじゃないですか、人間界!?

ノアがこうして理性を保っていてくれて感謝でいっぱいですよ、本当に!

「何もない空間で独りきりだと、自分の力が小さくなったように感じるだろう?まぁ、しばらくはお前がいてくれるから退屈しないで済みそうだ」

「退屈って…私は禁書を読むんですからね!」

「わからないことがあったら聞きに来るといい。教えてやる」

「いやですよ!」

 絶対聞きになんて行きません。自分の力で読み解いてみせます。






 というわけで、私は魔王城に連れ去られて、奥深くで禁書たちと戯れているのですよ。

ノアとは、お互いの気が向いたらイチャイチャして遊んでますけれど…。魔王の仕事をしっかりと行っているようで忙しそうです。

王子や勇者、魔王のことは知りません。知らせてもらえないですし、興味もないので。

本当に充実した毎日で幸せすぎてどうしましょう!

さぁ、禁書!待ってなさい!全部読み解いてあげるんだから!自力で!!


登場人物

・レフィリュール

公爵令嬢。またの名を聖女(といっても女神に知らずのうちに好かれていたからついただけ。別に治癒魔法が得意とかそういった付属はない)。

部屋の外に血まみれで倒れていた黒猫を拾って助ける。その黒猫が魔王で、なんとなく好かれた。


・元魔王、そして黒猫からのジョブチェンでまた魔王

ノア。イケメン。本当はもう少し長い名前があるけれど本編ではでてこない。

魔力がありすぎたせいでなかなか死ねない。が、珍しく死にかけていたところをレフィリュールに助けられ、好意(?)を抱く。

残念女神と姉弟。


・勇者

名前は特に決めていない。地球から召喚されちゃった女の子。どうやら地球には戻れないらしいが、本人的にはイケメンと結婚出来そうだし構わない。結構な強者。王子と魔王にちやほやされていい気になっている子。近々反省する予定。


・王子

こちらも名前なし。キラキラのガチ王子っていうルックス。イケメンに分類。レフィリュールと婚約者だったが、婚約を破棄して勇者にプロポーズ。返答はまだもらえていない。不憫な人?


・魔王

カイン。種族は・・・未定。ノアの弟。といっても血縁関係があるわけではなく、魔族の制度でそうなのっているだけ。ちょっとノアに反抗したくなって閉じ込めて魔王名乗っちゃう子。


・女神

残念な女神。ノアの(自称)姉。大いなる存在から生み出されたもの。

ちょっと途中で性格が歪んでしまっただけであって、神経はまとも・・・だと思われる。女神としての能力はすごい。


・魔族宰相さん

この人も名前なし。種族は吸血鬼。ちょっとしか出てこないのに、ノアに魔力ぶつけられて再起不能になっちゃうかわいそうな人。でも吸血鬼がから再生能力半端なくって、すぐ復活してくる。美人な奥さん持ってる。


・魔族A,B

カインの腑抜けっぷりに嫌気がさして、聖女とかいうレフィリュールさらって反乱しちまわね?という単純思考で動いちゃったモブ。ノアの指パッチンで消滅。

本作で最も不憫なのは彼らかもしれない。

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