転校
『慶ちゃん!新しい学校の制服が届いたよ。あと必要な物はない?』
『ないです』
もう戻ってくる事はないと思っていたのに。俺は結城慶太郎になってこの家を出た。お義母さん!もうあなたの顔を一瞬ですら見れません。お義母さんはどんな顔をして俺に話しかけているんですか?俺は俯いたまま新しい制服を受け取って自分の部屋に早く逃げ込みたかった。
『慶兄ちゃん!遊ぼう!』
『悠!また今度ね』
俺は自立支援施設を出て必死に頑張って受かった私立中学を半年程で退学になり中学2年から公立の中学校へと転校する事になった。街で出会って名前も知らないまま遊んだ同じ歳の女の子を俺はバイクに乗せて死なせてしまった。俺は本当に生きてていいの?ねえ?壮ちゃん!俺だけなんで生きてるの?
『おい!お前転校生だろ?』
何クールに気取ってんだこいつは!ムカつく!
『だったら何だよ?なんか用か?』
はあーまた頭の悪い奴らしかいねー公立だし俺の人生はとっくに終わってる。
『はあ?てめぇー私立行ってたからって調子に乗んなよ!』
(ッバシ!ドフっ!ガンっ!バシッ!)
『調子になんか乗ってねーよ!っぐぅ。うぅっ。いってぇーな!ハァハァ、っぐぉ』
こんなレベルの奴らにやられるのはムカつくじゃねーか。
『もういいよ!恭一!こんな弱いボンボンやっちゃったってつまんねーよ』
『待てよ!ハァハァ、俺はまだやれるぞ!』
『強がるなよ!お前じゃ勝てねーよ!坊っちゃんは勉強でも頑張ってろ!』
くっそー。絶対やり返してやる。俺は坊っちゃんじゃねーよ。坊っちゃんにもなりきれねーんだよバカ!俺はこの日を境に学校には行かず毎日空手とボクシングジムに通い一日中体を鍛える事に専念した。あんな努力もしねー頭の悪い奴らになんか負けたくねー。ただそれだけの理由でヘトヘトになるまで鍛え時折街で出会った名も知らぬヤンキーかぶれを相手に喧嘩し自分の力を試していた。やられたらやり返す!俺が今生きているのはそれだけの理由しかない。やり返したあとはもう生きる理由がないな。
『おい!恭一くんだっけ?この前はどうも!』
(バシッ!バシッ!ガンっ!バシッ!)
『っうぐぅ、な、なんだよ!っく、いって』
なんだこいつ!坊っちゃんがなんでいきなり強くなってんだよ。
『俺をなめんじゃねーよ!』
(ッバシ!バシっ!ガンっ!ガンっ!バシッ)
『っぐ、や、やめろ!うっぐぅ、わ、悪かった』
『お前らの頭は誰だよ?大輔って奴か?』
(バシッ!バフッ!バシッ!)
『っぐぅ、そうだよ!っく、でも大輔はやめとけ!っぐう、うぅ、お前じゃ無理っく』
『それは俺が決めるんだよ!』
お前らみたいな努力もしてきてねーバカ共になめられるのが1番ムカつくんだよ!
『おい!お前何してくれてんだよ!恭一?大丈夫か?てめぇー仕返しかよ?ふざけんなよ!お坊っちゃんが!』
坊っちゃんがお見舞いに舞い戻ってくるとはな。意外だったぜ。
『ふざけてねーつうの!1ヶ月も学校来てねーから俺がビビって逃げたと思ったか?残念!やられたらやり返すでしょ!普通ですよね!俺は家に引きこもってたわけじゃないんだよ!』
(バシッ!ガンっ!ゴンっ!バシッ!)
『っぐぅ、少しは鍛えてきたんだな。坊っちゃん!っうぅ!』
なんだよ!以前とは全然違うじゃねーか。
(バシッ!バフっ!)
『っうぅ!俺は坊っちゃんじゃねーよ!くたばれ!大輔!』
(ガツッ!バシッ!ガン!ゴン!バシッ!)
『うぁっぐぅ、ハァハァ、っぐぅ、まだだぞ!早く来いよ!慶太郎!』
やべー。やられそうだ。
(バシッ!ガシッ!)
『ハァハァ、っぐ、やっと名前で呼んでくれたね!じゃあ遠慮なく!ハァハァ』
(ッバシ!ガンっ!バシッ!バシッ!ゴンっ!)
『っぐ、ハァハァ、いってーっうぅ、ぐぅ』
『大輔!大丈夫か?俺らもやるぞ?』
なんだよ!坊っちゃんがなんであんなに強くなるんだ!大輔が完全に押されてんじゃん。
(バシッ!バシッ!バフっ!ガツッ!)
『っく、ユズル!やめろ!っぐ、俺と慶太郎のタイマンなんだよ!っぐぅ!』
俺のパンチがあまりあたらねーじゃん。くそっ!お前も負けず嫌いか?慶太郎!俺も同じだ!
(ッバシ!バシッ!)
『ハァハァ、お、俺は何人でも相手出来るぞ!仲間呼べよ!っぐぅ、強がるなよ!大輔!俺の方がお前より強い!』
(ガンっ!バシッ!ドフっ!バシッ!)
『ハァハァ、っぐ、あーお前の方が強いな。ハァハァ、でもまだわかんねーぞ。俺、最近鍛えるのをさぼってたからな。っうぁ、っぐ』
俺の負けだ。慶太郎!でも俺だって負けず嫌いだからな!
『あっそう。ハァハァ、じゃあ鍛えたら第2ラウンド開始でいいよ!俺にも少しは生きる楽しみが出来た。今度はしっかり鍛えてこいよ!じゃないとお前やっちゃうよ?俺を殺す気で来い!俺は命なんて惜しくねーんだから。お前らみたいにぬるい人生歩いてねーんだよ!次はもっと本気でこい!大輔!わかったのかよ!おい!こら!今やっちまうぞ!大輔!俺をやれ!』
(ッガツ!バフっ!バシッ!)
『っぐぁ、うぅっ、あーわかったよ。慶太郎!俺もたいしてぬるい人生歩いてねーけど。ハァハァ、慶太郎!お前だけが特別じゃねーよ!』
ハァ、なんだよ!お前!死にてーから強くなったのか?お前に何があったか知らねーけど人生みんな色々あるに決まってんだろ。
『慶ちゃん!おかえり!え?どうしたの?大丈夫?喧嘩したの?』
『なんでもないです』
もう俺を出迎えねーでくれよ。あなたの顔も見たくないんです。俺は人を殺したクズだからあなたの迷惑でしかありません。
『あっ!兄貴!おかえり!ちょっと勉強教えて!ここわかんないんだけどってどうしたの?』
兄貴はなんでそんなふうになっちゃったの?お母さんが死んじゃったから?でもお母さんは病気で死んじゃったんでしょ?しょうがないじゃん。全ての病気を治せる程医療だって完璧じゃないんだから。俺は医者を目指すよ。兄貴は?兄貴の方が頭いいじゃん。
『なんでもない。慎二郎!家庭教師に教えてもらえよ。俺は飯いらねーからってお義母さんに言っといて』
家政婦はまだかよ?毎日声かけられるのが苦痛だ。今さらみんなで飯なんて食えねーよ。ちゃんと手配してんのか?クソ親父。
『あっ、うん。わかった』
壮ちゃん。俺はなんとかやってるよ。でもやっぱ壮ちゃんと居たかったな。お仕置きは嫌だけど壮ちゃんは俺の居場所を作ってくれていたよね。俺があんなバカやらなかったら今も壮ちゃんと暮らせていたのにね。夏休みになったら遊びに行くよ。壮ちゃん!俺何の為に生まれてきたのかまだわからないよ。俺の未来はどんな感じなんだろう?落ちこぼれた俺に未来なんかあるの?壮ちゃん!会いたい。