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僕が生まれたわけ

生きるとは?


人生とは?


愛とは?


人間が誰しも抱えるテーマを題材に描いていきたいと思います。


『ッ!いやっ!痛いっ!ご、ごめんなさい』


僕のお義父さんになった「壮ちゃん」こと結城壮一郎にいつものお仕置きをされている最中だ。壮ちゃんお手製のお仕置き道具は当然ながらハンパなく痛い。ホームセンターで購入した木材を削り日曜大工ヨロシクさながらわざわざ作りあげた世界で1つしかない僕専用のお仕置き道具。とてもじゃないが到底ありがたくもない道具で叩かれている。グリップには僕の名前も彫ってあるそうだがまったくもって嬉しくはない。嬉しいはずがないだろう。何度かゴミに出してやろうと試みた事はあるのだがチェックが厳しくいまだに成功していない。壮ちゃんは外科医なのだから基本的に手先は器用なのだろう。ただ、料理に関しては微妙だ。センスや好みの問題とも言えるが僕とは基本的に合わないのだと思う。僕の名前を彫ってさも誇らしげに微笑み自信作だと眺める様は異常だ。


「サディスト」とはこういう人の事を呼ぶのだろうかと思う事もある。僕は「マゾヒスト」ではないので自分に痛みと恐怖を与えるモノだとわかっていてなお喜び、興奮するような性癖嗜好を当然ながら持ちあわせていないわけで恐いと言う感情以外抱けない。だからこそお仕置きになるのだろうがやはり辛いものは辛い。痛い体罰であるという認識しかない僕にとって「お仕置き」は絶対に避けたい嫌なものだ。出来る限り回避する術を探してはいるがどんなに完璧だと思われる言い訳を並べても壮ちゃんにとっては所詮子供だましなのだろうか。僕の労力は毎回無駄に終わる事が多々ある。


そして今日もまた大人の力とまだまだ成長過程で筋力もなく細い若木のような少年の身体である僕の些細な抵抗などあってないようなものなのだろう。リビングのソファーに座った壮ちゃんの膝に押し倒され咄嗟に庇う腕もあっという間に背中で抑えつけられればもう僕になす術はない。あっさりとズボンと下着をおろされむき出しになった尻に容赦なく壮ちゃんお手製のお仕置き道具が振りおろされる。あまりの痛さに逃げようとするのだがガッチリと押さえつけられればたいして動けるはずはない。それでもどうにか痛みを逃せないかと足をバタバタと暴れまわしてみたり叫んだりする事で痛みの軽減を探ってみる。たとえ気休めだとしても簡単には諦めきれずおとなしく叩かれるのもなんだか癪に触るのだ。そのうち疲れてしまい結局無駄に体力を失うだけだとわかっていても無意識に身体が逃げを打つ事はもはやどうしようもない。その間も手慣れた壮ちゃんは僕に構うことなく尻を叩き続ける。



『慶太郎!何がごめんなさいなんだ?』


(とりあえず謝っておこう程度なのだろう。わかってはいるがそれでも聞いておかなければな…)


『ッ!!痛い!えっーと・・・?ルールを守らなかったから!?っ!痛いよー!やだー!壮ちゃん!ごめんなさい!もうしないよ!ッ!』


『どのルールを守らなかったんだ?』


(毎度、毎度いい加減にしてくれよ)


『…ッ!えっと、22時以降は家にいること?ッ!うわっ!痛いっ!もう無理!痛いよ!ごめんなさい』


(どうしてわかってるくせにいちいち聞くんだよ。痛すぎて頭が回らないよ。どう言えば許される?)


『ルールを破れば尻が酷い目にあう事がわかっていてお前は外出していたんだろ?それならばそれなりの覚悟をして遊びに行ったんじゃないのか?コラ!暴れるな!……おい、慶太郎!違うのか?あわよくばバレないかもと言う確率に賭けた浅はかな行動か?ルールを破った以上お仕置きを免れない事がわかっているんだから我慢するんだな。しっかり反省しなさい』


(はぁー。疲れるな。体罰で解決出来るとは思わないが子供が好き放題自分勝手に生きていいわけじゃないことぐらい理解させなければならない。放任していてまともに育つはずもないしな。庇護されるべく子供が正当な理由もなく深夜に外を出歩いていて良いわけがない。非行を助長するだけだろう。口で言ってわかるなら苦労しないが、理解していればそもそも出歩いてなどいないだろうな。・・・反抗期の子供っていうのはみんなこうなのだろうか!?いや、そんなはずはない。社会や家庭のルールを守っている子供はちゃんといるんだから守らない理由を正当化させてはいけないだろう。自由を勘違いさせない為にも・・・)


『い、痛い!・・・ッ!した!反省したから!痛いよ!やだ!ッ!もう許してよ!死んじゃう!うぎゃーいってーッ!!』


(マジ痛い。壮ちゃんにはどんなに痛いのかわかんないんだ!もう僕泣きそうなのにー)


『俺は医者だぞ。死ぬかどうかぐらいわかる。尻を打ち据えたぐらいじゃ死にはしないしちゃんとお前の尻の状態を観察しているから安心しろ!もう少ししたら手で叩いてやるよ』


(そりゃあ痛いだろうな。痛くなきゃお仕置きにならないしね。反省して二度としないでくれたら俺は安心できるんだがな)


『えっ!?嘘!?まだ?もう痛いよ!反省したって言ってるのにー!壮ちゃんなんか嫌いだ!っく、痛い!ひっく、やだ!うぅっく』


僕はとうとう泣き出した。いつもそうだが謝ってすぐ許されるとは思っていなくともまだ終わらないという絶望感のようななんとも言えない胸の中の感情に慣れるはずもなくお尻の痛みだけが原因ではない涙が溢れ出す。


『嫌いで結構だがルールを守らなければ罰を受けるとお前も納得した上でちゃんと二人で決めたルールのはずなんだけどな。それにお前は反省なんかまだしちゃいないよ!これで何度目だと思ってるんだ?泣くぐらいならお仕置きされるような事をしなければいいだけだろ。学習しないところが反省していない何よりの証拠だ。そろそろ手で叩いても効く頃だな。慶太郎!次にルールを破る時は自分の尻とよく相談してから行動しなさい。わかったのか?』


(俺の当直を狙っては夜遊びしやがって。子供が夜に外を出歩くなんて危険だしロクな事をしないのが目に見えるからルールを作ってるんだろ。俺だって当直なんかしないでお前とちゃんと夜を過ごしてやりたいよ。やっぱり寂しい思いをさせているんだろうな。そうは言ってもお前だけが特別不幸なわけでもないんだよ。わかってくれよ。慶太郎)


『うっ!痛い!わかったからもうやだ!うっく、痛いよー!ひっく、ごめんなさい!』


(痛い。マジ痛すぎる。僕はいつも壮ちゃんに泣かされてばっかりだ。泣きすぎて頭も痛いような…なんかもう思考がうまく回りそうにないな)


『ほら!終わりだ!朝食の準備をするから尻を出したまま壁に向かって立っていなさい。コーナータイムだ。なぜ痛い思いをしたのか自分の行動をよく反省するんだな。動くんじゃないぞ!反省とは自問自答を繰り返す事だ。お前はそれが足りないから同じ過ちを繰り返しているんだろ?ほら、手は頭の後ろに組め!何度もやっている事だろう!わかったのか?慶太郎!返事がないと言う事はまだ尻を叩かれないとわからないのか?』


ペチンと大きく音をたてて尻を叩いてたたせる。まだ終わりじゃないんだとわからせる為に。慶太郎の小さな白い尻は真っ赤に腫れ所々内出血もしているようだが数日もすれば問題なく治るだろう。さすがにかわいい慶太郎に泣かれれば抱きしめてもう許してやってもいいんじゃないかと頭を過ってしまう。甘えは慶太郎の為にならないと自分自身にも渇を入れなければならず思わずしかめっ面になっているであろう自分に内心苦笑いを浮かべる。子育ては親育てとはよく言ったものだ。互いに「人育て」となり魂を磨きあうのだろうかとふと思いながら慶太郎のヒクヒクと揺れる肩を見つめまだまだ骨格や筋力が頼りない少年特有の身体であり守ってやらなければと強く思う反面同時に「心」はどう守ればいいのだろうかとも思う。


『嫌だ!っく、わかった!ひっく、うっく』


痛い。それに痛いを通り越してお尻が熱い気がする。数日は座ったら確実に痛いはずだ。いくら壮ちゃんと2人きりでも尻を出して立たされるのは恥ずかしいのもある。もう中学生だぞとか反省とはほど遠い事をダラダラと思考が巡る。尻をさすったところで痛みが取れるわけでもないのにたとえ気休めでもさすりたくもなる。でも手を組まされて立たされているので手を動かすことは躊躇し壮ちゃんの気配を探ろうと目線が慌ただしく動く。また怒らせてこれ以上のお仕置きは耐えらそうにないのだ。壮ちゃんの養子になって3ヶ月が過ぎた。有名私立中学合格が決まり入学前に高見慶太郎から結城慶太郎になった。名前と共に新しく僕の人生は始まるんだとどこか漠然と根拠もなくそれなりにうまく流れていくだろうとどこか投げやりでもあり壮ちゃんがいるのだから何とかしてくれるだろうという期待も確かにあった。そこに努力があっての話しだとか流されていていい結果が出る確率とか深く考えて行動が出来る年頃ではない。もう子供扱いしないでくれと言えるほど実際大人でもなければ責任も取れない子供だ。壮ちゃんとはまったく無関係で知らない間柄ではなかったが血縁者でもない。僕が幼稚園の頃のベビーシッターだったのが僕らの縁の始まりだった。小学校に入学してから今まで会う事がなかったので壮ちゃんは僕が幼稚園児だった頃までの僕しか知らない。幼稚園の頃にも僕はお尻を出してお仕置きされていた。だからと言って中学生になった今、羞恥心がないわけでもなく別のお仕置きにして欲しいと抗議したがあっさりとかわされてしまい結局尻を叩かれている。普通の家庭とは縁遠い環境で育った僕は普通の躾が実際わからないなりにも壮ちゃんと暮らす方がいいと言う事だけは本能的にも感じていた。小さい頃の僕をしつけたのも壮ちゃんだ。幼稚園児に道具を使う事なんてなかったけれど僕が反抗期に突入した事もあり壮ちゃんと決めたルールを破る事が増えてきたので僕への対応を考慮すると言う結果だ。壮ちゃん特製お仕置き棒で泣くほど叩かれ触れただけでも痛いお尻をとどめでもさすかのように平手で何十発か叩いたあと僕を壁に向かって立たせて反省させる。これが壮ちゃんのお仕置きだ。僕が幼稚園児だった頃の壮ちゃんは優しかった方だったのかと懐かしく思うもののあの頃の僕には壮ちゃんの優しさを感じる余裕はなかったのかも知れない。壮ちゃんがいてくれて当たり前だった僕は当たり前の愛情には感謝せず与えられない愛情ばかりを欲して追いかけていたのだろう。人間とは無い物ねだりの身勝手な生き物だ。


(昨夜、壮ちゃんが当直で留守だしおやすみの連絡が終わってから遊びに出たのにどうして壮ちゃんはわかったんだろう?バレないと思ったんだけどな。しばらくはおとなしくしていよう。もうこれ以上お仕置きは食らいたくない)


『慶太郎!反省したのか?』


(まぁ、お前にまだ本当の反省が出来るとは思っていないが・・)


朝食の準備を終え30分程たってから声をかけると何か考え事をしていたらしい慶太郎がハッと振り返りやっと終わりがきたという安堵の色を浮かべたあとやや真剣な面持ちで乾いた涙の跡を拭い一瞬思考を巡らせた様子だ。視線が僅かにそれはじめ無意識であろう手は痛みを思い出したのか?尻をさすりながら後ずさり逃げを打つ姿は幼き時の慶太郎を思い出させる。


『・・・した!しました!もう絶対にルールは守るから許して下さい!』


(これ以上尻を叩かれるのも痛いし嫌だけどこの立たされる反省もかなりキツイ。なんで尻出して立たされてんだ?自問自答ってそもそもなんだよ)


『……まだだな。もう少し立ってろ』


(やはりと言うべきか。何と答えれば正解なのか?と言う事を慶太郎はまず考える癖がついている。これは結局俺にも責任があるだろう。慶太郎の両親の希望と依頼とは言え小学校受験失敗はトラウマだけを残し慶太郎の感情を封印させ大人の都合で振り回した結果なのかもしれないな)


『…!はあ?なんでだよ!俺が反省したかしてないかなんてどうして壮ちゃんにわかるんだよ!俺の事がウザイんだった引き取らなきゃ良かったじゃん。どうせ俺なんて必要ない人間なんだろ!だったら俺なんか生まなきゃ良かったんだ!あのクソババア!……いってぇー!』


パーンと頬を叩く音と共に慶太郎の体制も崩れしりもちをつき頬を抑えながら床を睨み付け拳を叩きつけたがすぐに諦めたような表情で瞼を閉じた。真っ暗な道は見えずらいが不快ではない。暗闇に目が慣れる前に開かなければ壮ちゃんを裏切る事になりそうで怖くなる。自分が発した言葉なのだ。答えを間違えたでは済まされない。うつ向いていた慶太郎がまるで捨てられた子犬のような目をして見上げてくる。全てを諦め迷子にでもなったかのような慶太郎はもう目を反らす事もないが感情の吐き出し方もわからない。だから嘘を吐く言葉もなければ間違いをどう処理すれば良いのかわからず途方にくれているとでも言った様子でその表情は幼児の頃のように頼りない瞳だ。痛みを伴っているようなその瞳を見つめ先に目を反らしそうになったのは慶太郎ではなく今度は俺の方だった。しかしここで慶太郎から目を反らす事は許されないだろう。この瞳を幼き時に俺は一度見放したのだ。もう後戻りは出来ない。


(また言ってしまった。こんな事を言うと壮ちゃんのビンタが飛んでくるのはわかっていたのに。そして何より壮ちゃんに哀しい顔をさせてしまう)


突然沸き出す抑えきれない感情を難しい思春期とも重なり僕自身が「俺」を持て余していた。自分がどうしたいのか?何に苛立つのか?何を欲しているのか?何もかもわからないふりをしてただ現実を受け入れるのをきっと僕はいつまでも恐れ続けているのだ。


『慶太郎!二度と言うなと言ったはずだ。そんな言葉は聞きたくない!ほら!壁の方を向いていろ!手は頭の後ろで組みなさい!このまま動くんじゃないぞ!』


慶太郎の腕を掴んで立たせ後ろを向かせてもう一度ペチンと強めに尻をひっぱたくとビクっと肩を揺らせたが泣く事はなくおとなしく従ったが慶太郎が口を開く事はなかった。イヤだとも暴言を吐く事も謝罪の言葉もなくただ黙って涙を流さないよう必死に耐えているだけで精一杯のようだ。


『ちゃんと反省しなさい。…慶太郎!返事は?』


『・・・はぃ』


(慶太郎!生まれるって奇跡なんだよ。当然のように命は誕生するんじゃない。それにお前が五体満足でそして元気に生まれてきた事、生んでくれたお母さんも無事だった事すら当たり前なんかではないんだよ。いつかお前にも必ずわかる時が来るよ。お前の人生はこれからだ。まだ12歳じゃないか。俺だって30歳を過ぎてから医者になったんだ。やっと自分の道を見つけたよ。お前にも見つけてほしいよ慶太郎。・・・その前にお前の傷を俺はどれだけ癒してやれるだろうか?俺の愛情がお前に届く日が来るのだろうか?俺だってまだ自信があるわけじゃない。血の繋がりを超えた愛情って伝わるものなのか不安だよ。それでも努力をしなければ何も始まらない。努力した分自信に繋がるんだと俺は思っているよ。慶太郎!お前が生まれた理由は必ずある。だってこの世には偶然なんてなく全て必然なんだと俺は思っているからね。その理由を見つけるのは他の誰でもないお前自身なんだよ。慶太郎…)


慶太郎をひっぱたいて立たせている間その背をソファーに座り見つめていると俺の育て方は正しいのだろうかと考えてしまう。俺も慶太郎と同じで正解探しをしてしまいそうだ。数学のように正しい子育て(人育て)の答えがあるならば個性を持つ魂など不必要だ。魂がなければ人間の役割をロボットがこなすだろう。それでは足りないはずなのだ。この世界を支配出来るほどの大金持ちでありながらも叶えられぬ事なのだろう。ロボットで事が足りるならば人が生まれる意味はなくなり無限ではない地球の資源を考えれば無駄な人間は必要ないはずだ。思考がズレていくなと頭の隅で思いつつ何度か時計を確認して頭が下がりうつ向き加減で立っている慶太郎に声をかける。


『慶太郎!そろそろ反省出来たのかな?朝食がいつまでたっても食べられないんだけど』


(だいたい30分から1時間の間で立たさせて反省させてはいるが今日はさすがに1時間超えたな。俺も一緒に反省出来たようだ)


『…壮ちゃん。ごめんなさい。壮ちゃんに哀しい顔をさせてごめんなさい』


(俺は壮ちゃんに哀しい顔なんてさせたくないのにどうしてあんな事を言っちゃうんだろう)


『・・・俺に?なんだ?…まぁ、まだ難しいか。慶太郎!生まれるって当然の事じゃないんだよ。慶太郎が元気で無事に生まれた事は当たり前なんかじゃない。それだけは覚えておいてくれ。今はまだお前にはわからないだろうけどね。あとちゃんとルールは守りなさい!お前はルールを破ってお仕置きされたんだよ!わかってるのか?』


(本当にわかっている?君はすぐ忘れちゃうからね)


『…うん。わかった』



『じゃあご飯食べよう。早くパンツを上げなさい。慶太郎!今日はどこへ行きたい?』



『…あっ!えっとねー映画見て買い物したい!壮ちゃん!俺さー雑誌でかっこいい服見つけたんだよ!ねえー見て!これ!かっこいいでしょ?俺は絶対似合うよ!』


すっかり尻を出していた事を忘れていたらしい慶太郎が慌てて身なりを整えながらリビングのテーブルに置いてあった雑誌を持ってダイニングの椅子に座るが尻が痛かったのだろう。一瞬顔をしかめたがどうしても雑誌を見せておねだりしたいらしい。朝食のスープを温め直して慶太郎の向かいに座ると目の前に雑誌を押し付け指を指して説明してくれるようだが尻を浮かせてみたり痛みからか落ち着きがないようだ。尻を冷やしてから食べさせるべきだったかと思っていたところだが「いただきまーす」と聞こえパンにかじりついた慶太郎を観察しながら食事を始めた。もう迷子の瞳は見せていない。慶太郎なりに考え処理したのだろう。しかしまだまだ不安定な子供であることにかわりはない。思春期を越えていくのをどうサポートしていくべきなのか頭が痛い事ではあるが「人生の答えは正解=答えではなく答え≒正解なのではないか」という考えに慶太郎がたどり着いた時は是非討論会を慶太郎としたいものだ。慶太郎!その時君には何がみえているだろうか。君の成長が楽しみだ。



(最近俺はオシャレをする事に興味を持っている。小学生の時は親父が毎月服や靴を買ってくれていた。今思えばどこかの女に買いに行かせていたんじゃないかと思う。子供服のブランドを親父が知るはずもなくガキの流行りを調べたりするはずもないし明らかに若い姉ちゃんが選んで買ってくれていたんじゃないかと思うぐらいダサい服や靴はなかった。金を払って頼んでいたのかな?選んで買ってきてくれるように。サイズは家政婦のおばさんが俺の身長を計ったりよくチェックしてくれていた。その報告を親父が受けて買いに行かせていたのだろうか。お母さんが僕の服を買ってきてくれる事はなかったから。でも買い物は好きでよく弟の慎二郎を連れて出かけていたようだった。お母さん。僕は生まれてきて良かったんですか?)


『まだまだこれから成長期真っ盛りですぐに着れなくなるのに君が選ぶ服は高いんだよ。そんなオシャレして慶太郎はどこへ行くつもり?好きな女の子でも出来たのか?』


(お坊っちゃん育ちの慶太郎は一着3万円以上する服でも高いと思ってはいない。感覚がおかしいんだよね。おまえをそうしてしまったのは親や環境なんだが俺も子育て初心者だししっかり調べておかないとな)


『違うよ!俺は特定の女なんか作らない!』


『何が特定の女だ。10年早いよ。口だけは一丁前になったよね。慶太郎は幼稚園の頃バレンタインデーのチョコレートをくれた女の子に酷いこと言ったのを覚えてるか?』


(こう言うとこだけ生意気になったよな)


『知らない!覚えてない!』


(幼稚園の頃の話しなんてどうでもいいじゃん)


『ほら!お前はなんでも都合が悪くなると知らない!覚えてない!ってとぼけるよね。チョコレートなんて嫌いだしかわいくない!ってアキちゃんて女の子に酷い事を言って泣かせたんだよ君は。男が女の子を泣かせるなんて酷いよね。相変わらずチョコレートは本当に好きじゃないみたいだけど女の子には優しく思いやりを持って接しなさい。慶太郎くん!わかってるのか?それにまだ中学生なんだから健全なお付き合いをしてくださいよ!おい!聞いてるのか?』


(人が話しているのに、慶太郎の視線は雑誌だ。もうすっかり手に入れる気なんだろうな)


『聞いてるよー!わかったから買ってくれるの?』


(服ぐらいいいじゃん。お小遣い少ないんだから)


『…そのサラダをちゃんと全部食べたら買ってやるよ!好き嫌いするんじゃない!』


(ったく、さりげなくサラダの皿を端に追いやってんじゃないよ)


『・・わかったよ!』


(本当にわかっているのか?女の子に興味を持つ事はいいだろう。しかし無責任な事は辞めてくれよ。未成年のお前が責任なんか取れないんだからね。命の重さを知りなさい慶太郎。わからないのに興味や好奇心だけで女の子を傷つけるんじゃないよ。慶太郎は愛想なんて良くないのに意外とモテるんだよな。やっぱり子供の恋愛レベルって所詮顔だけか?まあ君は小さい頃からモテていたよね。バレンタインのチョコレートをいっぱい貰ってチョコレートが大嫌いなもんだから意地悪されてるんだって泣くお前をどうやってなだめるか苦労したよ。意地悪なんかじゃないんだけどね。自分の嫌いな物を押し付けられてそう思ったんだよな。せっかく貰った物を捨てさせるわけにもいかないし食べ物を粗末に扱うべきじゃないから君にどう説明するべきか俺は悩んだよ。だいたい君は好き嫌いが多過ぎる。そう言えば君のお母さんは綺麗な人だったよね。お前は君のお母さんに顔だけはよく似ているよ。君が生まれた時お母さんは君を初めて抱いて君が生きているぬくもりを感じ喜んでいたはずなんだけどね。喜んでいたと思いたいよ。慶太郎がいつか父親になる時が来たら出産に立会ってごらん。生まれるって事がとても大変な事であり命が神秘的である事を君にしっかりと感じてとってほしい)


『慶太郎!片付けを手伝ってくれるか?そのあと出掛けよう』


『うん!』

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