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無笑 ~正月から自称ヤクザが怒鳴り込んでくる程度にはどこにでもある日常編~  作者: 鴉野 兄貴


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ビールが美味しい季節です

 事件は母の余計な気遣いから始まった。


「お店に○○さん宛にビール送っておいたから」

「なぜ店?!」


 活動報告等で何度か述べているかもだが鴉野はすでに店長を辞めている。別の場所の管理人やってる。なんで辞めた先の店に?! 会社は一緒だけど。


「だって○○さん住所不明」

「うちの会社の社長一族はそうだもんなぁ」


 呆れる鴉野。困る母。


「社長出せ」

「いません」


「じゃ電話教えろ」

「ありません。事務所のFAXだけです」


 こんな会社に鴉野は何年も務めている。


 よく続くというか可也馬が合うからというかそれなりに『面白い』からだ。なんせ店番していたらミゼットが突っ込んでくる会社だ。ネタに困らない。

 親父の傘をゴミと間違えられてボッキリおられて捨てられた。そのエピソードが『貸し自転車屋』の物差しの話の元ネタになっている。

 嫌なことがあっても明るい話に転換し、辛い話は皆笑い話に書き直すように努めている鴉野だが今回は胸糞が悪い話である。



 ○○さんは鴉野の勤め先の代表取締役である。

 先日の父の葬儀の際、足労や香典を受け取って迷惑をかけたくないので家族葬にして会社関係含む訪問も香典も断っていた。

 しかし○○さんはわざわざ来てくれた上に線香代と称して一万円を下さったのだ。母としては何としてもお礼をしたかったのであろう。


 で。その肝心のビールだが。


 うちの元スタッフたちがあみだくじで分配していた。あり得ない。


 まぁある程度元スタッフたちを擁護すりゃ、○○さんといえば別の仕事が本職でそうそう現れる事もない。

 うちの社長一族はなにかと個性的というかルーズで、給与明細を六か月くらいくれなかったり、お客さん相手にガチでマジ切れかましたり、一言で言うと鴉野の描く話に殆ど確実に登場する『ハルカナル』一族のイメージ形成に少なからぬ影響を与えている。

 Webで遥一族が初出になるのはSeLicaの原型になる話であり、10年以上前に書いているのでその時点では○○さんの一族と面識ないけどその後の雨後のタケノコ状態のハルカナルたちはある程度影響を受けている。


 しかしスタッフの一人が「いつまでも取りに来なかったら貰っていいですか」とか不遜な冗談を抜かしていたがマジで実行するとはお釈迦様でも予測できぬ。


 まず。送った相手はあくまで○○さんであり、送り先が解らないから預かってくれと頼んだのがうちの元勤め先の店である。まぁ一か月経っても取りに来ない○○さんも問題あるかもだが勝手に鴉野の一家が要らないという相手に送ったものなので仕方ないとはいえる。


 元勤め先の店舗からすりゃずっと置いてりゃ邪魔で仕方ないのも解らんではない。


 しかし。


 ○ ○ さ ん が 『い ら な い』 と 仰 る な ら 取 り に 行 き ま す 。

 何 故 人 様 か ら の 預 か り も の を ア ミ ダ ク ジ 。


 流石にアレ過ぎるので残ったビールを回収。


 持って帰るというか、返却してほしいと現店長に伝えるとガチ切れされた。


『持って帰って飲んでしまったものをどうするのですか』


 あのね。預かってくれって頼みましたよね。現店長さん。お歳暮を子供が食べちゃったとかなら笑い話ですけど、大人が特定の人に渡すものを預かっているのに勝手にくじで分配を看過するのはないと思います(棒読み)。


「買い戻してでも」

「出来るわけないでしょう。まずマネージャーに言ってください」


 しかし、例によってFAXのみの連絡のみの受付だったりする。どうもマネージャーも超忙しいらしい。


 ややこしいがこの会社、社長がいない。


 ある日突然解任されて、このマネージャーなる鴉野の元上司が代行をやっている。


「取り敢えず、うちとしては○○さんに贈ったものでして、これはいったん持って帰ります」


 あみだくじを決めたのはマネージャーらしい。なんでマネージャーが?! 無関係じゃね?!


 お歳暮なら笑い話で済ませるが、葬式の御礼だし。というか、お歳暮にせよ葬式の御礼にせよ会社に対してじゃなくて個人に対して贈ったものであり、○○さんが要らない世話といい、店の皆がいつまでもあったら邪魔というならごめんなさいといって○○さんの息子さんにでも資格試験費用の金一封でも贈るだろう。マネージャーも一応線香上げには来てくれたが、別に何も贈っていない。所有権はマネージャーにはないし、会社にもないと思う。会社はあくまで預かっているだけだと認識している。贈った側としては。


 何故に勝手に配る。しかも再来週100日法要。実の父の法要を控えている家からの預かりものを。


  マネージャー曰く、鴉野の直情的だったり思い込みが激しかったり時々幼児調になったり会話そのものが人間と成立しなかったりするのはアスペルガーの可能性があるから一回診てもらったほうがいい。もし本当にアスペルガーなら相応に使うから何も恥じることは無いんだぞ。

 とか言っているが別に会社として本当にアスペルガーかどうかを調べるための診察代をくれるわけでもない。

 というか、健康診断何年サボっているんだうちの会社。


 健康診断くらい自腹や後日請求してとか言わずにまとめて受けさせなさい。


 また、彼は鴉野には常識というモノが存在しないとことあるごとにご指導をくれるのだが流石に今回は呆れた。


 鴉野は知らなかったが一般常識では預かりものを勝手にアミダで分配して良いらしい。また、『それは○○さんへの贈り物だから置いておいて』と念を押されているのに上司がアミダで持って帰って良いと言ったから持って帰るというのも一般常識ではアリらしい。一般的な会社は百日法要を控えた家族が無理して来てくれた方へ贈った感謝の品をアミダで分配する権限があるらしい。


「持って帰ります。申し訳ありませんが皆さんに贈ったものではありませんので」


 鴉野はそれだけ告げると外に出た。同時に通り雨の匂いがアスファルトにぶち当たって甘く香る。


「濡れますよ」

「びしょ濡れになって帰りたい気分なんだよ」


 良かれと思って母は贈り物をしたかもしれないが。


 生憎の夏の日差しはわずかな雨雲も吹き飛ばし、鴉野が帰宅する頃にはムカつくほどに輝いていた。

※ 一応、鴉野家から贈られたものを受け取った人間がどう分配しようと勝手という認識を鴉野母などは示していますが当時の鴉野からは到底容認できませんでした。

(2015/9/26追記)

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