表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無笑 ~正月から自称ヤクザが怒鳴り込んでくる程度にはどこにでもある日常編~  作者: 鴉野 兄貴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/285

髭と美女と虎のマスクと空手着

 それは従兄の結婚式の席であった。


 スーツ姿の我が父、久さん(仮名)がやおら立ち上がると颯爽とスーツを脱ぎ捨てる。まさか酒に酔ったのか。まさか。鴉野の一族は一部の心臓発作などで若くして死ぬ例外を除けばほぼ全員透析を受ける運命ではあるが逆に言えばとんでもないのん兵衛ぞろいだ。父の若いときなど余裕でビールケースを開ける。


 飲みすぎだ。


 家のビール瓶を酒屋に持って行ってというかパクッて小遣いにしていた息子が言うのだから間違いない。


 スーツの下には真っ黒。いや、洗濯の所為で黒から灰になったいつもの道着。ボロボロの帯は黒帯というには怪しいが間違いなく父の空手着である。


 スーツの下が空手着?! あなたは女子プロレスですか?!


 というか、違和感ゼロに何故今まで着こなしていたのか。そっちのほうが凄い。勇壮な太鼓の音と共に自称空手十段。当時は七段だったかもしれぬが模範演武を始める彼の姿に鴉野ポカーン。親戚大喜び。


 母は事前に従兄から模範演武依頼があったことを存じていた。

 知らぬは息子たちばかり。


「すげぇ」


 喜ぶ従兄弟たちの子供に「これで最後やからしっかりみとけ」と続ける鴉野。思えば奇妙な事だが本当に父が親戚一同の前で演武するのはこれが『最後』になった。


 長い闘病生活の末、父は先日息を引き取ったのである。あっけなかった。長い間サラリーマンだったからか、律儀に週末に危篤になるのはどうかと思う。実際、金曜日に亡くなった。律儀すぎるだろう。


 来月には早くも彼の百箇日法要だが正直実感がわかないし涙も出ない。案外源氏物語の源氏の親父みたいに死人の癖に海越え山越シェイハシェイハして明日始発電車だろさっさと寝ろと叱りに来てもさほど鴉野は驚かない。


 親族の死はとても重要な事だが活動報告でも述べた。この話にはどうでもいい続きがある。


 従兄は石川県という愛知県と並んで豪華な結婚式を挙げる県の嫁を貰う程度にはビジネスマンだ。当然だが、その結婚式場には綺麗なOLさんがいっぱいいる。従兄を狙っていたであろう若い娘さんがかなりいる。


 その中で我が弟は笑顔でキレていた。


「弟さんですか」


 六歳も年の違う兄、鴉野を指して質問した美女にマジレスして『いや、こいつが兄です』と抜かす弟。こういう奴だから孫を連れてこないのかも知れないと自分の事を棚に上げてボケーと考えている鴉野。


『というかチャンスなのにな。弟よ』


 鴉野はいまだ嫁がいないし、弟も浮いた話はない。鴉野は笑顔でキレる弟にこう告げた。


「ヒゲ剃れ」


 取り敢えず茶髪に坊主は痒い。さらに髭はなかなかインパクトが強い。染めるか坊主かどっちか選んだほうが良い。ヘアダイは痒いだろうし。


 そんな弟はタイガーマスクのマスクをかぶってマラソンに出るのが趣味だ。


 最近だとワンピースの鹿(?)の帽子とかアイアンマンとか。無駄に開閉式だったり。鴉野から見て弟は実に立派に社会人をやっているのだが、妙なところで趣味を出すのは案外血筋なのかも知れない。


 その血筋は取り敢えず姉貴の子供たちが継いでいるが、鴉野家の妙なところや短命の特性は継がないでほしいと思う。ただ、不幸属性はどうも鴉野一人だけらしい。これだけは納得がいかない。


 愛用の空手着を着るにはあまりにも膨らんだ脚。苦しみぬいた癖に思いのほか穏やかな顔で父は空手着を抱いて旅に出た。


 鴉野は現在旅に出る予定はないが、人生の旅路において多分結婚は出来ないんじゃないかとか思っている。


 うん。来年の六月には結婚したいね。


 黒木瞳や杉本彩とかひし美ゆり子や由美かおるとか、最近のアイドルなら熊井ちゃんやガッキーみたいな。


 てめえ結婚する気ゼロじゃねぇか。そうともいう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ