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一本歯下駄と小指の支え セカンドシーズン 鼻緒を挿げ替えて

 現代日本人は鼻緒のすげ替えなんて普通やらない。やるとしても人に頼む。鴉野だって一回ゆるめてもう一回やり直すときは人に頼もうとした。

 しかしやればできてしまうのが人の常である。そしてセカンドステージに突入するしかない。

 のるしかない。このビッグウェーブに。


 そう言うことで鴉野は器用に鼻緒の後ろを挿げ替えることに成功した。無駄な特技が増えた瞬間である。鼻緒のすげ替えはバカにならない。このすげ替えの可否が足の甲を傷つけたり行動範囲を高めたりする。一度緩めて下駄を掴むことが可能になった鴉野は更に快適なフィットを手に入れて充分な足場を確保。遂に武器を手にした。


 『じょう』である。


 杖というのは棒切れで、長さ130cm前後の長さで太さは同じ、飾りもないという武器だが殴ってよし突いてよし払って良しと武術を扱うヒトにはとても勝手が良い武器である。勿論、剣道の技も使える。しかも竹刀よりリーチが長い。太さが同じなのにすばやくクルクル回して使うので長さを把握されにくい。


 せっかく足元を不安定にして鍛えているのに杖持ってイイの? いいのである。山登りに行く時だってニンゲンは杖を持つ。ちなみに杖を使っている御爺ちゃんお婆ちゃんは本当に杖が必要なヒト以外杖にしがみつく使い方は普段しない。よく見ていると指先は添えるように使っている。左右の揺れの補足で杖を揺らすだけで対応していたりする。

 そういうわけで片足立ちしたら反対側に杖を振ったり杖の型を軽くやってみたりすると解るのは杖を振り回す場合、身体の揺れに呼応して杖も動くという当たり前の事実だ。大地をしっかり指先で掴み、浮石を足首揺らして対応し、背筋を伸ばして脱力して立つ。


 行けるな。そろそろ外に出れる。


 動きに自信を持ち、下駄を手にもって腕立てなどを試みて遊ぶ。そうして遊んでいると母がこれに興味を持った。

 ちなみに取り扱い説明書には『絶対他人には貸さない』『手すりに近い処で使う』とある。母の興味の源は値段であった。製作期間二か月。代金送料込み14445円。


 下駄で遊ぶ鴉野に元手は取ったんじゃ? と問うてくる。14445円にしちゃ遊び過ぎだと思う。というかこの値段で作ってくれる職人さんのほうが偉い。普通もっと取りたいところだ。ほとんど材料費だ。軽く履いてみたいという事なので厳重注意と必ず机に掴まることを前提に履かせてみた。


 手で机を掴んでいる限り意外と安定するとは母の弁。底面にRがついていて不安定な弱点は足首が左右に自由に動いて足全体で掴めるのが使いやすいポイントである。でも、こんなもの履いていたら大怪我するのでもう履かないと母は告げてささっと降りた。

『16㎝高いと色々見えるモノも変わるよなぁ』

『だね。でも危ないもん。病人が増えたら大変だしもういいや』

 視点が高くなってあるく楽しさを感じてにんまりする母。妙な所だけ親子なんだなとかそう思った一日だった。


 14445円は安かった。これを買わなければ鴉野は鼻緒など挿げ替えられない。

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