一本歯下駄と小指の支え セカンドシーズン 参
しかしこれって足で掴むの難しいな。
鴉野は思った。
『緩めちゃえ』
製作者さんは危険だからガッチリ鼻緒をキツメに結んでくれたのだと解るが足の指全部で掴むなら小指も使って掴んだほうがいい。結果的に鴉野の暴挙は成功する。この考えによって鴉野は鼻緒のすげかたをGoogle検索することになった。なんでも教えてくれるGoogle先生は素晴らしい。たまには国産検索エンジンを使えよ。と思ったらないらしい。
ライブドアは韓国系NEVERだしヤフージャパンはGoogle先生系列だそうで。Googleさんスゲー。まさに世界征服している。
それはそうと鼻緒を挿げ替えて緩めてしまった鴉野。足の指でガッツリ下駄を掴む。普通の下駄は指で掴まない。
「おお。これはいい!」
良いのかよ。死んでも文句言うなよ鴉野。
「死ぬのより捻挫がヤバいな。仕事に行けなくなる」
そっちか。
そしてしばし立ったり歩いたり無謀にも前蹴りを試してみてはしゃいでいた鴉野は一つの事実に気付く。
「足で掴むより手で掴むほうが掴みやすい」
なんせ直径12センチの真円の下駄だからな。鴉野はこの下駄を持って腕立て伏せを試みた。通常より高い角度の腕立て伏せが出来るので強烈に負荷をかけることが出来る。
腕も長くなるので綺麗なM字を描く形になって肩と胸の筋肉が躍る踊る。サンバのリズムで腕立てだ。まさに変態である。
「おお。これはいい」
鴉野は調子に乗って腕を可能な限り広げて試行してみる。
腕を限りなく広げて腕立てをすると腕立てと言うより別の運動になる。
両手を180度広げて体重を支えても潰れた時誰も助けてくれない。自重すべきである。
「よし! 良いことを考えた!」
こういう場合の鴉野の考えることはロクな事が無い。
「普通の一本歯下駄だと面倒な逆立ちをして遊ぼう!!」
さて。この下駄は全高16センチある。身長158センチのチビでも174センチの標準的な体格になるというなんともアレな下駄である。
170センチの標準的なアナタなら一気に186㎝になる。どんだけ。当然、逆立ちなんてしたら着地時に頭から落ちる。16センチ高くなって。
そもそも逆立ちするのは良いが、降りるときどうするのだろう。鴉野。そんな疑問は勿論鴉野の頭にはない。
頭を打つのは結構危険である。
掃除中に思わず頭を上げてしまい、机に頭をぶつけて死んだ方もいらっしゃるのである。
この原稿を鴉野が書くことが出来るのもひとえに逆立ちを前にして思いとどまることが出来たからだが、実行に移していたら中々愉快なことになっていただろう。普通の一本歯下駄は壁に手を付ければたとえ小指一本でもかなり安定する。この下駄は脚の小指で掴み続ければ安定する。
自分程度の支えなんて役に立たないと思わず、小さな支えでも大きな人を救っているということを考えさせてくれる。
しかし人間(※鴉野)の愚行は支えがデカかろうが小さかろうが如何ともしがたいようだ。