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正義の味方 後編

「鴉野さんですか」

「はい。私が鴉野ですが」


 某日。先ほど会社の自転車を断りつきで持ち出したオジサンを伴って警察が押しかけていた。なんで警察? 覚えが無い。

「この自転車は鴉野さんの会社のものでしょうか」

「うん」

 というか、貸してくれと言うから仕方なく貸したものだ。備品なのに。

「いやぁ。自転車を凄い勢いで殴っている男がいると通報を受けたので」「はぁ」

 オジサンはサドルを下げようとしてガンガン殴っていたらしい。


 鴉野は彼に弁償を告げ、お帰り願ったがキレたオジサンは警察のお兄さんに当たり散らして偉い事になった。間違っても公務執行妨害してはいけない。大阪市民自重。


 月に一度は警察の人が来るレベルの鴉野だが父も多少は警察の人とのかかわりがある。


「会社にいってくる~♪」


 そういって元気に駆け出した父はしばらくして破れたシャツ姿で帰宅した。「???」

 鴉野は当時、父と駅までダッシュして体力を鍛えていたので訳が分からない。その時期はサボっていたが。

 そもそも父は早寝早起き、会社の鍵を持っているので警備の人より早く出社する。その父がいない場合警備の人が会社を開けなければいけない。別に問題はないが。


「偉い目にあった」


 なんでも最近親父狩りが横行し、たまたま父が狙われたらしい。


 角材を持った複数人が通勤途中のおじさんを襲って金品を巻き上げるという悪辣な犯罪だ。


「で、親父が襲われたと」

「うん。ボコボコにしちゃった。逃がしたけど」


 もうこれ以上は無いくらい抵抗したらしく、警察曰く『もっとやってほしかった』レベルだったらしい。具体的に述べると親父狩りがなくなった程度にはボコッた。角材が現場に残されていたが出す間もなく親父様が殴り倒した。

 そーいえばかの親父は普段母がキレているのを黙って見ているが、マジ切れすると気が付いたら鼻血が噴き出して後から痛みが押し寄せる程度には拳速が早い。


「不幸だったね」


 相手が。

「だな」


 俺が。


 イマイチ意思疎通の成されていない親子だったが、後に父はかの暴漢たちが近所の店舗前でたむろしているのを発見する。


「ようっ♪」


 手を振り上げて愛想笑いする親父様。


「??」


 不審者を見る元暴漢たち。その顔がドンドン青くなっていったという。


「いやぁ。面白かった。凄い勢いで逃げて行ってね」


 捕まえろよ。親父。


 父の若いころは結構無茶をしたものである。

 今でこそこの程度には穏やかだが、昔道場破りを捕まえた時、縛り上げて下半身丸裸にして括り付け、股間を指ではじいた後、子供たちに好きにせえと放り出す程度には酷かったそうだ。


「子供って容赦しないよな。怖いよな」


 怖いのはアンタだ。


「良く頑張りました」


 鴉野は振り返らず母に向かってつぶやいた。


「ありがとうございます」


 母は息子の意を正確にくみ取ってそれだけ呟いた。


 母は大阪に出てきたばかり頃の父の写真を見て涙が止まらなかったことがあったそうだ。幼さの残る可愛らしい子供は長じて家族を持ってから「一円でも飴一つでも家に持って帰る」と言ってそれを実行し、生活が安定するまでそれを続けたという。

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