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無笑 ~正月から自称ヤクザが怒鳴り込んでくる程度にはどこにでもある日常編~  作者: 鴉野 兄貴


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一本歯下駄と小指の支え その五

 下駄一つ買った程度で剣道の練習に使ってみたりリフティング練習を始めてみたりと鴉野はいったいどこに向かっているのだろうと思うが、今年から二日に一回は腕立てと横腹筋を鍛えているのでその一環である。毎日ではないのは筋肉の超回復を狙っているからだ。こんなアホしてないで夜中に小説書いているほうがお話の点数は増えると思うが腰痛対策には丁度いい。おっさんかよ。既に気分はおっさんだ。


 そして一本歯下駄について調べてみたところ気になる記述があった。


「天狗は一本歯下駄を装備しているという文献は無い」


 イラストでなぜか見かける理由は、山伏などの絵と一般では絶対装備しないものを妖怪や神様がつけているということで広まった模様。何故お祭りでもないのに山伏が一本歯下駄など履いているかと言うと坂道に強いかららしい。常に前方に平行に足を降ろせる一本歯下駄は登山靴の代わりに用いられてきたそうな。

 また、武術の達人がバランス感覚を鍛えたり、鴉野がリフティングを始めたようにバレリーナがこれを履いてY字バランスの訓練をやってたりする。

 これを装備していると腰を落として坂道を上る時は体重を前向きにして体重を活かして足をだし、坂道を下るときは体重を後ろ向きにして足を出す動きになる。そうなると一瞬右手と右足、左手と左足が同時に動く。自然とナンバ歩きっぽくなるのだ。


「じゃ、取り敢えず山登りに使ってみよう」


 そうして母に薦めてみたところこういわれた。

『怪我して死ぬ』『足くじいて障害者になったらどうするの』

 ならば自分で使うしかあるまい。では登ろうではないか。約束の地ポンポン山に。


 ポンポン山?! 何ソレ?

 他県民がその実在を疑うかの山は京都府と大阪府の境目に位置する実在する山である。気圧の関係で歩くとポンポンとなるからついたというが確認できたことはない。

 鴉野の地元では結構ポピュラーなハイキングコースであり、鴉野の友人Sが言うには『登るたびに発見がある』と言う山である。

 とはいえ、シイタケなどが取れるので山道を通るのは危険だ。泥棒除けに変なトラップ山道があるからだ。これに引っかかると死ぬときは死ぬ。


 そうしてポンポン山を目指そうと思ったものの普通そんな思い付きで山には登らない。まして下駄履いて登るバカはいない。


 おりしもその週は折角先日土日月火が急に休みにされたのに寝休日。このままいくと木曜日も休みにされたのに何もなしの寝休日になってしまう。

 せめて事前に言ってくれればアンコールワットでも見にいけただろうに。


「と、言う訳で愛宕山に登る」


 何故に愛宕。決定したのは仕事が終わって帰ってきた午前である。それからネットサーフィンして遊びまわり、睡眠時間二時間で鴉野は愛宕に旅立った。


 愛宕山は鴉野と友人Sが学生時代に登った山である。


 京都府にあり、定番のハイキングコースだが山道が死ぬほどキツイ。元々神様の山と言うか山そのものが神様である。どれくらいキツイかと言うと百名山を後に登ることになる由紀子さん(仮名。母)が二人の誘いをやんわりと辞退する程度にはキツイ。

 ド素人で高校生のペースに巻き込まれたら怪我をし兼ねない。至極当然である。

『なんで母は辞退したんだろ。山好きなのに』

 事情を知らない鴉野と友人Sはバスに揺られてフラフラ眠りながらかの地に向かった。


 そして、Sは走った。

 信じられないことに愛宕の山を走り出したのである。


 鴉野は当時知らなかったが、Sは生命の危機ではなく寝起きの時に火事場の馬鹿力を発揮する男だった。

「S??! 待て?! 待ってくれ?!」

 聞いて無い。

「おおい?! とまれ?! とまれええええ」

 休憩所にて「しゃーねーな」と止まったSと鴉野は当然へたり込んで動けなくなった。ついていく当時の鴉野もアレだが、Sの寝起きは危険であると認識した事件であった。


 なんせ愛宕の山はヤバい。

 登っているはずなのに下っているなんて普通にあるので経路に自信が持てず結果的に迷ったりなんてザラだ。礫上の岩が基本でその上に腐葉土が乗り、更にゴロゴロと角ばった大小の石がアホホド転がっている。倒木が数年単位でほったらかし。少なくとも黒門近くの倒木は二年くらいそのままだ。

 下りにせよ登りにせよ勾配がきつく、特に下りがヤバいほどキツイ。


 具体的に言えばズボンを破いて滑り台ごっこをしたくなるくらい転ぶ。登山靴履いていても転ぶ。寧ろ転んでコロコロと下山したくなるくらい転ぶ。石が浮石になっているのだ。もう転ばせようと全力で配置しているだろうというくらい転ぶ。マ○オカートのバナナみたいに転んでスリップする。神様の山だけあって遊び半分で登るバカには厳しいのだ。


 かの山には『人間が山に登るなんて思い上がりだ』とか、『一歩踏み入れたら自分で歩いて帰るしかない』とかいった看板がいっぱいある。


 地元では神様として慕われる山で、三千回登ったとか千回登ったとか毎日登ってるという人が少なからずいる。三歳までに登れば火難を避けれると伝えられる神聖な山である。


 鴉野は以前病院でジャケットに一本歯下駄では笑われた経験を踏まえて靴に合わせたファッションにした。


 愛宕は登ると下界より十度寒い。当日は雨が降っており予想気温は零度。


 寒すぎるのでセーターとパッチは着る。その上にクイックシルバーのアイビーグリーンのズボンを穿き、何を考えているのか普段パジャマにしている作務衣とチャンチャンコを着る。それだけでは寒いのでコート代わりにどてらも装備し、坊主宜しく頭にタオルを巻いた。


 正しく坊主コスプレである。


 神の山に対してなんという不遜。

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