一本歯下駄と小指の支え その二
最近運動能力が衰えてきている。運動しなければいかん。
何でも人間には身体の中心線と別に体重をコントロールするときその中心部を正確に設定するバランス感覚があり、その中央を養う能力を体幹というらしい。
正確には姿勢を維持する筋肉を鍛える一連の作業らしいがまあそこら辺は。
と言うことでさり気なく一本歯下駄を買ってみた。
普通にアマゾンで買えるのが凄い。普通に履き物屋で頼めば探すだけで難渋する。
買ってみたは良いが普通のシーンでは履かない。そりゃそうだ。取り敢えず夜中に木刀を振るときに装備してみる。うーん。どう見ても変態だよ!?? というか、普通に木刀振ってたら捕まるから?! そういえば学生時代に職務質問されたこともあったかもしれない。
と言うことで無理やり普通に履くことにしてみた。
使用誤例いち。
普通に職場に遊びにいく。
鴉野の職場は自転車で五分の距離にあるので、遊びに行けなくもない。バイトのヒトに適当に話しかけて入金に行ったり連絡簿を眺めていると普通に気づかれる。
「下駄?」
「ああ。普段は下駄です」
「前の下駄は?」
「母が履きつぶしたのでそうそう履きつぶされないこっちに」
「ははは」
結論。
うちの職場の人は還暦過ぎの修羅場くぐった人々揃いなので上司が一本歯下駄履いて登場したくらいで動じないらしい。
使用誤例にぃ。
走る。
その日、鴉野は駅に向かって急いでいた。
ががががッ ががっ ががっ。
一応、この下駄の裏地はゴムが張っているので木の床を傷つけにくいが、だからと言って走っても大丈夫かと言うとさにあらず。壮絶にデカい音がする。当然皆振り返る振り返る。その癖ちっとも走れない。
結論。急がば歩け。あるいは運動靴を履け。
使用誤例さん。
お洒落してみる。
ビシッとジャケットにセーター。
綿パンをして、手毬を手に堂々と知り合いの病院に向かう鴉野。颯爽と乗るのは近所の貸し自転車屋で借りたボロボロの自転車だ。
「ぶっ?!」
勤務帰りの看護婦さんたちに大笑いされた。まぁ致し方ない。
日本に限らず普通と思われることを普通と言うのは多くの社会で普通である。自分たちが少数派なのに多数派と同じ権利を主張するならば相応の行動をしなければいけない。レイシストしばき隊。戦うことが生きる定めであり権利である。もっともアレは警察に無許可で在特会をぶん殴っているのをデモと称している。同類は仲が悪い。
取り敢えず人様に迷惑をかけない程度に物事を続けるならばそれは個性と言えるが、個性と言うモノは奇行でもあるのである。鴉野の真似をしちゃいけない。
するわけがないが。




