りあるばいおはざーど その五
以前鴉野が口に放り込んでしまった話の続きだが、ナメクジと言う奴はとかく嫌われ者だが陸生に適応した貝類の究極形態らしい。
まず、乾燥すると死ぬ身体を自らの水分のみで維持できる。これだけでカタツムリより進化しているという。
『ナメクジに立ち入り禁止を知らせる研究』の著者は当時小学生(現在成人)だったが、鴉野のようにただ嫌いで終わらずむしろ研究を通して理解を深め、殺さずに作物に危害を与えずに過ごす方法を考えるという大人でもそこまで行かない素晴らしい思想の基に行われている。これはNeverまとめにも掲載され、インターネットで公開されているので是非目を通してみてほしい。
まぁ結果的に数年単位でお父さんのビール片手にナメクジを育てることになったらしいが親御さんの忍耐力とご理解に頭が下がる思いである。
ちなみにうちの母である由紀子さん(仮名)だが彼女がプランタにナメクジを見かけたら即ピンセット登場となる。近所の皆さんに至っては素手でパッパと取って捨てている。
ナメクジ、カタツムリなどの陸生貝類は当然ながら肺を装備している。
如何にして彼らが快適な海から渇きの待つ陸に上がり、肺を装備するに至ったかを想うと中々なロマンがある。何が凄いって同じカタツムリやナメクジなのに元の種族が違ったりする。タニシとか。
当然、多少ながら呼吸のメカニズムも違っているそうだ。要するに同じような姿は獲得したが別種族だということになる。耳が尖っていて淫乱なだけのなろう小説の自称異世界の異種族とかよりよっぽど興味深い。それって鴉野の書く話やんか。
彼らは体表を覆う外套膜によって内臓を保護し、貝殻を生み出して呼吸までこなす。この貝殻を保持するためには必死こいてカルシウムを補給しなければならない。よってナメクジは貝殻を捨ててしまった。
都市部においてカタツムリがコンクリートを這っているのはコンクリートの石灰成分を食べているからだ。成程、だから連中雨になったら必死こいて外に出て来るのか。
ナメクジやカタツムリの生殖は雌雄同体だがペ○スがあり、お互いの体表を刺し合って行うらしい。刺すか刺されるかってやかましいわ。
たまに事故で深く刺さりすぎた場合は噛み切って分離するそうだ。
噛み切るって?! マジだ?!
(正確には『恋矢』(れんし)という槍状構造を保持し、これによってお互いを刺し合って性的刺激を与え合うらしい。この恋矢の有無も種族差がある)
彼らは元の種族が別物でたまたま陸に適応して今の形態を手に入れているので実は寿命がまったく解っていない。一五年育てたという猛者がいるそうだがその時の死因は『乾燥させてしまった』からだそうである。
もし読者様にこの世の謎を解く気があるなら彼らの寿命を調べるのも面白いのかもしれない。
しかし、注意してほしい。海に生きる生き物は妙に寿命が長いものがいる。
クラゲの仲間が若返ったり樹上の形態を成して分離して増えるのは有名だが、我々が美味しい美味しいと言って食っているウニは二〇〇年の寿命を持つ。
研究するつもりが研究されている羽目になるかもしれない。
鴉野の父、久さん(仮名)の実家である島はトンデモないドイナカにあるのだが、父が『おい! 見ろ!!』と指さした森の先に三十センチ級のナメクジがいたのは今でもトラウマである。彼曰く森ならたまにいるらしい。あの環境で何年生きたのか謎である。すげえな。
ちなみにかの島には巨大化生物伝説が多い。
北南で暖かいのと寒いのが極端に違うという気候の影響か、ヨモギですら冬を越して一メートル級に育つ。メートルって。かのヨモギで作った杖はヨモギ杖と言って縁起物になる。
当然、蛇もデカくなるらしい。祖母はこの巨大蛇に襲われかけたそうだ。
また、親戚には巨大な蛇が海を泳いでいたと報告していた者もいる。でもまぁナメクジならイイけどヒルだったらヤバいな。
嫌いなモノでも研究しまくれば理解を示したり尊敬を感じることもある。
そういう訳であえて子供が嫌うゴキブリだのナメクジだのを班ごとにしらべさせた小学校の先生は偉いという結論に達した。
カタツムリの貝殻を引っぺがしてナメクジと言ってもて遊び、殺してしまう歳の子供たちに対して命の尊さ、そしてお互いの人格を想うための授業を受けさせたのである。
下手に鴉野のように生き物の世話を放棄するバカには生き物を飼わせても命の尊厳に気づかないので実にいい方法だったと言える。
そう言う訳で鴉野も彼らについて調べるうちにナメクジを題材に短編を書き上げる程度には慣れてしまった。
ちなみに鴉野はイチゴも苦手である。
理由は昔は大好物で、パックに入ったものをパクパク食べていたのだが。
母が言う。
「ナメクジが入っているから洗いなさい」
「大丈夫大丈夫♪ (パクパク)」
結果は賢明な読者諸兄の想像通り。
鴉野は美味しそうに苺を食べる家族を横目に「いい。みんなで食べて」とか今も言っている。




