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りあるばいおはざーど その四

「そうなんだよ。実はモルモットって超デカくなるらしいよ」


 鴉野は以前述べたモルモットとハムスターの違いについてバイトの人と語っていた。


「そうなんですか。あれって超ちっこい手の上に乗るイメージでした」


 そう。一般の人はモルとハムは同じ生き物であるがモルは間違ってもとっとこしない。むしろ特攻してくる。胃袋に。


 モルモットは南米では貴重なタンパク源である。モルモットの恐るべき汎用性に恐怖せよ。


 毛皮は衣類に、肉は食用、繁殖力があって生まれ乍ら牙を持ち遺伝的特性から実験動物としても重宝される。人間に懐くらしいが命令を聞くほど賢くはないらしい。

 単純に『ナンダコノヤロウ』『バカヤローダン○ンコノヤロー』と言っているだけかもしれないが。それは別の意味でネズミになった偉大なヒトである。

 浅草で師匠が名を連ねる前に名が乗るのは嫌だから死んでからにしてくれと公言している偉大な男であるが解る人にしか解らない。


「娘が大学の研究室にいるんですけど、モルモットの世話の為自腹でタクシー使って往復しているんですよ」

「へぇ」


 どこも学生さんは大変だ。にしても自腹て。ケチすぎる。


「でもそんなにデカくなるとはねぇ」

「デカいと言えば金魚すくいの金魚だってデカくなるじゃないですか。しかも異常に長生きするし」


 鴉野の家ではかつて所持していた水槽に一時期天然の水晶を称するクソ汚い不細工な石英のような石ころと共に、窮屈乍らも立派な白い鯉、そして金魚掬いの金魚を飼っていた。

 その金魚がやたらでかく、小学生時分の鴉野の掌サイズと来ているんだから本当にデカい。鴉野が物心ついたころにはいた。なんでも母が従兄あにきと一緒に金魚すくいで捕まえてきた奴らしい。

 此奴が凄まじい悪食で、放り込んだエサは全部食う。鯉と一緒に争って食う。ほおり込んだ新入りの金魚すくいの金魚共はこの二匹の胃袋に消える。共食いである。

 むしろこれでもかと言うほど食う。

 調子に乗って大量にエサをやっていたら親に叱られた。

 やりすぎで水が汚れるとのこと。そんなこと小学生に言われても。


 そしてアホホドエサを入れて水は凄い事になり、父親の強制出動になる。


 おお久しぶりに登場したぞ鴉野の父、久さん(仮名)?!


 此の父は普段は無口で穏やかなのだがどうにもこうにも話題に出ないのは出すと普通じゃないからであろう。

 金魚は得てして無口だがかように中々恐ろしい奴らである。伊達になろう小説の短編では竜になるわけではない。

 鴉野父は金魚のように無口だが暴れだしたら竜より始末に負えない。


 下手したら竜でも殴るんじゃないだろうか。あり得ない。

 しかしなろう主人公くらいならぼこぼこにしそうな勢いがある。なんせ自称空手一〇段で沖縄の偉い先生から頂いたと称する胡散臭い段位認定賞状を今でも大事に飾っているくらいである。


 それより某空手館長の直筆書がうちにあるが、どこかの早まった阿呆がコレだけ目当てに突っ込んでこないかしらとたまに心配になる。


 そんなどうでもいい鴉野の妄想と別に彼の話は続行していた。


「いやぁ。金魚と言えば本当にデカくなりますよね」

「そうなんですよねぇ」


「知っていますか。鴉野さん。オゾン水で育てると三倍デカくなるんです」

「へぇ知りませんでした」


(※日本下水道事業団のJS技術開発情報メール『下水道よもやまばなし』のPDFを見るに都市伝説の模様)


 こう、超デカくなるんです。TVで見ましたと語る彼。


「娘が金魚すくいで拾って来まして」

「ふんふん。良くありますよね(まぁ後続は喰われて終わるから手間はかからんけど)」


「もう必死で調べましたよ。金魚屋さんにも言ってアドバイス受けて水槽も買って」

「ん?」


 当時は勤め人だったのにまぁ偉いもんを連れてきてくれましたよと彼は言う。


 不審な空気を感じた鴉野に彼はつづけた。


「夏は暑いし冬は守ってやらねばならんし」


 鴉野の家の金魚など水を時々替えるだけであったが?


「知ってますか。大人と子供でちゃんと水槽とエサを分けてやらんといかんのです」


 いや、知らなかったな。


「で、大きくなったら水槽を特注しないと入りきらんのですよ」


 ええっ?! どれだけ本格的なの?!


 目を見張る鴉野に。


「夏場はこう、日よけをかけてやってね」


 などと解説する彼。


「いや、本当に大変ですよ。徹夜ですよ徹夜。勤め人にはたまりません」


 爽やかに金魚について語る彼。


「『もうたまらんから全部天ぷらにして食ってやる!!』と怒ったら娘が泣いて泣いて」


 そりゃそうでしょうねぇ……。

 でも、処分法としては間違ってはいない気がする。一応フナの仲間だ。美味かろう。

 寄生虫の関係で余すところなくフライにしておかないと危なっかしいが。


「娘もやっと院を卒業しますし、これで水槽の数を減らせますよ」


 え? まだ飼ってたの?!


 衝撃の事実を告げる彼。


「ええ。もうめっちゃデカくなりますし、めっちゃ増えますよ」

「やっと全滅を免れたとほっとしてたら繁殖して一気に数百匹に。もう水槽中金魚金魚ですよ」


 金魚が水槽の上でするように口をパクパクさせる鴉野。


「で、酸欠でごっそり死んだりねぇ」

「お疲れ様です」


 思わず頭を下げる。


「あ、あの。金魚屋で引き取ってもらえないのでしょうか」


 そもそも根源は娘でもあるが金魚屋の責もある気がする。

 しかし金魚をそこまで気合入れて育てるこの人の気質が一番凄いと思うが。


「無理です。水が違いますから金魚屋は他所の金魚を引き取れません」

「そうなんだ」


 そりゃそうだね。生育環境の違う水で育った金魚と混ざり合ったら菌も違うし消毒剤も違う。売り物が全滅しかねない。


「で、ガンガン繁殖します。もう凄いですよ。天敵いませんからね」


 はう。


「こっそり殺しておいたりしますけど、それでも増える増える。増えますよ?!」


 おい。マリサメさん! この人の処に金魚引き取りに行ってくれ!! 今すぐだ!!? 学祭の金魚職人になれるぞ!! バイトさん?!



 東京のアートアクアリウムでは今年は5000匹の金魚が人間たちの頭上を舞った。見物された方は御報告ください。

 アクアリウムは金魚たちの糞を元に藻が育ち、その藻を食って生きることが出来るらしい。これをクロースドアクアリウムとかいうわけだがなろうのSF小説ではない。お勧めだが。

 鴉野は鯉や恋ならぬ金魚が竜になるという話を信じているわけではないが、もし竜になるならば爽快だろう。5000の竜が東京の空を舞う。


 それほどの規模ではないが、もし彼が金魚を淀川に放った場合最終兵器になるであろう。

 数百の竜の群れがビチビチと淀川沿いを埋め尽くして跳ねていたりするわけである。自衛隊では敵わない。むしろ護国の鬼となる。


 と言うかオーバーキルな軍事力すぎて大阪が独立国になる。ネットでは既になっている大阪民国だ。嬉しくない。そう言う訳で彼には頼むから金魚の封印を解かないように願いたい。


 赤や金色の金魚の群れが淀川を舞い、やがて空に向かって竜となって飛んでいくのはちょっと見てみたいとか不謹慎な事は思うが。

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