たけのこで死にそうになるお話。【2021/04/19】
母、ゆっこさんはなぜか会ったこともない息子の現上司が好きらしい。
鴉野が『小説家になろう』が縁で知り合った上司に誘われる形で現職に就いたことは折々について述べているが、母は何かにつけてその上司に向けて、鴉野にお土産を持たせようとする。
ミカン箱いっぱい分の八朔とか。
鴉野はこれを食い切るのに一か月かけた。
余談だが現代人は栄養とりすぎらしく、確かにどこかのダイエット本じゃないが朝昼これひとつと水一リットルあったら腹が膨れて充分になる。
さらに相手はゆっこさんなので皮までマーマレードにする。電子レンジがあれば柑橘類一つをそのままマーマレードに加工できるらしく、事務員さんたちに好評であり、何故会ったこともないうちの母の評判が事務員さんたちにまで良くなったのかは鴉野にも預かり知らぬところだ。
鴉野自身は『カラオケ行ったら鴉野だけ残してメンバー全員トイレに行く』等の嫌がらせを受けた経験を経て、結果嫌がらせの当事者でなくとも若い女性は共通して苦手なので、事務員さんたちの椅子に座るのを促されるだけでトラウマを刺激されて難色を示すレベルなのだが、母は息子と違うようである。
まぁ母が嫌われるよりは断然良いことにしよう。
母は一時期息子に結婚を促していたため、現上司が異性であることは一年以上伏せていたが、昨今は息子がえっちな映像を見ていると『男性が好きなのだと思った』と真面目に述べるようになったので素性をちゃんと教えるようにしている。
せざるをえない。この事情!
母よ。息子さんは上司とは手も握ったこともない。
女装してヒールで転ばないように腕を組まざるを得なかったことはあるがノーカンだ。
とりあえず上司は母に妙に気に入られている。
何かにつけて無農薬の良いものを息子に持たせようとする程度には。
上司が実質お嬢様であるので標準で『カラスノくんちのお母さま』と呼ぶのも印象の良さを上げている。
また、『あの人(※上司)、何かモノをあげたからって忖度(※そんたく)するような性格じゃないよ』と教えると『そういう人間が一番好きだ』と母は述べている。
やっぱり息子の知らぬところで会ったこともないのに仲がいいらしい。
そんな母は最近青春18きっぷを用いた九州旅行を楽しんでいる。
例年のコロナ騒動で海外のやまに行けなくなったので10年かけて九州を味わい尽くすつもりらしい。
上司も流石に母には気を使い、『いや、そんなに世話してもらっても返せないから』と仰り出しているのだが、少なくとも先日彼女にタンカンを渡したら踊りだしそうに喜んでいたのは鴉野も確認している。
なにこのひとめっちゃかわいい。
その上司が母向けに渡してきた荷物の中にたくさん切手が入っていた。
鴉野の勤め先はシール切手、それも記念切手をまとめて使っているので従業員にはそのシール切手で郵送物が届く。切手を集める趣味を持つ母はそれを集めている。警備員やその家族は切手を集めたり各駅の時刻表を集めたりカネのかからないいい趣味を持つ者が多い。母もそのうちに入る。
母は現在雑踏警備一級受験中の息子にこう述べた。
「おいしいたけのこが届いたから、さっそくいまから茹でるから上司さんにもっていって!
きょうもっていかないとあじおちるからおねがい!」
大阪府下は現在一日の感染者1100人超えである。
4/18の日経新聞Webサイトによると過去最多の1220人であり、6日連続1000人超だ。
大阪の民間PCR検査センターは毎日開始1時間前に70人近い列ができる盛況っぷりで『感染していない』証明をするために満員電車並みの混み込みの列に並んで二時間待ちを『会社の命令で受けなければならない』と皆が言って『やめておいたほうがいいよ』と言われても並ぶという本末転倒の様相を呈している。
なぜ皆感染していない証明の為にクラスターになろうとするのか、まったく理解できない。まともな知性が会社の上司にあるように思えない。
とりあえず検査キットだけ買って帰りなさい。あるいは密を裂けてピークエンドに来なさい!
大阪メトロの東梅田から難波方面は連日満員である。
本当に、本当に、大阪府は大阪メトロの料金を1000円上げて後で確定申告時返却にしてテレワーク推進予算にしたほうが良い。
あとPCR検査くらい自治会レベルでやれないのか!? 大学生が『使いもしない施設維持費をきっちり学費で取ってくるくせに』と言いながら並ぶ。
だから危ないからやめなさい! やめておきなさいマジで!
政府は『風俗産業に補助金は出さぬ』というが病に差別はない。外国人だろうが日本人だろうがクラスター化したら一気に広がる。
民間のPCR検査は生年月日と電話番号の自己申告だけでうけられるらしく、保険証を『紛失した』外国人でも安心して受けることができるらしい。よいことだ。病に差別はない。
つまり。会社と従業員ではないが見えない危険は身内から来るということである。
「いや、さすがに無理やろ。今めっちゃ患者でてるで」
こうしてめでたく出来立てほかほかのたけのこは全て鴉野の腹に収まることになった。
すまぬ上司。たけのこおいしい。




