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無笑 ~正月から自称ヤクザが怒鳴り込んでくる程度にはどこにでもある日常編~  作者: 鴉野 兄貴


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ゴッドファーザーばぁちゃん

 鴉野は特急列車を待っていた。


 後ろに杖ついたぱあちゃんが並んだ。ヨタヨタしていて電車に乗るだけでも大変そうだ。


 鴉野は彼女に前を譲り、そのまま両手で横入りをカバーしつつ電車に入った。


 穏和そうなばあちゃんヨタヨタ進む。


 譲ってよかった。乗車の時点で怪我しかねない。


 というか、コロナ自粛の時はほとんどテレワークできていたのだからみんなそのままテレワーク社会に移行してくれ。5G関連株買い占めておくから。


 ばあちゃんは鴉野にガードされ電車入り。そこで奇跡が起きた。


 電車に乗っている若者五人くらいが一斉に立ち上がってばあちゃんに席を譲ったのである。


 なんていい話。コロナ騒動前にいたばあちゃんや妊婦や障害者がいてもガン無視し、痴漢行為を働き、女の子や弱そうな人にわざとぶつかる余裕のない者たちは多少電車が空いて激減したのであろうか。それともばあちゃんは実はゴットファーザーなのか。いや女性だし正しくグランマだが。



 鴉野が最近潜入している施設のスタッフは若い美女ばかりだが、施設利用者にはお身体の調子が優れない方も一定数いらっしゃる。


 なので、『車椅子通ります。ご協力ください』『歩行者同士の接触お気をつけ願います』などと言いながら出入り口で誘導員のような真似を良くする。


 今回の鴉野の行動はそのせいで身についた習性であるが善意が連鎖するのはぷよぷよで大連鎖が一気に決まった感がある。


 警備会社に勤める人なら誘導警備中に緊急車両が接近! なんか周囲の警備員たちが他社で別現場にもかかわらずアイコンタクトで緊急車両を通すべく周囲に協力広報しつつ安全誘導をするようなものだ。たまにどこぞの一〇月一日に安くなるラーメン屋の行列警備の車列中に病院があったりするのは稀によくある。


「鴉野さん。いい人アピールすかwww」

「『無笑』見ている人は鴉野が邪悪にして不幸を呼び、人の嫌がることを喜ぶ男と知っているはずだぞ。嫌がらせ回かなりあるじゃん。


 個別の話にするには短すぎるから折々触れるだけだけど女子高生を盗撮しているバカの眼前でふしぎなおどりをして邪魔しつつメモで学生さんに警告していた話とか」



 いい人ってあれか。奴隷制度の時代に活躍した偉人の像を見ただけで体調悪くなるアピールする奇特な歌姫さんとかか。わざわざ影響力を振るう案件ではない。


「おれの考えだが『正義』を名乗って民衆と共に一方的に悪党を殴り殺す以上の快楽はない。怒りは貧乏人の最高の娯楽よ」


「まあ、鴉野さんは稀によく無茶苦茶しますからね。敵に回すと頼りないけど味方にするとめんどくさい」

「全然怖くねえなそれ!」


 心情や信条は縛れないが、影響力を使ってそんなことを多数の耳目に触れさせたらアホウがヒャッハーする大義名分になるじゃん。


「歎異鈔も初めは人に見せるなという扱いでしたからね。実際親鸞さんは息子さんをたたき出していますし」

「キリスト教は信じるものはどんな民族でもいいけど、金持ちは天国行けないとかはマズイ」


 現実的ではない仮定をあるとするイデアやらないということがあるとするゼロの概念自体は知性や認識の幅を深めるけど、実際はなくてもこの世にあると人類が認知する金と違って空想と理想の世界にのみ理想や最大幸福があるというならそりゃ大変な皮肉だぞ。


 俺なら『地獄楽しや』というわ。



 削除してKindle版に移した『S価学会につれていかれますた』編でも若き鴉野は『キリスト教などが地獄発明したのだからそれ以前の人は皆地獄にいるし、どう考えても善人やS価を信仰しなければいけないケチな天国より地獄の方がよっぽど楽しいだろう。その理屈なら信徒でない鴉野一族は皆地獄にいる。俺も地獄にいく』と述べている。当時はTRPG狂いだったし。


「まあ、仏教の極楽には男女差がないですし天道は後が辛い詐欺みたいなものですし」

「色欲はあっていいもの、無くても困らないでいいけどその手の個人の意見の押し付け合いになったら大喧嘩!」


 てか、小説書くの辞めるつもりなのに『SeLica』しちまう程度には思うものがある。


 過去の価値観を受け入れられない個人的感性を時流に乗って正義とし、他人に影響力を振るい、怒りという娯楽を楽しむべくヒャッハーする。


 正直このノリは先の大戦争から七〇年そこいらしか経っていない日本に住む鴉野のような小心なる男にはついていけない。


 日本ではここぞとばかりに金持ちぶっ殺せにならない。なんだ日本人、怒りが足りない。菩薩の境地はここにあるのじゃね。日本スゴイ(皮肉)。



 その辺なろう主人公は思想だのせこいことは言わない。気に入らない奴はとりあえず暴力でなぐる。


 それは安全圏から正しい思いとやらで他人を操らんと試みあるいは機会を見ては正義の名の下ヒャッハーよりよっぽどシンプルで痛快な正しく主人公といえる。


 もっとこう欲望のままに。


 例えば後ろに妊婦が立っていれば彼女と子供が怪我しないよう電車に乗れるよう先導するような自然な善意が必要である。


 言葉を尽くし感情を解説し夢を語っても地には付かない。怒り悲しみ憎しみ不安。根源的な感情が伴ってこそ善意に対する感動は胸を打つ。


 無理やり電車に座ったら感染リスクが高い。


 そういう実情はあるにはあるが、コロナショック前の無理やり座ろう、弱いものをたたき出そうより今はマシに感じる。赤の他人に対してシンプルに、もっと弱さを前に出すことができる世の中と言えるかも。


 孤独でいい。

 友達なんて居なくてもいい。

 自分への感染は防げなくても他人にうつしたくないからマスクつける。



 そのような心の孤高と赤の他人への優しさを見出せるなら多くの死者を伴っているコロナ騒動も肯定的に考えられなくもない。


 鴉野も誰にも合わず誰とも性癖や趣味が合わず迷惑をかけることは多々あるだろうが、孤独でいいから孤高でありたい。とりあえずばあちゃんは大事にしろ。


 鴉野? 鴉野は……。


「資格取りに行くの? Nちゃん。カラスノ君に聞くといいよ! 資格者だから!」

「鴉野さん。資格持っていましたね。ちょっと実技試験の手伝いしてください!」


 試験落ちたら某協会が警察仕込みの調査力をもって必死で作成した資料捨てる奴が多々いる資格なのだけどな。事前連絡なしで指導できると限らないのだが無茶ぶりにもほどがある。


 しかし素晴らしいことに鴉野はアホですぐ内容を忘れる為、逆に仕事中に閑な時は復習したりするためにバレないようメモ帳に縮小コピーを貼り試験内容をボイスメモしてアップルミュージックに追加している。監視カメラの前で堂々と愛かった資格の実技やっていたりする。ある意味適任ではある。

 鴉野にはおおよそ正義を信じる性質も善意のようなものもないが、N氏との特訓は深夜まで続いた。



「鴉野さん鴉野さん」

「なんだ」


 仮想人格曰く。


「兄貴キャラではないと主張しているのにユーザー登録したてで個人メッセージを送れない方による活動報告に画像貼り付けだの、うっかり削除してしまったりアカバンされた方の作品捜索やGoogleキャッシュを見つけたりと結構人助けしていらっしゃいますけど、そういう意味での『鴉野 兄貴』が実生活でも表れているのではないでしょうか」


 否定できねえ!


「だいたい、同僚が踏切に嵌ってしまったじいちゃん救出して遅刻するとか、それ同僚さんじゃなくて鴉野さんが遭遇するべき案件でしょ」


 今の会社にいるとなぜか『鴉野 兄貴』案件が起きないから最近の『無笑』も笑いにくい話が多いのだよなあ。


「まぁ、トラック転生しそうななろう主人公候補を助けても死なないでしょ。鴉野さんなら」

「……さすがにトラックに轢かれたら死ぬだろ」


 いや、たぶんきっと。


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