本人『これも経験』〇→他人『これも経験』× 芸人『お客様は神様です』〇→客『お客様は神様です』× 被害者『メーカーは安全な車を作ってほしい』〇→加害者『メーカーは安全な車を作ってほしい』×
今日日のSNSは連絡とか音声通話もできる。鴉野がその連絡を受け取ったのは夜中であった。隣では放送大学の同期がゴロゴロしている。授業で鴉野たちは和歌山県に来ていた。
『兄貴! お願いがあります!』
今更兄貴よびって何かあったの仮想人格君。
あ、『無笑』はフィクションなので今日の仮想人格君にはとある団体の編集部の人役を演じてもらっています。繰り返すがこれは現実の話ではない。現実だったらマジ笑えないぞ。俺は笑うが。
「うちで作っている雑誌を鴉野さんに手伝ってもらったじゃないですか。簡単な誤字脱字チェック頼んで」
あれ、パトスが溢れるのは良いが無茶苦茶で文章が迷子でワケわからなかったぞ。『本なんか読まなくていい。本と違って音楽は全ての人を繋げる』だったっけ。取敢えず本も読めと言っておいてほしい。
「あれ、頼んだ原稿の半分がオチました」
「は?」
「今から各団体の調査を行い、彼らの代筆をお願いします」
「俺、大学の授業で和歌山にいて、手元に携帯電話とiPadしかないのだが」
どうするのだよ。いやマジで。
「とにかく出来たらなる早で」
「資料お願いします。携帯で閲覧できるもので」
鴉野は同期の『鴉野君、携帯弄ってどうしたの』な視線を躱しつつ必死でタイプし、なんとか依頼分のゲラを送り、その後三日でそれを完成させた。
「こことここ書き直し」「ここもお願いします」「ここはうちのイメージに合わないそうです」
自分で書けや!!
原稿落とすな!
「あ、はい。了解しました」
文句を言うよりゲラを送るのが速いのがSNSメッセンジャー系の利点である。
さっさと当日修正。OKをもらって寝る。
そして連絡が来るのが夜中の三時。
「鴉野さん。申し訳ないのですが原稿修正入りました」
マジかよ何が悪かった。
俺文字数30字くらいのその人の紹介記事書くためだけに相当読み込んだぞ。
「25文字は事務所指定ですのでボクが書きます」
「それ、ライターいらんやつやろ」
「ですね!!」
「ですねじゃないわぁ!」
草が生えるとはこのことである。
その他紹介記事に悪い事は書けないので、もとい書く文字数はないので色々アレコレな人までいる。
「良い記事お願いします!」
あれ? 俺簡単な誤字脱字チェックのみで参加したはずなのだがおっかしいな。結構記事書いているぞ。
「鴉野さん助けてください」
「こんどはなんや?!」
彼曰く、対談記事を任せたら誰からも文字起こしがあがってこないらしい。文字起こしとは音声を原稿にする作業である。
「え、どうなっているの」
「すいません。文字起こしソフトが入りません」
担当よ。そのインストールの間に文字起こしできるだろ。鴉野は『大鉄人17』を観ながらその作業を終わらせた。彼らは何故できないのかやらないのか。
「さすが分速100文字でも『遅い』なろう作家です。原稿が速いし修正も早い。なので」
「わかっている。あれだな。対談はその場のノリで行うし本人たちの専門知識が爆発していて意味不明だから解説や言動を前後させてわかりやすくする」
「本人たちに原稿チェックしてもらうのは任せた」
後日、ちゃんと任されていなかったらしく後から本人がTwitterで愚痴っていた。申し訳ない。
でもなぁ。君らの世代の流行語とか読者にわかると限らないだろ。あと専門語も鴉野がたまたまその手の話題をGoogleアラートでチェックしていなければわからんぞ。
鴉野はたまに本の誤字脱字ボランティアをやることがあった。正直一冊に複数名のボランティアなので楽だと思う。それは良い。
「この方のブログやメルマガを電子書籍にしたい」
「やろうか」
前後して並べるだけなら楽だし。これも経験。
「では体系的にまとめて本にしてください」
「はい?」
それはまるまる一冊書くのとどう違うのか。
「その通りですが何かおかしいのでしょうか」
「結構おかしいのだが引き受けた」
こうして結構納期は遅れたが原稿は完成した。その後の行方は鴉野も知らない。鴉野が得たことはこの手の有名人たちのホンは本人が書くわけではなく普段の言行を信者たちが矛盾なくまとめているだけであるという知見である。こういった経験から鴉野は小説家になろうの誤字脱字機能は結構いい機能だと思っている。作家さんによってはアンチに全文修正されるらしいが。
さて。鴉野は相変わらず底辺だが彼らは多分儲かっているのだろう。信者と書いて儲かると読む。
「ところで文字起こしの元動画、有料コンテンツなのだが」
「すいません払います」
……いや、普通にそこは先に経費で出してほしかったなぁ。面倒なので断った。住所とか教えたくない。
結論。
タダ働きで得る経験値は相応のものでしかない。早く逃げましょう。鴉野の場合失職がもとで会費が勿体ないだけという理由だったが大した差ではない。
鴉野は某自称オンラインサロンを応援しています。




