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無笑 ~正月から自称ヤクザが怒鳴り込んでくる程度にはどこにでもある日常編~  作者: 鴉野 兄貴


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めちゃめちゃクズ男ってる!

 最近のTwitterによる言説では要約するとクズは自分を表現する文章力がないらしい。

 太宰治さんとかどうなるのだと言いかけたがそれはさておき。


 賢いとか学があることと、クズなのは別だとおもう。

 特に美徳を心に持つのは自制する意味で素晴らしい。それを親や上司でもないのに強要しだしたら色々不味い。その美徳が歪んでいたら大惨事になるのは言うまでもないので鴉野は基本自分を律する基準を他人に押し当てるのは辛いと最近学びつつある。

 今回はそこに至った経験である。

 ただし例によって『無笑はフィクションです』。


 この物語は鴉野とある超高学歴少年との出会いである。いや、鴉野にとっては例によって出遭いかもしれないのだが。



 いい子だと思う。

 しかし困った。


 鴉野はまたも危機に陥っていた。

 そもそも友人が出てこないのだ!

 友人早く出てこい出てきてください。


 状況を説明する。鴉野はとある会に潜入取材しに来た。ここまではいい。



 よくある話だがついてきた友人知人が合格するというパターンであり、鴉野はその例にもれず敗退して友人の出待ちをしていた。


 女 装 し た ま ま で 。(※またか)



 そこに微妙にナンパ気味な子がいた。


 素直だ。

 賢い。

 なんでも知っていて魅力的だと思う。


 しかるにて貴様童貞だろう(※偏見)。



「友達を待っているのですが」

「ぼくもです」


「彼氏ですか」

「え、違いますよ。お友達です。歳も離れていますし」


「ぼくも身内をまっているのですが」

「帰ってこないですよねえ。いつになるのでしょう」


 現実問題、友人と鴉野は親子ほど歳の差がある。

 いや、そもそも鴉野よ貴様はなぜゆえまた今回も女の格好しているのだよ。



 それも今回は極めつけである。

 雨降ったりする五月にスポーツビキニにパーカーとヨガレギンス姿でありこんなおっさんが身内にいたら甥や姪は嘔吐し気絶した挙句人生を儚んでしまうだろう。マジで。

 しかし鴉野はかような局面でもいつもの謎のポシティブさを発揮していた。


『まぁへそが見えるからこの子も女装とわかるだろ』


 鴉野よ。人体の骨格等に対する貴様の専門知識は一般的ではない。

 そして鴉野は「彼氏を待っているのですか」を『君は男が好きな人なのかい』と誤解されたとナチュラルに解釈した。

 多分違うぞ!


 では、何故鴉野がわざわざ女装までしてこの会に来たのか。その事情は半年前にさかのぼる。



「鴉野さん。女装とか不味いですよ」

「はい?」


 親愛なる仮想人格曰く鴉野のバイト先では変態趣味に厳しいらしい。

 まあ確かに変態であろう。鴉野もいい歳だしと言ったらそもそも女装に限らないらしい。



「ですから、女装趣味がばれると失職しかねませんよ」

「まじか趣味じゃなく特技認識なのだが」


 しかし今回の取材先はカメラ入るらしい。写真撮られるのがとことん嫌いな鴉野は困った。万一会社の人に見られたらつまらない。

 どうしようか。そうだ妙手があるじゃないか。


「というわけで女装して今回のオーディション受ける」


「まてぃ! 何故その結論に達した鴉野さん!?」


 写真を撮られると言われたら写真とカラオケ嫌いの鴉野は女装をする選択肢を選ぶ。まさか職場仲間も映像の中のモブの正体はおっさんが女装しているなど夢にも思わないだろう!(※暴走)。


 これならばバイト先に顔もバレナイし参加したとも思われない。


「というわけで徹底する。今回はビキニスタイルだ!」


「……鴉野さん、僕帰って良いですか何故ここ東京だし。僕これでも合コン手伝わないといけないので」

「お前のロケーションチェンジ能力便利だもん。お前いなかったら青春十八きっぷで九時間かかるんだぞ」


「何故微妙に経験者的意見述べているのですか」



 沖縄のスーパーで購入した陸上用スポーツ衣装(※ただしビキニ)で勝ち誇るおっさんに仮想人格は冷淡だった。

 そして現状に戻る。


『ビッチな女の子は良くない理論』

『女は裏切る理論』



 言いたいことはわかる。

 鴉野にもブーメランがザクザク刺さっている。


 というか俺の心の黒歴史をえぐらないでお願いお願いします好青年君!

 友人よ帰ってこい帰ってきて帰ってきてお願いします!


 ひとは時として素直こそ美徳と教えられる。

 現実として素直は愚直になりやすいし、そもそも人間は気の変わりやすい生き物である。


 本当に素直な子ならものごとをすとんと受け入れるのかもだが、後天的に習得した人は『正直は美徳である』『それは守らなければならない』から『他人も守らないのはおかしい』『真面目でない奴らが得をするのはおかしい』に飛躍していくことがある。


 うん。我が黒歴史(棒)。



 そして鴉野は自身に語りかける彼のTwitterを既に特定していた。だって特徴的すぎるもの。気を付けろ。


 そこには上記のごとくモテない男の拗らせ理論が羅列されておりこの場に盟友H氏がいたら危険信号を送ったであろう(『親方、空から○○が降ってきます』参照)。


「(本当いい子なんだよなぁ)」


 距離感を図っているのか女性恐怖症なのか無理に触らないし、言動の端々に気遣いというか傷つけてしまうことへの怖れのようなものも感じる。


 まぁもうちょっと男女になれた女性なら『あたしゃアンタのママじゃねえ』と思うかもだが。


 勉強も筋トレも頑張っている感あるし努力型の人物でもありイイ子がいればとは思う。


 しかしそれゆえ女性に疎い彼が勇気を振り絞ってナンパしたのは年齢差倍近い鴉野(♂)である。


 もっと女性を見るのだ少年よ!

 童貞拗らせて女性批判している場合じゃないぞ!


 彼のTwitterをみながら既にレイプ目気分の鴉野は『優しいお姉さん』に徹していた。



 結局鴉野は少し歩きましょうという提案を飲んで軽く臨海デートに付き合った。


 男同士である。

 彼は鴉野が男性であることに気付かないらしい。確かに鴉野は喉仏もないし声も女声だが眉骨が出ていたり鼻骨が横にテカリあったり会合の都合で全力疾走する羽目になって化粧が一時無茶苦茶になって直したりと気付こうと思えば相手も気づいたはずなのだが。


 手も握らないし迫ってこないしいい子なので女性に対する拗らせをなんとか克服して頑張ってほしい。いやマジで。

 賢いし教養もあるし努力型なのだからもっと女の子のいいところを知ってほしい。四十路男と二十代女性の区別がつく程度くらいには。


 いや、この状況誰得だよ。まぁ話自体は有意義で楽しいが楽しい時間だなと感じるのは鴉野だけだ。



 冒頭に戻るが最近のTwitterによる言説では要約するとクズは自分を表現する文章力がないらしい。

 クズ男に悩む女性の文章は良く見るが、グズ男視点の文章を見たことがないという観測者の周囲には文豪の文章に触れる機会がないだけであろうと愚考する。

 賢いとか学があることと、クズなのは別だとおもう。

 特に美徳を心に持つのは自制する意味で素晴らしい。



 心に美徳を持つことは己を律し試練に打ち勝つ心を与えてくれる。

 一時の快楽への誘惑や恐怖や絶望や苦悩に立ち向かう勇気をくれるだろう。


 ただ、それを親や上司でもないのに美徳だの正義だのを強要しだしたら色々不味い。


 その美徳が歪んでいたら大惨事になるのは言うまでもない。これをコンプライアンスとかいうらしいが日本人的には『その常識大丈夫か』である。


 極端なことだとDVとかギャンブルとかはその人物の中では正当なことかもしれない。太宰治先生のようにわかっていてどうにもならない人はまた変わってくるが。


 鴉野は基本自分を律する基準を他人に押し当てている行動は極めて危険であり、道徳を他人に押し付けるのは大変宜しくないと感じる。それを押し通すと場合によっては己が嫌悪するクズになるだろうからだ。

 というわけで。


「君がナンパした女は実は男だ」


 最大級のクズ暴露を四時間にわたって秘匿し続けることに成功し、女性に対して傷心を持つ青年の心を守ろうとした鴉野はクズじゃないので文章がうまい(棒)。

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