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無笑 ~正月から自称ヤクザが怒鳴り込んでくる程度にはどこにでもある日常編~  作者: 鴉野 兄貴


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鴉野さん。飴食べて歯が折れたから労災ください

 沖縄から帰ってきた男鴉野マッ!

 黒十字キラーじゃないが大阪に帰ってきた鴉野。


 母ゆっこさんいわく『しばらくかえってこないからるすばんしてね』とのことで戻ってきた。

 冒険家のやま好きな母は二〇一八年一月五から一月二〇までニュージーランドで魚獲っていたらしい。やま行ったのじゃないのか。

 二十八日からまた旅立つ。行先は政情不安なベネズエラ。冒険先はギアナ高地である。空手十段といい鴉野家の人々はギャグやフカシの世界に生きている。

 その母は久々に帰省した息子に『生活費』と妄言を吐いていた。


「あなた月の半分以上いなかったくせに無職から五万取ろうとしないでください」


 妄言を吐く母の隣で帰省した鴉野を迎えた実姉。彼女も実家に戻っていた。


『あ、沖縄から帰っていたの』


 甥がちんすこうを食べたかったらしい。

 買ってくればよかったな。


 久しぶりに会ったら無茶苦茶姪と甥が大きくなっている。ひさしぶり姪よ。美人さんになったね。

 甥はなんか畳んだ蒲団の上に包まって出てこない。



 トイレすらしないので少々心配である。


『相手にしないほうが良い』


 母よそうなのか。

 ある種の反抗期らしい。


 朝起きたら今年中学生になる姪が蒲団に入っている。

 事案である。姪に蒲団を取られて出てきた鴉野に実姉は『中学生と叔父、道徳的にどうなの』と言っているが鴉野はそれどころではない。

 一方姪は暢気なもので『ふとんあったかい』とのたまっている。


『言われてみればちょっとくさい』

 →鴉野の精神に50のダメージ!


 一方、甥は折りたたんだはずの蒲団と一体化し飯すら食べない。不撓不屈の構えである。


 体はホカペで出来ている

 血潮は毛布で心はこたつ

 幾たびの『ごはん食べな』受けて未だ起きず

 ただ一つのトイレなく

 ただひとつの水もなく

 コタツムリ一人眠り往く


 ……まさに鉄壁の構えが出来ていた



 どこの固有結界だよ。

 普段なら鴉野含めて誰かが構うところだが今日は姪の卒業式の衣装選びの日でありゆっこさんは忙しい。


 ところで何故姪が着るはずの服を着ているゆっこさん。理由は姪が蒲団から動かないからだ。


 姪がめっちゃ背が伸びてゆっこさんとほぼ並んだ。

 身長が同じなので替わりに着るゆっこさん。


 姪は時々ゆっこさんに捕縛されて試着をしたり、宝探しと称して鴉野の部屋にある物品を片っ端から隠していくので鴉野も甥に構っていない。


 姪よ。取敢えずノブの取っ手に洗濯ばさみ挟んで洗濯ばさみはどこですかはやめてください。あと天井近くに手が届くようになったのですね。


 やべえ。女装道具場所変えないと!!

 そっちかよ。そっちである。


 甥は鴉野に似ているところがあって空腹をあまり感じない体質である。曰く料理を作るのは好きだが食べるのは苦痛らしい。その甥は起床すると鴉野の頭にパイルダーオンして外れない。いつものことだが姪もキャバ嬢のようにくっついて鴉野の腿をマッサージしている。二人共小学校高学年なのだが。

 どうなっているのやら。ちょっと懐きすぎかも。



 さて、姪は何故か親しい男性にはモノ探しを命じる傾向がある。義兄の前ではチョコチョコ隠れるらしい。


 どこの家に帰るといつも死んだふりしている奥さんだろうか。アクティブなのか蒲団から動かないのかよくわからない姪だが取敢えず入江君人先生の『王女コクランと願いの悪魔』を見せたら少しおとなしくなった。でも腹に甥が乗ってくるのはたいして変わらない。


 近況報告をする姉と鴉野。

 鴉野が無職になったいきさつも取敢えず甥や姪も把握済みで話は早い。


 甥が動かなかったのは沖縄土産ちんすこうがなかったからではないはずだ。


 最近インドアに転向した姪はすっかり色白になっていて、全員の容姿の話題になった。鴉野家は容姿が別の意味で色々おかしい家系であるので話題は尽きない。


「ここわたしけがしている」


 むしろゆっこさんに目に見えるキズが少ない方がおかしい。姉にも多少はあるが姉は常識人で基本ない。

 そして鴉野も額に少しキズがある。


「なんで?」

「可愛い姪よ。それはだな」



 鴉野はゆっこさんがニュージーランドで汲んできた水で淹れた珈琲の残り香の残滓を手元に置く。


「二歳くらいの時に大きな坂の上で三輪車にて滑り台ごっこして遊んでいたらずるっと滑って沿道の車よけに設置された大きな岩で頭ぶつけたからだ」


 なにしているの叔父さんと笑う姪。

 そんなに面白いのか。


「そんなこともあったね」


 姉よ。何故そこで遠い目をしている。


「ケガと言えば」


 これは『掃除は給料に含まない』に入れそびれたネタだが。


「前の会社にさ、弁当の代わりに叔父さんが職場に『みんな疲れた時に食べていいよ』と置いていた飴を一人でバリボリ食ってしまうやつがいたのだが」


 うん。

 姪は社会人ではないが聡い子だ。

 ちょっと自主性に欠けていたので昔は弟のためにという体裁をとらないと母である姉になにか言えない子だったが最近はかなり積極的。



 ……あ、このジンジャークッキーめっちゃウマいけど超固いな。歯が折れそうだ。外国のクッキーにはこういう焼き締めがしっかりしているものが時々ある。


 今日の鴉野家は姪と甥のために珍しく暖房がかかっている。冷たいはずのテーブルも今はコーヒーとお菓子で温かい。


「夏になるとアメは溶けるわけだが、よせばいいのに溶けたアメをこのクッキーみたくかみ砕こうとして歯をぺりっとやっちまった……ちょ。マジだから」


 我慢できなくなったのか噴き出す姪。


「労災……弁償してくれというから全力で断った」


 ちなみに鴉野が先日まで所属していた派遣会社P〇NSTAFF(仮名)は二か月半の任期中開始一ケ月半後に払った6万円ちょっとしか渡さず、鴉野が退職してから残りの給料二か月分を一か月ごとに払ったとんでもない会社である。


 十一月二五日に退職して二八日に職安を通して離職票がないと失業保険が貰えないから早急に出してくれと通知後も離職票を出さないために受給資格認定日を前にした十五日にメールで確認。その時『早急に送付します』と言ってなしのつぶて。二〇日に確認すると年末をまたぐので来年に離職票を出すと言い出した。



 鴉野は激怒した。必ず邪知蒙昧なる会社を訴えると職安から労基案件になると告げるとダッシュで行ってきたらしいがその離職票が沖縄に届いたのは一二月二八日で職安の仕事納めの日。結局鴉野が失業保険を受け取れたのは翌年一月七日になってからである。


 その後、鴉野は二月から始まる税務署バイトの結果が出るまでの一月の間は暇になるので友人の所でアルバイトをすることになったのだが。


「なんか、次の失業保険が17万超えていて、前の会社の手取りより多いのですが」

 鴉野は戦慄した。

 曰く、P〇NSTAFFが離職票を渋ったので認定がズレにズレてこうなったらしい。どうりで前の失業保険が数万円になったわけだ。

「これ、知人の会社にアルバイトいってなかったら18万に」


「なっています」


 なっとるのかい。

 知人にあとで連絡を取ると爆笑していた。


 鴉野の周りはよく笑う人が多いらしい。

 鴉野は皆が何故笑っているのかわからないが、それはそれで悪い事ではないのだろう。

 今年もよろしくお願いします。

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