掃除は給料に含まない 総員堆肥せよ!
大みそかである。
皆さんは大掃除を終わらせ新年を迎える準備ができただろうか。
鴉野家では暖房をケチる母ゆっこさんの努力に反しあまりの寒さに風呂釜がぶっ壊れ、自転車で風呂屋に行こうとしたら虫ゴムが破れ、自転車屋が開いていないので鴉野がホームセンターで修理する事態と大騒ぎの大みそかになった。それは節約できていない。
長らくこのシリーズを更新していなかったが今回は良い機会なので大掃除にかの職場にて異臭騒動が起きた経緯を話したい。
この職場では掃除とか片付けは鴉野の仕事と認知されていた。比較的育ちが良い方で不潔に耐えがたいかららしいが鴉野には迷惑な話だ。
「というわけで鴉野君」
「はい」
「冷蔵庫も掃除お願い」
「はい」
まあ冷蔵庫なんてちゃっちゃと拭けば終わりだ。
甘かった。
どう甘いのか。
溶けたアメが冷蔵庫の壁面にこびりついていた。
え。意味わからない。
鴉野の元職場は激烈な暑さを誇り素人電気工事の影響で時折ブレーカーが吹っ飛ぶ。レジなどが止まると業務に支障が出るので『スポットクーラー切れや!』とか『扇風機止めろ!』と生命にかかわる指示を社員差し置いてアルバイトが出していたりする。
にしたってあんた。
冷蔵庫が汚物まみれってどうよ。
この古い肉は何。
このなんかわからんドロドロした物体は元食料か。
ええと、これは社長一族の奢りで支給されたジュースと思しきものだが何故開封したまま何か月も放置しているのか。
冷凍庫は霜が降る昔のものだが、社員アルバイトが涼をとらんと氷を入れたビニール袋が大量にへばりついている。
あと、何故調味料があるのか。
この誰が使っているかも不明のコップは何だ。
ここの水場はトイレブラシ洗っていた場所だぞ。
鴉野はトイレを洗うためのウエスを取り出した。
普通は食料品を入れる場所にそんなものは使わない。使うと食中毒になるはずだ。
しかし、世の中には例外というものがあるのだ。
鴉野が掃除を始めた途端ウエスは真っ黒に染まった。染めてやるよ俺色に。激臭半端ない。
誰だ。ショウガをこぼした愚か者は。先ほども述べたが飴が溶けてへばりついたのと混じっている。
よし、トイレを洗う水場で使われているポットさんカモン! お湯で洗えば落ちる何事も!
鴉野がお湯で冷蔵庫を洗い出す。
ウエスは一応使い捨てのものだし、トイレを洗った後のものではないから大丈夫である。もう必死で謎の亀の子たわしとかで洗うがひょっとしたらかつての店長がトイレに使っていたかもしれない。本人がいないから確認の術がないが。
汚いというか異臭を放っているが、その中で異形の存在と言うべきは冷蔵庫の下側に入った四角いバケツ状の部位である。正式名称は知らぬが本来なら野菜を立てておく場所なのだが。
茶色い。
異臭が半端ない。
賞味期限切れの食料が堆積し、年単位で放置された飲みかけのがひっくり返ってぶちまけられた結果堆積した汚物が詰まったバケツは透明から茶色めいた謎の物体Xと化していた。水場に捨てて缶やペットボトルの中身を処分しゴミを分類する鴉野。ゴミまみれ。
「この缶ジュース飲めるからあげる」
「いりません鴉野さん!」
「やめてやめていやだいやだ」
「あ、この食器類取りに来ないと捨てます」
「横暴だ」
会社はゴミ箱じゃねえ!
あと食器をトイレブラシ洗う水場で洗うな!
衛生概念ってものを知れえ!
還暦過ぎたアルバイトのおじいさんたちがマジで嫌がっている。いや、そういう利用法をしたのはあなたたちだ。マイボトル派の鴉野は基本こんなものを使わない。
鴉野は冷蔵庫下部の汚物が流れ込んだ結果結晶化した元々透明だったバケツのような部位に熱湯を注いで洗浄を開始したら。
……悪臭が発生した。
「やべえ。今入れたばかりのお湯が真っ黒」
「鴉野さん、そのバケツ近づけないで!」
「こら鴉野くん来るな!」
「そう思うなら代わりに掃除するか汚すなよ!」
鴉野はこのBC兵器で従業員を攻め立てる。単純に考えれば鴉野が社員でありベテランとはいえども彼らはアルバイト。立場だけで考えればもはやパワハラだが彼らは鴉野にBC兵器を防護服なしで処分させようとしたわけだからこれくらいは許されるはずだ。
「異臭凄いのですがなにかあったのですか」
お客さんもドン引きの異臭騒ぎである。
「どういうことだってばよ」
後日異臭騒ぎに対して新しい店長に事情説明する鴉野。事態を把握する店長。
『今後、一週間以上冷蔵庫に入っているものは店長の置いたものでも処分します。鴉野』
店長の特別許可は発令された。
BC兵器を毎年出すわけにはいかないのだ。
いや、冷蔵庫をBC兵器にするなよ。貴様ら。




