掃除は給料に含まない 涙の251
ニコイチというものがある。
ぶっ壊れたモノの正常部位ふたつくっつけて直してしまう故障対応法である。場合によってサンコイチヨンコイチすることもある。
にしたって。
「おいコレどうなっている」
鴉野が空けたキャビネットには埃だらけゴミだらけ。比喩ではなく埃がたまっているし謎の砂鉄が詰まっている上お菓子のゴミと思しきもの、謎の配線に豆電球、膨大なネジと部品、よくわからない紙や書類が詰まっており。
「取敢えず、アレどこだ」
毎回思うが忙しいと適当に道具を突っ込むので何度かキャビネットを開けたりしめたり。
キャビネットがわからないという人に形状を説明すると工具類を入れるための箪笥みたいなものだと思ってだいたいあっている。愚か者が階段代わりにしてえらいことになるのも一致している。
まぁ大抵のキャビネットは大人が乗っても大丈夫な頑丈さと重さがあるので……要するに移動させるにはなんらかの道具を要する。
まして中身が詰まっている場合は洒落にならない重さを誇る。
「うん。ゴミの山だ」
鴉野は数年耐えた。
耐えたというかそれが異常だと思っていなかった。
そろそろ限界だ。必要なものを必要な瞬間必要な量を出せ。
新品かもしれないがどこに入っているのかわからないネジ。いつ使うかわからない新装開店用の養生道具。ちなみに養生はこの場合コンクリートが綺麗に固まるようにするための道具だがパリンパリンに固まっているゴミと言っていいものである。
コッソリ捨てる。
叱られてもいいや。
ジャラジャラジャラ。
すごい音をしてバケツに廃棄されるネジ釘鉄くず。
後に愚か者がもったいないと言って回収してくるのだが。
「じゃ、分類しろよ」
「鴉野クン。暇な時にしてよ」
「暇がないから忙しいのにできるわけないでしょう。あまりにも仕事効率が悪いから棄てたのです。拾ってくださるならば拾われた方が分類するのが筋というもの。正直何のためにあるのかわからないニコイチ部品は捨てざるを得ません」
だいたいその部品そのものの購入を辞めたのは数年前なのだ。わざわざその部品をニコイチして修理するならば新品をつけるべきだ。どうせすぐぶっ壊れる。
ネジ? このネジ使ったのはいつだ。
よくわからん道具類もそうだ。
鴉野がよくわからないということは誰も使わないということである。固まったテープだの接着剤などは論外である。あと汚れを防ぐための新聞紙をキャビネットに入れてどうするのか。使わない書類を突っ込むな。いや、それもう書類じゃない。鴉野が把握できないのだ。誰も内容を覚えていない。
そういうわけで誰も捨てない。
整理しない。
入れた場所が無茶苦茶。
謎の紙が入っている。
よくわからない道具類がある。
よくわかるが使っていない道具がある。
電動ドリルとその先端みたいに関連性のある道具がないので新品ばかり買ってくる。
これらを暇な間に職場連中の眼を盗んでごっそり捨て、使わない道具類は倉庫に『●●用道具』と表示をつけて放り出し、目につく倉庫のゴミを処理し。って何故この倉庫梱包のハコやロープのゴミが残っているんだ。うわなにこれ貴重だぞ。ちょこの道具はあそこにないとおかし。
キャビネットを片付けると中身が半分以下に落ち着いた。あの閉まらないほどパンパンだった状態はなんだったのか。取敢えずニコイチ部品はこんなに要らない。代替利くもの数個あれば充分だ。
キャビネットの上も私物とゴミの山。
取敢えずなぜウエス、雑巾と作業服が置いてある。
誰のだか知らんが捨てざるを得ない。嫌なら何年もほったらかしにするな。着ろ。
ぶわ~~!!
途中面倒になって埃をエアダスターでぶっとばし、それでも取れない砂鉄は雑巾でふき取って雑巾を洗わずそのままゴミ箱に捨てる。雑巾なぞ消耗品なのだ。何故赤さびがついているのだ雑巾に。
そんなこんなで鴉野はゴミを処分した。
当然仕事効率は激しく向上し、誰も文句を言う奴はいなかった。
単純に鴉野がブチ切れただけともいう。
取敢えずこの巨大なトラバサミを足元に置いた奴は出てきなさい。転んでけがしたらどうするのだ。
気が付いたら鴉野が片付けている。
散らかすのは主に鴉野だが後で片付けるのは大抵鴉野である。ならば要らないものを最初から決めねばならぬ。コストカットだの言いだす前に。
取敢えず片づけはやろうぜ。
誰だよ。高価なマシンを面倒だの予算不足だのスペースないから整備できるところに置けないだの、挙句の果てにはタコ足配線の電圧不良と整備不良でぶっ壊して人員削減ってコントかよ。
いや、これコントだよね。
コントといってほしい。
取敢えずニコイチすべきはネジではなく、それを扱う人間の脳みそのような気がする。
ニコイチ以前にもともと足りていない。鴉野のことである。




