掃除は給料に含まない トイレ掃除は週に一度
鴉野は掃除とか洗濯とかが嫌いである。
中学で学んだ洗濯表示の基礎知識など今の今まで忘れていた。掃除に至っては月に一度掃除すればいいほうだ。そういうわけでロボット掃除機を買った。コヤツがガンガン足元でぶつかる。ゴミ箱を自ら倒してティッシュを吸い込んで動けなくなる。気張れ。
ゆえに鴉野。最初からものを無くすことに挑戦した。この試みは成功し大分捗るようになった。何もなければ散らかるまいよ。膨大な本は処分もしくは電子書籍に代わり珍本だけを手元に残した。机も捨ててコタツにした。
このように掃除洗濯を苦手とする鴉野だが掃除洗濯をするとスッキリするのは理解している。布団を干せばいい匂いがするし、靴を洗えば肌触りが良く、パリッとしたシャツの白さはたまらない。
今回の話はそんな掃除嫌いの鴉野がこともあろうに整理係に任じられたことに端を発する。
「というわけで鴉野クン。整理係頼む」
「無理です」
即答する鴉野。
出来ぬものは出来ん。
「俺もできん」
「俺、掃除なんて生まれて一度もしたことない」
「??!」
掃除片付けしたくないだけの同僚たちのフカシじゃないかと戸惑う鴉野。
例えば修理だの機械だのを扱う時にゴミがあったら使用する機械類にゴミが入って二度手間になる。下手すれば余計壊れる。
しかし鴉野の記憶にある限り自分が整備などを行う時以外に他人が事前に掃除している姿を見たことがない。気のせいだと思いたい。繊細な部分が地面に接触していたら地面のゴミが機械類に入る筈だが気にしているのはたぶん鴉野しかいない。
「は、はあ」
「じゃ決まり。任せた。在庫も頼む」
鴉野は数を数えるのは苦手である。
計算は出来るが途中でどこまで数えたかわからなくなる。まともに100までものを数えられたことがない。しかたないから10ずつ束にして対応している。
頼まれた以上やってからできないというのが筋であるため鴉野は倉庫に入った。
「なにこれ」
前任者がいろいろあって引き継ぎなしに辞めたため鴉野が当時勤めていた職場倉庫はどこに何があるのかわからない状態にあった。
どうしよう。これ。
管理責任者とかたいそうな名前がつくが鴉野は通常業務の合間にそれをやらねばならない。
そもそも掃除洗濯片付けと言うものにこの会社の人々は価値を感じていなかった。直接売り上げが上がるわけではないし。
その会社のトイレは三年掃除されていなかった。
鴉野もトイレブラシがどこにあるのか知らなかった。いろいろあって前の上司を呼び出し質問してからどこにあるか判明し発掘。鴉野が掃除していた。
さすがにトイレブラシは家から持ってこれない。荷物が汚れる。
汚物は水で何度も流れた結果色素が失われ真っ白な垢となり堆積。尿石が黄色く固まったそのトイレは雨が降れば溢れかえり逆流していたためアルバイトの女の子が逃亡するほどのトンデモない状態だったがこの職場にはモップがあるだけマシだ。モップで掃除している鴉野を見た社長が『手で拭き掃除しろ』と謎の妄言を放っており。
これがトイレ逆流状態だったら鴉野もキレていたがこの日は普通の掃除だったためなんとかなった。
後に社長はトイレ逆流に自ら挑み完全に修理していたので見直した。有難う社長あなたはヒーローです。
鴉野が異動を受けて赴任した場所もまたトイレが汚かったがここは責任者自らが掃除していたのでまだましだ。それでも汚かったが。
具体的に述べると責任者である彼は完璧主義者であり、どんな雑務も自分一人でやらねば気が済まず、他の人がやっていると『出来の悪い仕事をするな』と叱るタイプだった。個人的に嫌いじゃないが手伝わせろ。満足いかない仕事でもやらせてその間にもっとも大事な仕事に注力し後にそれを補てんするのがマンパワーの使い方だが彼はそれを二度手間と思うひとだった。
なので。めっちゃトイレは汚かった。
末期色。もといまっきいろ。
彼がいろいろあって退職したあと、鴉野と前任倉庫管理者は必死でトイレを掃除した。酸性洗剤もってこい。漂白剤でシップした。トイレが綺麗になるのに実に三か月を要した。
こうしてなんとかキレイになったトイレだがこの職場にはモップがなく度重なる申請に対しても『不要。勿体ない』で一蹴されたため鴉野は致し方なくトイレ周りをトイレットペーパーで掃除していた。
ウンコや小便をほかに素手で何とかする奴いなかったし。
そのことが社内で発覚して鴉野は叱られた。
その時の上司の発言は以下のものである。
『トイレットペーパーがもったいないからトイレ掃除は週一度にするように』
鴉野の『モップがあればウエスやトイレットペーパーを使わずに済み、ウンコや小便をウエスやトイレットペーパーで掃除する社員(鴉野)以外が掃除でき、誰もが気づいた時に掃除できるため社員が他の重要な業務に専念できる』という陳情が通るまでこの会社では実に二年の月日を必要とした。
俺は会社を辞めるぞジョロジョロ~~!




