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無笑 ~正月から自称ヤクザが怒鳴り込んでくる程度にはどこにでもある日常編~  作者: 鴉野 兄貴


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与論島に行ってきました 作家森瑤子さんを偲ぶ

 百合が浜からまっすぐ山側のルートは先ほど試した。では次は右手に行ってみよう。あてもない旅を続ける鴉野だが与論島はだいたい直線で10キロないらしく適度に勾配あってチャリで移動したり走ったりするには大変いい島である。


 サトウキビ畑になんかよくわからない不思議な畑を突っ切り、猫や海鳥が堂々と通る道でTHETAを置くも取れずと結構一人でも走って……やっぱさっきの女の子の電話番号聞いておけばよかった。何故ライン交換とメール程度であきらめた! ちっくしょー!


 鴉野の内心の呪いの声はさておき、空は晴れ渡り風は適度に強く絶好の探索日和である。海岸線にロッジ村があるし与論島はどんな人気のないところでもトイレがあってしかも清潔にしている。海岸線近くならば結構な確率でシャワーも使えるのがよい。


 時々海岸線にお墓が見えるのは火葬場が出来るまでは年に一度遺骸を海で洗って供養していた時代の名残だと後に聞いた。鴉野に限ったことではないが友人の好意の情報に任せるだけでは重要な情報を手に入れるときは往々にして致命的なまでに遅いことがある。自ら情報を求める姿勢が大事だ。


 大金久海岸(※ ウプガニクと呼ぶらしい)を超えて船倉海岸(※ 同じくプナグラ)の間に探索路と書かれた看板があるので入ってみる。



 緑の草の海を乗り越え、鮮やかな空の香りをかみしめながらチャリを走らせる幸福。おそらくこういうマイナー処は鴉野しかいないだろうから道のど真ん中にTHETAを置いて撮影しても問題ない。

 かなり立派な木の橋をヒャッハーと通って崖の上の公園でエイドリアーン! とかは叫ばないが取敢えず周囲を見回す。

 茶花港を目指して海沿いを走る。

 道中に故・森瑤子さんの墓碑に到着。

 鴉野は不勉強なので森瑤子さんを知らないが書き物を行う以上先輩と言えるので手を合わせる。


「はい。森瑤子さん。お騒がせします。

 えっと、これはTHETAと言いまして360度にわたって素敵な写真を撮ることができる最新機器です」


 なぜか独り言。

 太陽しか見ていないのに不思議なもんだ。


「笑って笑って。森さんを俺も知らなかったけど知らなかった方々に森さんの作品を見てもらえるようにここで素敵な写真を撮りましょう。はいチーズ」


 墓碑と言っても整備されていて公園のように見える。島の観光地図に乗る程度には観光地化しているのだが鴉野以外の人間には出会わなかった。


 手を合わせ名前も知らなかった先輩の冥福を祈る。



 墓碑にして小さな公園を出た鴉野。

 この墓碑は在りし日の森瑤子さんのポートレートが飾られていたりして静かに訪れるにはとてもいい場所だと思う。ただ、この記事を読み終えた心ある読者はここがお墓だということを忘れないでいただきたい。


 山道を登ったり下ったり忙しい限りだが与論島は海岸沿いをいくかぎり適所に清潔なトイレと冷水とはいえシャワーが使えるので実に快適な旅ができる。

 どのタイミングで訪れたか覚えていないが漁港っぽいところについた。ここのトイレも綺麗で助かる。

 グッと背伸びしてTHETAを出す。

 THETAの使いどころは撮ることで行った気になって満足してしまう絶景よりこういった旅路の重要中継地点の情報を公開することなのではないだろうか。


 パシャン。緑も風も心地よい。程よい波の香りが鼻腔を刺激する。海沿いを行けば絶景に会えるので今更な感じもするのだが誰もいない船着き場を歩き、パシャパシャと写真やTHETAを操る鴉野。

 昔の鴉野ならば『写真等撮っていたら旅を楽しめない。己の瞳に焼き付けておけ』とでも断言するのだろうが今回は半分取材のようなものなのでいろいろ撮る。皆田船場と呼ぶ場所らしい。海を臨んで休憩したらまた旅立つ。


 アップダウンが適度にある山中を今日始まるというお祭り会場確認のために自転車でかけていく。


 道中に距離数看板があって本当に自転車旅にはありがたい。ヨロンマラソンという大会もあるらしくたぶんこのコースは勾配も伴って面白いレースなのだろうなと想像する。


「あ。そうだ。海遊びにいけたら行かないと」


 ダイビングとかやっていないし。さんざん迷ってついたところは本日誰もいなかった。残念である。


「次の日があるからいいか」


 鴉野よ。君は次の日は午前十一時には宿を出るのだぞ。どのみち鴉に行水は似合わない。

 山中をえいさこらせと自転車で登る鴉野。この自転車地味に良い自転車だな。小さいのにパワーがある。

 気楽な一人旅だがやっぱり可愛いねーちゃんと一緒のほうがいい鴉野はやっぱり俗物である。


 そういえばごはんまだだな。

 ひいこら言いながらもチャリを走らせる。

 昼の三時ごろになってやっとビレッジらしき施設に到達。幸いにも飲食店があるので立ち寄る。

 和洋折衷。中のテーブル席には花が飾られたとても上品な店内でWi-Fiも使えるのでTHETAの画像を転送していきつつ郷土料理『とりめし』を注文。

 THETAに気付いた人たちにビーチの絶景を見せつつ許可をとって撮影もする。



「おお! 最新技術すげえ」


 後に360度カメラを知らない人間たちより最先端なものに遭遇するなど鴉野には想像もつかない。


 アツアツごはんが出てくる。

 鳥のスープに皿いっぱいの具材。

 スープに具材のっけて召し上がれ。

 たった1300円でごはんスープお代わり自由。

 すきっ腹のヤロウには大満足の味わいである。


 与論島の島ジンジャーエールは辛口を指定したがこれもスッキリと美味い。酒を頼まないのは飲酒運転注意報だからである。

 ヨロンの味たらさんまた来ます。


 山を越えて茶花ビーチに到着。

 そろそろおまつりの受付が始まるはずだ。

 ビーチ沿い巨大な階段の先に王座が見える。

 何かと思ったらトイレだった。

 後ろに回れば用が足せる。無駄がない。


 もうちょっとこのへんをうろうろしていてもイイな。鴉野がそう思っているとラインに履歴が残っている。

 開けてみると与論島に住んでいた友人からだ。というかこの方が与論出身なんてそのとき初めて聞いたのだが。遠隔地にいても友人はありがたい。さすがに呑みすぎにて畳で寝ていたといえば叱られるが。



 畳で起きたで追記する。

 朝に早起きしたとき、茶花ビーチ清掃会があるとTwitterで確認した。普通に宿の皆はダウンしている。みんな呑みすぎだ! なお無笑はフィクションであり鴉野の語る体験談はすべて嘘っぱちであることを繰り返し明言しておかねばならぬ。


 その友人曰く。


「え。海で遊ぶのですか鴉野さん」


 ラインによるグループ通話なのでマリンスポーツで遊びそびれた等知らない友人たちのログがある。


「下駄履いて海に入らないでね。死ぬぞ」


 わかってますよ。


 トイレまで綺麗な与論島について絶賛する鴉野にあの島は豊かだからと補記する友人。


「タマシイやカミサマなどすごくアミニズム的に妖怪や霊、自然への畏怖や敬意が深い島ですよ」


 正直、観光地化されていてよそ者の鴉野には欠片も感じないのだが。


 法事についても教えてくれる。



 神社しかないので神式。火葬場と海で洗ってあげる風習についてもこの時習った。焼いていないお骨はオレンジ色らしい。


「ところで鴉野さん。警告しますが」


 なんだよ。改まって。


「妖怪の話は絶対! 海の近くでしないでね」


 ハロウィンネタかいな。ライン通話も含むなら今ビーチにいるからすでに手遅れだと思う。


「フリでもハロウィンネタでも冗談でもないです」


 もうすでに淡路島では狸に化かされたぞ。と思ったら命を奪いに来るくらい洒落にならん奴らしい。

 友人の家族は会ったことがあり、友人もまた一本足でジャンプしていく謎の動物の足跡を確かに見つけたと証言しており。


「一本歯下駄履いていたら仲間と思われるかな」

「イシャドゥは悪さをします」


 わかった。浜にお酒捧げておくよ。その妖怪は言語堪能変幻自在夜行性。夜には浜に降りてくる。生死の境の概念がないらしい。頭の上の皿が変装していても弱点だが気づかないふりしてスルー推奨らしい。



 このままここにいても良いがTHETAの電源が例によって飛んでいるので嫌でも宿で補給せねばならない。観光協会で宿の場所を聞くと当然10キロ先なのですごく遠い。それでも帰らねばならないので帰る。正直タクシーが欲しいところだ。パトラッシュもう疲れたよ。ララララララちゃららったらんらん。

 補聴器をつけてまで鴉野の話を聞いてくれたお父ちゃんの適切なアドバイスをもとに宿を目指す鴉野。

 途中土産物屋に寄ったがいいものがない。サブレの類は中身一緒でバカ高いので地元の人が利用する店のご当地お菓子で済ませる。これなら数百円で済む。


 実はそのすぐ近くにタクシー会社があるし車両も停まっているししかもそこで道の確認も鴉野は行っているのであるが何故頼まないか。それは。


「すやすや。みゅにゅー」


 運転士さんはお休み中だった。

 起こすのはよくないよね。

 休憩時間お疲れ様です。

 ごゆっくり。


 山を登り採石場と思しきところを通る過程で昨日宿の車で通りすぎた学校を抜ける。山を下りカーブを間違えて先日はしらゆり荘さんの近くまで迷った挙句に宿に帰ったが今日は百合が浜から宿の往復を何度か行っているので間違えない。



 間違えたといえばこの分岐にあるスーパーで貴重な黒麹島有泉を買っておけばよかったことだけである。土産物屋にはないのだ。誰か鴉野の代わりに買ってきてください。


 そんなこんなで宿に戻った鴉野。お祭りはすぐ始まるらしいのでご飯は要らないと伝えおにぎりを作ってもらう。Facebookに画像を投稿していると。


「高下駄なくしたら面白いよね」

「欲しがるかもしれませんね」


 確実にいるものとして扱えというイシャドウ。

 証拠が残るレベルの悪戯をする上いつどこで聞かれているのか、また島外の人に話しても相手にしてくれないのであえて話さないことで旅人の安全を守るらしい。そんなに怖いのね。


 なお、『高下駄献上したら会えないよ』らしい。

 みんな『押すな押すな』は辞めてくれ。絶対期待しているだろうが鴉野に妙な霊感はない。

 イシャドウに名前を呼ばれて誘拐されないように子供たちはニックネームをつけるらしい。

 下駄履かせてと言われたら要注意というがそんな人間どこにでもいる。


 それよりだ。

 森瑤子さんの墓碑の写真に友人が騒いでいる。



 原因はフレア光がふたつ。

 正直日陰で写るはずないのだけど。


「写っている! うつっているよ鴉野さん! 手を合わせて!」


 確かにこれは写っている。笑顔にも見える。


 鴉野は苦笑いした。

 今日日の霊は技術革新に疎く、10年以上前のテンプレを使いまわすWeb小説書き等よりずっと技術に通じているらしい。


「見つけたのは貴方だし、きっと学生時代のファンにお顔を見せてくれたのでしょう。きっといいことあるよ」

「いや、それならみんなにだね!」


 友人の台詞にちょっと鳥肌とともに苦笑い。

 VR写真にまでちょこんと写っちゃうお茶目な森瑤子さん。あなたのご冥福と作品のこれからの躍進そして更なる映像化を応援しております。


 続く。

(以下ギャラリー)


 皆田船場から海を臨む

挿絵(By みてみん)


 ヒャッハー! 酒だ―!

挿絵(By みてみん)


  与論島ビレッジ、ヨロンの味たらさん360度

挿絵(By みてみん)


 どこ行ってもトイレがキレイな与論島。

 ただしこの時はスコールで写真はあんまり綺麗じゃない

挿絵(By みてみん)


 皆田船場をTHETAで撮影

挿絵(By みてみん)


 船倉海岸の散策路をいく

挿絵(By みてみん)


 作家森瑤子さんを偲ぶ

挿絵(By みてみん)

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