与論島に行ってきました 与論に集う霊たちに祝福を(ニンゲン含む)
与論島にはナントカと名前を口に出すのも憚れる座敷童の極悪な奴が住んでいるらしい。鴉野が与論島を目指したのは別に妖怪だの精霊だのに会いたかったわけではないが結果的にそうなったとしても誰も驚かなかったであろう。
『鴉野さんはどうも不幸気質があるみたいですし野生生物に襲われないように気を付けてください』
押すな。絶対に押すなよ。アー!
こんな感じで皆に見送られて二〇一六年一〇月一四日に鴉野は旅立ったのである。いやくんな。鴉野が与論島の精霊ならばそう呟いただろうが彼らは想像以上に温厚だったことをここで感謝せねばならない。
天下の国営放送でも経緯と書いていきさつと呼ばなくなったのは最近の話。でも与論では最近でも海の周りで妖怪の話はしないし旅人に話すこともない。いるもんはいるしよその人にあえて教えても奇異と好奇の視線が帰ってきて島民にも精霊にも迷惑千番。
「いや、旅立つ前に教えてください」
元島民の友人は時期が時期だけにハロウィンネタと思われる可能性を危惧していたようだが実際マジらしい。ちなみにこの『無笑』は真実を多少ませた完全嘘っぱちのフィクションだが現在の鴉野、激しい眩暈で周囲がふらふらしている。
きっとこれもなんらかの力の悪戯なのかもしれない。にしては早朝に目覚めているが。二日酔いである。
友人も見たという一本足でジャンプしていく動物の足跡をはじめ金属物だけもっていく悪戯好きの存在等多岐にわたり与論の人々は敬意と畏怖をもって彼らに接している。鴉野は買ったばかりのTHETAのカバーをお祭りのさ中になくした。コレで済んでよかったと。
「兄貴ーー」(キラキラ)
仮想人格君。期待のまなざしで見ないでください。
鴉野に霊能力はありません。
「あの時はそれで済んでよかったと皆で。
……まさかあんなことになるなんて」
だからやめんか!
「一本歯下駄履いていたら仲間と思われて仲良くなるかもしれません」
ぽん。彼は掌を打ち合わせて呟く。
「高下駄なくしたほうが面白かったかも」
地味にワープアには高いのだからやめて。
帰宅したら八万円の布団を買ったから代金をくれと言い出したゆっこさんにもくらくらしたが。
勿論布団の件は断った。
感謝しろというが全力で回避。
そうしたら余った綿で抱き枕を作ってくれた。ソファ代わりになってなかなか快適である。
閑話休題。
とにもかくにも海の周りで妖怪話をするのはガチで死亡フラグらしく実際に死亡事故に立ち会ったヒトからお祭りのさ中にいろいろ教えて頂き鴉野は最終日に海の近くに行きたくなくなったが問題はない。かき氷を食べて最後の時間まで過ごしたがこの時のレシートがなぜか前日の二十三時付けになっておりその日はお祭りを終えた興奮冷めやらず皆とチャット中だったはずである。これも妖怪の仕業だとはやし立てる者がいるがこの程度で妖怪だの精霊だの幽霊だのよそ者が騒ぎ立てたら彼らにとって無礼千万ではないだろうか。
え、撮ってきた写真に二枚ほど心霊写真があるって。これはフレア光ですよ。真面目なカメラ屋さんならそう呟くのではないだろうか。
「あ、名前呼ばれるとやばいらしいです」
ふんふん。仮想人格よ。いきなり鴉野兄貴と呼ばれたら要注意ということだな。本名じゃないけど。
地味に妖怪対策に通称があるらしい。本土の人に言っても笑われたりするしそもそもしゃべると妖怪に聞きつけられるため彼らはしゃべることはない。普段はヤマにいて夜は海に降りるという妖怪たち。
「昔通勤中に鴉にふんをかけられて、水場で頭を洗っていたら職場の人に何をしてるのと呆れられ経緯話したら『そうか、今日からお前は鴉野兄貴だ』」
これは百合が浜にわたった時の話だが水に頭つけて笑う一同は同じ大阪の人たちでノリが良かった。
こんな感じで名前を聞きだされないように読者の皆様は注意してほしい。
妖怪さんの身長は150センチほどでジャンプ力強く足が速く人間が死ぬ程度の凶悪な悪戯をするのが好きらしい。夜元気になるし狩りもする。言葉巧みの変幻自在。状況証拠や勘で妖怪と気づいても知らないふりを貫くべきらしい。死ぬ生きるの区別が無いらしく残酷にふるまうが敬意と自然全体の畏怖を持つ者にはいきなりは怒り出すことはない。
鴉野は与論に集う(人間を含む)魂たちに敬意を払って、お祭りに向かう前に地元の神社と浜に大阪の地酒を撒いてきたが器に入れたほうが良かったかもしれない。
弁明すると器持ってきたのになぜか見つからなかったのだ。まぁ紙コップが残ったらゴミが増える。
なぜか空き瓶のゴミを見つけて回収した。
そんなこんなで鴉野はさんざんLINEで脅されているとも知らず、海辺で既読マークをつけてしまっていた。ダメじゃないか。




