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無笑 ~正月から自称ヤクザが怒鳴り込んでくる程度にはどこにでもある日常編~  作者: 鴉野 兄貴


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203/285

鴉野がうだつの上がらない鉄砲玉と間違われる話

 遅ればせながらあけましておめでとうございます。

 本年度も『無笑』を宜しくお願いします。


 鴉野の周囲も激変した前年と比較し、今年も初めからなろう関係の依頼などがあって激動の年となりそうな。それとまた別のお話。

「おはようございまふ。ああ。眠い」

 眠い目をこすりつつ、鴉野が挨拶するとアルバイトは血相を変えて叫んだ。

「鴉野さん! ヤクザが怒鳴り込んできています。助けてください」


 鴉野の日常は相変わらずであった。


 どうしてこうなった。

 話を聞くとお客さんに罰金請求したところケツ持ちさんがやってきた模様。

 ケツ持ち? 鴉野の頭の中にあるは『ホモ軍人将棋』とかの一連のなろう作品であるが、そういう状態じゃない。ウッスウッス。ホモは至高。


 怒鳴り込むお兄さんに応対する鴉野。

 しかし寝ぼけ眼のチビガリが出てきても威厳もなければ社員とわかるわけもなく。


「とっとと社員出てこんかいボケェ」

「あの。それ以上は恐喝として処理しますよ。丁寧にお願いします」



 このように扱われるのである。


「恐喝って言うのはな。なんか金とか脅し取ったらそういうんじゃ。こっちは法律勉強しているんやぞ」


 怒鳴り建てるやせ形のおにいちゃん。

 恐喝だか恫喝だか知らんし、トンカツのほうが食いたい。というか朝っぱらから眠いし。


 このおにいちゃん、ガタイは痩せて見えるが背が高く、戦える体つきだ。

 しっかし、迷惑な。忙しいのに。

「あ、はいはい。ちょっとお待ちを」

 キレる兄ちゃん尻目にちょいちょいと店の肉体労働を手伝う鴉野。修羅場だし見逃してください。


 店で叫ぶおにいちゃんを宥めつつ鴉野は店を出た。

 この間、鴉野を案じたアルバイトの一人が『鴉野さんがヤクザに連れ出されて殺されます?! 助けてください!』と上司に電話をかけていたが、鴉野の普段を知っている彼は風邪でダウンしていたこともあり。


『いくらカラスノちゃんでもヤクザと殴り合いはしないっしょ』


 などと言って切った模様である。

 ある意味信頼されているが、鴉野の命は罰金五〇〇〇円より安い。



 さてどうしようか。

 言うまでもなく相手は鴉野の眼前でメンチ切り状態であり、威嚇状態である。

「あの」

「なんじゃ」


 鴉野は頬を染めて呟く。

「キスしたいのでしょうか。ちょっと距離が近いです」


 委細省略。なお、本原稿はかなりフェイクを混ぜている。さすがにまんま書くわけにはいけない。鴉野が拉致られてこのお話の続きが書けなくなることがまれによくあるからだ。まぁ本稿の読者ならばそっちのほうがむしろご褒美と喜べるかもだが。

 繰り返すがヤクザ屋さんとからむことはないように自制をお願いしたい。その他「急に消えたり変な人に拉致されることもあるかもな」とか「お前の通勤ルート、謎の暴漢がおったりするかもな」と言ってくるお兄さん。

 昨今のヤクザ屋さんは時世の所為で自ら手を下すと手が後にマッハなので使い捨てを雇うらしい。

「だったら今関係ないじゃないですか」

「そりゃそうかもだが。君を心配して言ってあげるているんや。そういうことあると怖いやろ。あと今ボコられないっておもってないか」

「その時は即警察屋さん呼ぶ手はずです」

 鴉野にこういった手抜かりは無い。

「それにエベレストで遭難するのも仕事でいなくなるのも同じですから」

「なぜにエベレスト」

 毎年ヒマラヤに出かけて行方不明になる親がいる。



 うん。しかしこういう人に遭うと親近感がわくものである。

「よくありますよね。土曜で雨の日、ボーっとしていたら軒先にトラックが突っ込んできて『支払いに来た』なんてしょっちゅうですし。雨に濡れたくないなんてお茶目なお客さんですよね」

 なんか不思議そうにしている彼に話し続ける鴉野。

「そ、そうか、珍しいな」


「店閉めると五人組に襲われたり、待ち伏せしていた暴漢と夜中に殴り合いになって、ついつい勢い余って腕が抜けちゃって。抜けたその腕でズームパンチ連打やっちゃって『普通の人は脱臼した腕で殴ったりせんのや』って警察のひとに御叱りうけたりとか『そちら側の方』ならよくあるでしょうからご理解できると思うのですが」

 なお、時世により彼らはヤクザと名乗れなくなっている。恐喝になってしまう。警察のお世話になる。

「あ、ああ」

 共感を得ていただき誠にありがとうございます。


「拉致ってあれっすか。私センチュリー乗ったことないのですよ」

「はい?」



「クジラックス先生のエロ本みたいにハイエースだったら嫌ですよね。できたらセンチュリーで」

「車種指定する奴なんて初めてだぞ」


「まぁ拉致車両なんて普通盗難車じゃないですか。だったらセンチュリーでも困らないでしょう」

「いや、普通に目立つから」


 センチュリー珍しいんだ。知らなかった。

「でも昨今は警察車両でも高級車がありますから」

「まぁ」


「意外と寝心地いいんですよね。取り調べ前にひと眠りする分になかなかいい座り具合で」

 同意を得てガンガン喋る鴉野。

 まだ早朝。昏い道なので相手の顔がよくわからない。先ほどまで首根っこ掴まれていたが今はいたって穏やかである。


 鴉野の身に異常があったと判断した場合、ある程度時間がたっても戻ってこなければ即刻警察が呼ばれると相手には伝えている。

 加えて、拉致などの事件が起きたとしたらたとえほとぼりが過ぎても疑われるのは明白であり、おにいちゃんの姿はスタッフ皆が見ている。


「お前いくつやねん」

「●歳ですが」



「そりゃ寿命やって言うのは嘘じゃないんや」

「変な嘘をつくやつは自らの自信と周囲の信用を失います」


 話の流れで鴉野の一族は短命である話をしている。

 この辺で男たちは意気投合していた。


「店長は幾つやの」

「二十歳っすね」


「若いな」

「よくしてくれますわ」


「というか、君も最初からこんなんなら喧嘩にならんのに」

「いや、申し訳ない」


 某所でヤクザなクレームは『殴られて警察呼べ』だと聞いていたのでそうしたが、結果的に良くなったらしい。


「しっかし、最近は大変やで。このアタリもどのスジかわからん奴が多くてな。お前みたいに命知らず多くて困るわ」

「スジ解らんのはマジ困りますよね」

 のんきに答える鴉野に、まぁ今後はええ関係モテたらええわと告げる彼。



 鴉野はすっと手を出した。

「だったらお客さんの代わりに罰金お願いします」

「良い根性しているな」


 二人は笑った。

「だって、拉致とかやばい手を使ってでも舐められたら終わりなように、ぼくら商売人も舐められたら終わりなんです」

「終わった話するなや。おもろいな」


「すんません」

「わかったわ。その代わりルールは決めとこうぜ」



 後でその現場検証をすると『そりゃそうなるわ』と鴉野が頭を抱えたのは笑い話である。

 とにもかくにも鴉野は無事五千円を回収した。



 後に、鴉野の話を聞いた会社幹部の皆は新年会議の席でこう述べた。

「カラスノ君は髪を切れ。スジものに間違われていたんや?!」


 鴉野はガリチビであり、長髪にしていたところでキモいオカマ野郎に間違われることはあってもスジものには見えないはずなのだが。

 うん。これは仕方ない。



「Hさん! そんなわけで今日からオカマやりますので、女装関係の手配よろしく?!」

「何処がそんなわけなんですか?! 鴉野さん!? ちゃんと説明プリーズ?!!」


 こうして、鴉野はオカマになることが決定した。

 彼との会話を通して一つ分かったことがある。


『鴉野の仕事は鴉野周辺だけその筋の人もびっくりな危険度』

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