立小便。その大いなる謎
男女が共に生活する場合、真っ先に対立するのはトイレ事情ではないだろうか。家族ならば誰かが我慢することで文字通り水に流していた事実が一気に噴出する。
『誰が掃除するのだ』
まさにくそみそに叱られる案件である。
女性主体の家庭出身の女性は男性主体の家庭出身の男性と共同生活すると、高確率で洋式便座の中蓋が上がったままの便所に座り込んで大惨事を起こす。
とある番組によると洋式便器の水面から高さ10センチ以内にモノを接近させて、西洋便座を跨いだ状態で放尿すると最も周囲に被害を与えずに排尿可能。……とは言うものの、ぶっちゃけ洋式便座って男女ともに跳ねを防ぐ構造じゃないと思う。だって尿を受け入れる場所ってあんなに狭いんだぜ。ズボンをよく汚さないものだ。鴉野は汚す。
究極的には排尿に関しては尿瓶に排尿したほうが汚さずに済む。
あれ? 女性の尿瓶の扱いってどうなっているんだ? 調べてみたら大きな口を別途に装備して押し当てて使用するらしい。こりゃ清潔だな。
立小便は想像を絶するほど周囲に尿跳ねを起こしている。尿跳ねした尿は小さな粒となって便器周辺を盛大に汚す。ここに蓋を開けたまま水を流してしまうとその惨事は凄まじいものと化す。
あの小さな空間で九〇分にわたって浮遊する尿や糞便のかけらをまき散らして家族を疫病の危険にさらすのだ。ユニットバスに歯ブラシを置いてはいけない。女性しかいない家族でも絶対ダメだ。
流体力学を用いて説明する。
水はまとまろうとするので尿が水流の形を維持している距離は12センチ程度らしい(※ 個人差あり)。あとは水滴となるので壮絶に跳ねて世の中のお母様方の敵愾心を刺激する結果となる。まぁそもそも日本の住宅事情では男性小便器がある家庭のほうが珍しいのだが。こうして考えると金隠しを装備した和式便座の合理性に気付く。しかしちょっと待ってほしい。理由は後述する。
ズボンを履いていないならそれでもかまわんが、男のズボンという奴はひざ下まで解放して放尿するならさておき、膝上を維持して裾を床の汚物汚染から防ごうとするとなかなか愉快なことになる。
まず。
立つ。勃起する。
笑っちゃいけないがギンギンになっている。
疲れたなとかなると勃起する。
酒に酔うと勃起する。
ムラっとくると勃起する。
眠くなっても勃起する。
朝起きたらギンギンで奥さんとしているときはガンガンだ。お幸せに。
こんな状態でズボンの所為で股を小さくしか開けない中で排尿などしようものなら便座蓋を弾いて飛び出したレーザービームが天井を汚す。
よしんばそうでなくても便座ふたのR角を直撃した黄色い流体が滝のようにズボンを汚すのである。
射精といって精液を発射する機能をも男性器は備えている。このたんぱく質の不純物を排出する役目をも担う排尿は実に複雑な軌道を描く。
俺の股間がスプレットボム。
右に飛んだり左に飛んだり、分散したり。最悪手に直撃したりありえないことに顔を汚す。
成長途中の子供によくあるが汗などと共に皮膚同士が張り付き、曲がったままの陰茎のまま手元を確認せず発射すると『薙ぎ払え!!』『どうした?! それでももっともトイレを汚した男の末裔か!』となる。
こんなことママに言えるわけがないので『別に』とごまかし、さらに世のママさんの怒りを買っているが子供に罪はない。
今日日の清潔潔癖至上主義で育った若者はパンツの穴からモノを出すことすら躊躇する。結果的に上から出すのだが慌てて出す、あるいは床が汚れている場合パンツのゴムで睾丸を押し上げた実に危険きわまりない発射を強いられることがある。俺のパンツが集団的自衛権。射たねばやられる。射てば憲法記念日でズボン下憲法九条の危機にさらされる。取敢えず、男がトイレ床に汚染された長ズボンを使うのは必要悪。
などと女性は納得しない。自分だってズボン履いてやっているんだ。男もやれ。無理である。
モノが小さいと言われる日本人でも勃起時14センチあるらしいがこれはあくまで勃起時である。男性の多くは仮性包茎であり、当然普段のモノは皮に包まれていたりする。あるいは半端に。
これが陰毛を巻き込んでいてなかなか悲惨だったりする。これをいちいち剥かねばならない。さらにズボンが膝や汗などで引っかかって緊急にもかかわらずズボンを下げられないことがある。
それに加えて毎回男性の陰茎のコンディションは違い、その場によって掌で押し込んでも西洋便座に押し入らない、あるいは暴れて上に飛ぶ。あろうことか半勃起や寒さで完全に委縮した後に毛を巻き込み、体液でくっついて離れないなどなどの暴挙を及ぼし、長さも毎回変わって硬さまで変わるモノがある。長さ5センチから14センチ。如意棒なら嬉しいが、こんな制御できないものならダメだろう。ちなみに極端に寒い場合、陰茎は極端に小さくなり睾丸の中身は体内の溝に収まる大移動を果たす。女性が知らない事実である。この状態で排尿してもやっぱり愉快な結果をもたらす。
睾丸もまた問題児であり、排尿のためズボンによって狭められた股間の太股に挟まることができねばやっぱり排尿を阻害し、これを納めるためには借金のカタにケツ穴をホモに捧げる勢いで狭いトイレ空間にて空に尻を捧げて、婦女子の風呂場に潜入を試みる出歯亀の如く陰茎睾丸を太股の間に納めて挟み込み、尻穴を便座の蓋の上に置くように座って事を為さねばならぬ。鴉野は長年生きてきたが、つい先日になってやっと尻穴を便座の蓋の上におくかのように深めに座れば排尿が楽だとしった。これをコロンブスの卵からウンコロバスのタマと呼ぶことにしよう。普及しないでほしい。
前述した様々な要因が絡み、たいていは男性の壮大な自爆をもってこれらの悲劇は終息する。床で汚れないようにズボンを上げつつ排尿というのは極めてリスクが高い。
世の男性は西洋式便座でも立小便をする。
男の尊厳を男性でも説明できないというが、単純なリスク回避は本能と言っていい。
となると和式便所で座って排尿はとても合理的だと思うが、ズボン、特にぴっちりしたジーンズだと極端に股間を細く圧迫するのでやっぱり自爆の原因となる。和式便座の場合はほぼすべての男性が立ってまま排尿すると思う。まぁ排便時にどうしても排尿してしまう体質の人は少なからずいるのでその場合は別だが最悪なのは排便時に股間が暴れた場合である。盛大にトイレを汚すことになる。それだって和式便所は掃除しやすいメリットがあるのだが掃除する側はたまらない。
かくも男性にとって排尿はリスクを伴う。ズボンを汚さずに済むのならそれでいいやとなってもおかしくはない。
しかし鴉野はいつも謎に思うことがある。
たまに立小便をしたとき、ファスナーの小さな持ち手部分だけ濡れていることがあるのだ。
このピンポイント排尿の正体を誰か教えてほしい。




