過去から来た日記(手紙)
この親にしてこの子ありというが、鴉野の両親曰く極めて普通の人間でおかしく育ったのは鴉野一人であると言う。
父は齢一五にして大阪に出てきて空手と出会い、小さな町工場で妻一人子三人を養いつつ役立たずの親族に足を引っ張られ、酔狂にも無償で空手の先生を延々とやっていた。
暇があったら絵を描いたり書を書いていたり、謎の武器防具やアニメのキャラの紙粘土細工を作り出し、近所の自治会の収入源となっていたようだ。
母は齢一八にして病院に事務として就職。紆余曲折の末商社に勤め上げ、何を間違ったか父と結婚。今にいたる。
これと言って何もなく会社の薦めるままにお勤めを終わらせ、先日、初めて海外旅行に行くというので場所を聞けばエベレスト街道と言う。
エベレストビューホテルは日本人が作った最も高い位置にあるホテルの一つだ。現地の主要な観光施設と相成っており、一般人が生でエベレストを見ることが出来る位置に建っている。
しかし彼女がいうにはその先を友人たち及び現地ガイドと共に旅したいという。行程にして20日である。
行き先はゴーキョピーク。地球の中でも屈指の絶景と言う。
鴉野はイタリア軍人たちの勇気を思い出した。
第二次世界大戦中、収容所にぶち込まれていたイタリア軍人たちは外に見えるケニア山の威容に心を奪われ、登って見たいと思うあまり資材を盗み、装備を自作し、収容所を脱走して欧州初の登頂に成功。堂々帰還して見事飯抜きを喰らったという。即ち止めても無駄である。
このような二人を普通と言うならば、普通とは如何許り強烈なものか問いたいものだが普通なのであろう。
突然だが。家庭の事情により、断食を開始した。
(20××/7/22日の記録より)
過去の日記が出てきたので徒然と記す。
断食開始から24時間を経過。
辛いですかといわれれば全然。
たしかに空腹感はあるにはあるが穏やかなものである。うんこもバッチリ。
古来より、断食は命に関わる苦行として、あるいは悟りを得る手段として、現代では体内の毒素を抜き、余計な老廃物を落とす治療法として使われている。
とはいえ、鴉野が飯を抜いたくらいで悟りを開くならば既に小説など書いていない。
なに。普段バランスのとれたモン食ってるので、少々抜いても死なん。
夕方頃。
鴉野が帰宅しぼんやりしていると、母が帰宅してきたらしく激しくチャイム音が聞こえてきた。多分、買い物帰りの結果、荷物満載で動けぬから助けに来いといった意味であろう。
そういう事で、玄関に母上を迎えに行く事にしたが。
ガラス扉越しに鴉野が見たものは。鍵を空けたり閉めたりして、「空けろ!」とやってる母上であった。あなたは猿か。
鴉野家の玄関の扉は流行りの二重ロック。片方を空けた後もう一方を空ければ開く構造です。
不精物の母上はどうも片方しかロックしていなかったようだが、そんな事はあまり関係がない。
家主のクセに、鍵を持っていて自分の家の鍵が空けられない女。有り得ない。
取り敢えず落ちついてください。暑いからって頭を沸騰させない様に。
荷物を置け。荷物持った手でガチャガチャレバーを動かしても空きません。
ここから本題。
二重ロックと言う事は鍵のかかっている状態を●、かかっていない状態を◇と仮定すると、●●、●◇、◇●、◇◇の4つの状態しか無い事が分かります。
では、左の鍵を空けると◇●、◇◇(解錠)、●●、●◇(閉まる)。
次に試すべきは右か左の鍵を空けて、扉をあけてみる事です。
左側を空けると。●●(やっぱり空かない)、◇●、◇◇(空く)
右側を空けると。◇◇(空く)、●◇、●●
もうこの段階になると。
左側を空けた場合。◇●、●●。
右側を空けた場合。●●、●◇。
だから、次に取る行動は。
左側を空けた場合は逆の右側を空け、(◇◇で空く、●◇)ノブを試して空かなければ左を空ける。
右側を空けた場合は左側を空け、(◇●、◇◇で空く)、空かないようなら右側を空けるといいわけです。
まぁ五回も鍵を回せば普通は空くわけですが。 置けばいい荷物を持ってガチャガチャ大声で騒いでると、空くモンも空くわけがない。
「あんたはサルか!!!!」
大笑いする鴉野。
なんせ鍵をあけてやっても勝手に閉めて余計大声で騒ぐのだ。どうしようもない。
逆切れした母は「食事は作らんッ!」と宣言した。
あなたの息子は成人しているのだが。
仕方ないのでアイスだけ食って寝ることにする鴉野。
自分で食材買って来て喰えばいいのだが、そういわれると「意地でも食わんッ」と言い出す鴉野である。
次の日(今日)は時間調整のため半日出勤。朝食は社長がくれたゼリー。
飲料水として会社が購入してあるキリンの903(スポーツドリンク)を適量。喉が乾けば犬歯の表を舐めてしのぐ。犬か。
昼。取り敢えず近所の料理屋にいって、胃袋を整える為、鳥おじやを頼みます。
最初から断食といわない。死なないことが肝要だ。
余談だが御粥はゲル状の見映えに反して、意外と消化に悪い。これを食う理由は水腹予防である。
あとマトモな食事を後で掻き込んでも耐えられるよう慣れておく意味もある。
帰ると早速アサヒスーパードライ。
余談だがビールは“呑むパン”と言われ、北欧の鍛冶屋さんは仕事中ビール呑み放題。
現在の応援者。昨日Aとみでサービス食わせて頂いた、ウナキモ(ウナギのキモ)。
食べるとすごく元気になる。そろそろ消化吸収の模様。さらば。
体重を量ってみたら5キロ減っていた。
朝のメニュー。アサヒの100%ジュース。癒しとはナニか分かった気がする鴉野。
あとはヤクルトのジョア(ヨーグルト飲料)。だけ。
風呂上りでジョアを飲めば空腹感は押さえられる。鴉野だけか。
少し下腹がべコンとなってるのが気になる所だ。
仕事が休みなので昼までFF。赤魔道師56を上げました。場所はテリガン岬。
FF11やっていない人には関係ない。昼になると流石に腹が減ります。最初のピンチである。
取り敢えず、鉄分が欲しい。元気も欲しい。糖分、脂肪、ミネラル...etc
しかし無いモンはない。今私に食えるものは飲み物だけ。
あと昨日親父がくれたアイスと腐りかけたスイカがありましたが、こいつは食い尽くしました。
では、工夫して作りましょう。
まず、蜂蜜を用意して、こいつに大量のインスタントコーヒーとココアの粉をぶち込む。
よく練ってから牛乳を注いで電子レンジでチン。
微妙に黒い塊がコポコポ言っていますが気にしてはいけない。
一息ついたら、その後、誘われない不人気ジョブ、シーフで誘われているではないですか。
外人さんは徹夜も辞さない。
一人寝ればまた一人補充する彼らに付き合うと6時間は余裕。結構面白かったから良しとする。
元気じゃん。オレ。ヨガの僧侶になれそうだ。と考える鴉野。6時間もゲームするな。
そこに職場のKさんから電話がかかってきました。
K:「鴉野君。一寸言いにくい事だけど」
筆者:「なんです?」
K:「一寸、今日の予定の給料日、手続きの関係で二六日になっちゃったんやわ。ごめん」
筆者:「ははは。別にいいですよ。仕方ないですよ」
二六日まで収入ナシ。
そして、更に恐ろしい事が。
愚弟の部屋を覗くと社長からもらったアサヒの100%果実を飲まれていた。
貴様ぁ?! 給料日が二六日にのびたオレにとっては貴重な糧食を?!
やっぱ無駄に元気だ。昔の筆者。そのエネルギー源を知りたい。マジで。
(20××/07/28 19:12)
記録を読む限り、日記更新に飽き、すきっ腹抱えてFFしていたらしい。
お蔭様でレベル58まで上がったらしい。
「キノコ♪ キノコ♪」
等とのたまりバッタとキノコのキメラという超キモイモンスターに齧り付くキュートな幼児姿のリーダーが実はリアルで固形物食ってないとは外人様でも思わない。中の人などいない。
取り敢えず、企画そのものは日曜日(25日の昼)で終了。最終体重は45キロです。
ありえないほど体重無いな。おい。
(20××/07/21)
前日に続いて休みだったらしい。食事は牛乳。ジョア。自家製クエン酸と砂糖とで味付けした紫蘇ジュース。
何 故 腹 が 減 ら な い 。
誰かコイツに嫁をくれてやれ。マジで。
昼までダラダラFFやっていたようだ。廃人か。
しかも、隣の弟の部屋からもFFの音楽が聞こえたという。同類かよ。
飯はビールを一本。もう突っこむことは無い。
夜になると母親からおまえの其の頑固な性格がと説教。飯抜き期間をネタと認識していたらしい。審議拒否。
その後、一家団欒。ケンカ中でも仲は良い。
「もう良いからお前メシ食え」
父上の言葉により、秋刀魚を食おうとしたようだが。
ふと家事を手伝っている(ケンカしててもやる)間に、「腰もんでくれー」と言われ、父上が寝るともうどうでもよくなったのでそのままビール飲んで寝たらしい。
トコトン喰わない。仙人か。
私の命の水。ポカリスエットは嘘である。ビール。ビール。ビール。
(20××/07/25)
やばい。回る。どうも分解能がなくなったもよう。朝から飲むな。
仕方ないので、栄養補給に近所のスーパーにイオン水を汲みに行くついでに行ってきます。
丸大の酢豚を食い、パン屋の試食パンを食って『パンはいいね。炭水化物の至宝だよ』とワケの分からぬ世迷言をほざき、ファンケルの青汁で人心地とある。断食というより乞食だ。
父上、母上から冷やしうどんを食うように言われて取り合えず今回の実験は終了。
と、いうか3日抜いた程度ではすぐもとの体重に戻るし、さほど効きはしない様だとある。
毒が抜けて健康になれたのが収穫とのことだが、最終体重45キロってなんだ。 貴様は鶏がらか。
一般に言う『5キロ痩せた』というダイエットは 単にうんこが出ただけといえるわけだなとか書いてある。
本来の意味で痩せるのはとてもとても大変だ。『身を削る』のだから。
しかし、ウンコをだしきったとしても普通は45キロまでは落ちない。
気温42℃の職場環境で延々と半断食生活をしていたのである。頭おかしい。
今に始まったことではないことが分かるところが皮肉である。
過去の自分の記録は貴重なことを現代に伝えている。
過去の自分。彼は結論をこう締めくくっていた。
『人間の体重の約一割は。うんこである』