王族のジュリアナさん
「取敢えずディスコにいく」
「鴉野さん。ディスコって五十過ぎのBABAがボディコン着てデカい羽毛つき扇子振り回しているって印象があるのですが」
「え。ご褒美じゃないか」
「ちょ……鴉野さん」
「あれだ、25年前は美形だったとか思うと興奮しね?」
「25年前の美男美女が良いです」
風情のない仮想人格だ。
さて。鴉野は機嫌よく退店して街を歩く。
「なんかすごいものみつけました!」
SNSでいちいち報告しなくていい。鴉野。
ポン引きが寄って来るが無視である。
目的がある場合人間は強い。
鴉野が見つけたのは相席居酒屋であるが、二人以上でないと今日は入場できないと言われたので後日にする。残念。
「(ぼそ)Iさんの地元は三十路以上限定だから……」
にやりと笑う鴉野だがそれは絶対やってはいけない。
鴉野は大好物でもIさんはその限りではない。
相席居酒屋は二人以上の男女グループが相席し、ゲームやらなんやで盛り上がる居酒屋である。
女性は呑み代タダであり、前回鴉野が訪れた婚活バーによく似たシステムだが一緒になって踊ったりオタ芸したりできるところが少々違うらしい。
支店がいくつかあって、三十歳以上限定の店もあって面白いらしいが今回はいけないのでいかない。
というかね。三十路以上って時点で鴉野たちには。いやいうまい。
さらに進むと鴉野の目的地が見えてくる。
大阪の伝説のディスコである。
というか、今どきディスコを名乗る店は珍しい。クラブならあるが。
マハラジャはジュリアナ東京と並び、かつて伝説を築いたディスコだ。
ハニートーストなどもマハラジャが流行らせたらしい。一枚千円。高すぎる。
週に何度かは80年代の曲を流してかつてのギャルやボーイズが楽しむ空間である。
「ワンレンボディコン姿の五十路が見れるかも!(キラキラ)」
鴉野よ。戻ってこい。
入場料金は3000円で良い。女性ならタダだ。
それより重要なのは。
「案外狭いな」
もっともっと広いと思った。
以前訪れたしけたクラブが人いなかったからともいえる。
ああ。思い出したくない記憶がよみがえる。
狭いということは。当然お客さんが入っているということである。
上は七○代から若いのは……鴉野くらい? もっと年上?
「いかん。みんな大人しい」
思いのほかはしゃいでいない。
いや、充分すぎるほどはしゃいでいるのだが最近の五十路って美形だからな。
ピンク○ディーのKさんみたいな人がいる。伏字になっていない。
お立ち台に該当する狭い台に登って踊る女の人は超楽しそうだがさすがにボディコンはいない。お腹は出ているが。
チークタイムに一人で踊る猛者がいるが、鴉野は声をかけられなかった。
充分派手だし、騒がしいのだが皆大人だ。良い意味で大人だ。
その表情は子供のように輝き、仲良く夫婦で踊る姿。
「場違い。かな」
肩をすくめる鴉野。
早くもビールを空にする。
「踊っていないじゃない」
美人さんが声をかけてくれたのでしばし会話を楽しむ。
「若い子は別の日よ。今日は年輩だけ」
「はは。御冗談を。みなさん私より若いでしょう」
というか、ガチでそう感じるんだからすごい。
騒いでいるのに理知的になってしまうのは大人ゆえなのだろうか。
夢よ。醒めるな。
鴉野は退店した。
かつての若人たちは今日も変わらずあの店にいる。




