ゲイパブ逝ってきたけどなんか質問ある? 犬も歩けば棒で殴られる。鴉野歩けば電車止まる
「●駅で転落が発生しました。○駅にて停止します」
鴉野はちょうどその○駅にいた。
「ゲイバー行ってきます」
言った直後の話である。
犬も歩けば棒に当たるというが、人が飛び降りるのは穏やかではない。
幸いなことに死傷事故ではなかったのですぐ運行再開になったが、にしたってなぁ。
「うーん。早く来すぎた」
他の店に入る余裕を手に入れるために若干早めに出たのが幸いしたが、ゲイバーに行くのは少々早かった。まだ午後七時になっていない。
取敢えず営業時間を待ってエレベータに乗ろうとすると綺麗な女性が自転車抱えてやってきた。出勤らしい。
長身で痩せすぎず太っていなく、そこそこ鍛えていて美人に入る。
「あ。どぞ」
その『彼女』は鴉野指定と同じ階を選択した。
もうこの時点でファンタジーの世界だった。
「早く来すぎた」
繰り言になるが『女の子』がまだ出勤していない状態だった。
いや、厳密に言えば着替え中である。
変身変身かげで鬱死。
間違っても歌詞ではない。
なろう規約に抵触する。
ほどなくして鴉野の隣に美人さんが座った。
程よい大きさのおっぱいに鴉野の視線がぶち当たった。
美人である。
『男の子とか考えるのやーめた』
普通に美人だし。
話を聞くと一九歳らしい。
いつも『からすのさーん。俺の代わりに小説書け』という友人と同い年である。
覚悟完了しているなあ。偉いな。
「あの。お客さん」
「はい」
「席と席の間に座っていますよ」
「げ」
「エビフライを尻尾から匙ですくって食べる方は初めてみました」
「ぎょ?!」
鴉野は緊張して石になっていたらしい。
気づかなかった。
「不思議ちゃんですね」
そうおっしゃるのは某トクサツ大好きで某黒い騎士のゲストキャラにノーギャラ出演した俳優と同い年のお姉さんである。
ママのトークを信じるならば。
「はる○愛は彼女が育てた」
すごいな。
住んでいる場所とかを呑みながら話す鴉野だが、ウイスキーをロックでちびちびと呑む客なんて普通にシケた客なので話は盛り上がらない。
あっちではもっと『ハイハイハイ』と叫んでいるのに。
もっともあっちの担当はギャグ担当の『ご婦人』であるが。
別の席では凄まじい美人が三人座ったがあの人たちも。である。
ママ曰く。
『何度注意してもうちの子に惚れた。奥さんから莫大な慰謝料請求されたという方がいらっしゃいます。おかまはお金がかかります。お店の中は夢の中。外に出たら忘れましょう。
金は天下の回り物。元気に仕事して憂さを晴らして、またいらっしゃい(概要)』
シケた客だが一人は未成年なので当然ウーロン茶になる。
しかしアルコールハラスメントをするお客さんは一応いるらしい。
「そういうときはどうされるのですか」
「男に戻ります」
逆らいません。
ごめんなさい。許してください。
当たり前だがこういう店で呑む場合相応の値段になる。
ぶっちゃけ二人で来たほうが呑み放題が適用されるのでIさんをガチで拉致しても良かったのだが、そんな目先の利益とかは。
「え? 見えない見えない。最年長なんて見えない」
「ほんとよ。ショーの練習するとき腰が痛いのだから」
「元気な人ほど歳取ったという法則!」
「だんだんお客さんの扱い方がわかってきたわ」
こんなとこくる時点で。ねえ?
お金は使ってこそ価値がある。
面白い体験があるなら別にいいじゃないか。
有人と愉しむために、友人を愉しませるために。
高い酒を呑んで好いのだ。
やがて幕が下り、ショーが始まった。
きらびやかなショーが終われば本日は退店となる。
「いってくるね」
「いってらっしゃい!」
投げキスして舞台に向かうニューハーフの皆様。
今どきのショーは3Dだのなんだの駆使して豪華だ。
華やかなドレスや民族衣装に早着替え。
男性らしい伸び伸びとした歌声は歌の力を再認識させてくれる。
それでいて女性らしいたおやかさや色気も忘れない。
夢なら夢。
ゆえに努力する。
持っているから油断しない。
持っていないからこそ努力する。
そして努力の姿は見せない。
それこそ女の美しさであり男らしさである。
いえーい。
スカートが翻った。
股間にバナナのぬいぐるみがついていた。流石だ。
爆笑するお客さんに迫る『お姉さん』。
「はーい! タッチ!」
微妙にセクハラな気もする?
気にするな。これはバナナのぬいぐるみだ。
なんか剥いて遊べる凝った仕様だがマジ気にするな。
言っておくがここはフェイク抜きでぬいぐるみでナマモノは出ていないからな?!
はじめはタッパのある見栄えのある『女の子』が出て、終始デヴキャラの女の子が早着替えに機敏なダンスの大活躍。
あれが三倍速で動くリッ○ドムか。
俺を踏み台にしたな。
されたら鴉野は潰れる。
「54キロ? 158あるかないか? 細い?! 顔小さい! 女の子やん!」
「大変遺憾なのですが、事実です」
「え? でもすっごく筋肉ある」
「みたいですね」
こんな会話もしたが、鴉野が女装経験者なんてとてもじゃないが言えない。あっちは人生かけている。
というかだな。
終盤、トップレスの演出があったが、長身だわ足長いわウエスト超細いわおっぱいでかくてきれいだわ。
「ああ。アレは本物より作ってる。本物に勝ってる」
あんだけ絞って鍛えるのは並みの努力ではできない。
ママが女の子は自分を磨きなさいというわけだ。
持っているから放置はよくないのだ。
ため込んだお金も腐らせない。
無駄遣いはせず、考えて考え抜いて有効に使ってこそ生きる。
転じて人が良きる(活きる、生きる)意味を彼女らは教えてくれる。
嫉妬もこだわりも逆恨みも投げ捨ててしまえ。
投げっぱなしジャーマンで投げ飛ばし、一皮むけた鴉野は満足して退店した。
「ちんk~!」
本当にむけたのかよ。
写真を撮っていいかというと皆さん快く応じてくれた。
Facebookなどに利用していいとのことなので修正はいれていない。
本物はもっと綺麗だったので鴉野の撮影技術に問題がある。
そして。
「Iさーん!」
「?? 鴉野さんどうされました?」
「プレゼントです。あ。実際の御代は結構」
「」
I氏はこの程度の領収書は経費で落とせるが、税理士さんに如何に説明なさるのか興味の尽きぬ案件である。




